第二話 幸運にも転生しました
―バイト先からの帰り道
「・・・よし。目標金額も目前か。父さんと母さんには海外旅行なんてどうだろう。いや、ここはやはり高級料理か?」
そんなことをぶつぶつとつぶやきながら帰路につく俺。
周りからすれば模範的な不審者といったところだろうか。長く伸びた髪は月明かりの下でいっそう怪しさを増している。
もうすぐだ ― ようやく恩返しできる。飯をくれた、服もくれた、悪態をついても決して俺を邪魔者扱いしなかった、それらすべてに感謝している。
が、不運からは逃れられない。奴らは決まってささやかな喜びや決意を抱いた時にやってくる。
実をいうと俺の不運は年齢を重ねるにつれて次第にエスカレートしていた。かつては先生に叱られる程度だったが最近ではバイト先の作業機械に挟まれ左腕と肩の骨を折った。退院してバイトに復帰した今でも痛みは残っている。
ついに今宵、不運は俺の”死”へと収束する。
歩いていた俺は頭上で ガラン と重い音を聞いた。
中空を見上げたその瞬間、
俺の体を鉄骨が貫いた。
「あ・・あがっ・・ごっうぶぁ・・・」
声にならない声は己の意思と裏腹にまったく響いてくれない。
郊外の小さな路地で声を上げたところで意味などないが。
背中が熱い。少し動くだけで激痛が走る。空から降ってきた鉄の矢は肉を裂き骨を砕き内臓を破壊した。
(はは・・なんだよこれ)
血は容赦なく流れ行き、俺の命を奪おうと必死だ。月の光も相まって、その朱は美しく照り映えるはなのようだ。
(なんでこんなことに・・なっちまったのかなぁ・・・)
そして俺は体の血で染め、顔を涙で染め深い深い奈落へと落ちていった。
どれくらい経ったのか
あるいは時間など経ってはいないのか
とにかくはっきりしていることは一つ
俺は―――生きている!
頬を易しく撫でる風、鳥のさえずり、そして俺の心臓の鼓動がそれを証明していた。季節は春だろうか。
可愛らしいドラゴンも空を駆け回っている。平和なことだ。
・・・ドラゴン?
「な、な、なんだここはぁぁあ?!」
ガバッと起き上がると俺は自分が
小高い丘にいることに気づいた。見下ろした先には人々で賑わう町があった。
空飛ぶ竜とその背に乗った兵士、動力がよくわからん乗り物
見た目はいかにもヨーロッパ感のある城下町だがどうやら俺の元居た世界ではないらしい。
「待っててくれよ。必ず会いに行くから。」
俺は自分に言い聞かせるようにそうつぶやくと、大きく一歩を踏み出した。
―魔法皇庁・某室内―
《いかがなさいました、魔法師聖様》
《「ステラ」の震えを感じたのだ》
《よくあることでは?》
《ふむ・・。》
ブックマーク等、よろしくお願いします。<(_ _)>
次回から大きく動く予定です。