第一話 幸運にもバイト始めました
月宮幸太郎、どこにでもいる25歳。
思えば今までいいことなんて何一つありはしなかった。
否、アンラッキーなことが俺の周りで起こり過ぎているのだ。___はぁ、笑えない
令和のアンラッキーマンこと俺の人生を振り返ってみることにしよう。
―幸太郎7歳、小学校にて―
「こうたろう待ってー」
「なかみち遅いぞー」
俺は親友の中道と運動会の目玉、全校リレーの練習をしていた。
小学校なんて言う単純な世界では足が速いだけで人気者になれたりする、そうだろ?
それに、当時の俺にとって友人との交流は大切なものだった。
―刹那、強風が吹き付け飛ばされた石が校舎のガラスを粉砕した。
「こらあぁあ!!またお前か、幸太郎!!」
鬼教師の山田がまさに鬼のような形相で現れた。
実をいうと俺は今朝、適当に蹴った石が山田の愛車にクリーンヒットし、熱い説教をくらっていたのだ。
「ち、違いますよ先生。今のは強風で・・・」
「そんな言い訳が通じるとでも?とにかく職員室に来い!」
「おい、なかみちも何とか言ってくれよ・・。」
振り返るとそこにはすでに中道の姿はなく、俺をあざ笑う連中がいるだけだった。
俺は一人で長時間の理不尽な説教を受けたのだ。
後で知ったことだが、中道は俺の周りにいることで不運な目にあう事に対して嫌気がさしていたらしい。
親友の”裏切り”―小学生の俺の心にそれは深く突き刺さった。
―幸太郎13歳、中学にて―
かれこれ、幾度となく不運を経験し俺の心は完全に荒んでいた。
クラス内のあだ名は「疫病神」
周りに不運をもたらす俺は嫌われ者だった。俺の所属するクラスの体育祭・音楽祭の順位は常に最下位、
修学旅行ではバスが横転し俺を含めた数名が病院に搬送された。常にトラブルの渦中にいる俺に対して教師すら冷めた視線を送ってきた。部活も途中でやめ、帰り道で不良に絡まれるのが日課になっていた――思い出すだけで吐き気がする。
親には楽しい学校生活だと嘘をついた。家族まで悲しい気分にしたくはない、そんな気持ちがあったからだ。
相談相手はもういない
なぜ――なぜ俺ばかりこんな目に・・・・
その後も俺は、”不運が招いた不幸”に悩まされ続け中学卒業と同時に自室に引きこもり始めた。
親に迷惑をかけまいとする俺はもういなかった。
「幸太郎。たまにはお母さんと一緒にご飯食べない?」
「うるせぇ!!俺に近寄んな!!」
長い月日の中で俺の中に形成された陰鬱な性格は簡単に取り除くことなどできはしない。
そんな俺でも心の底で誰かに助けてほしいと願っていた。
5年たって、俺はふと思った。
「そうだ、バイトしよう。」
俺は引きこもり始めてからの約5年間、文句ひとつ言わず俺の世話をしてくれた両親に恩返しがしたかった。金をためてプレゼントなんかどうだろう。
そうだ、それがいい。
俺は感謝を形にしたかったのだ。
学歴・職歴不問―広告の見出しに惹かれ俺の始めたバイトは夜間の工場清掃員だった。運動不足の俺にとってはじめは骨の折れる作業だったが次第に要領がよくなり、目標金額は目前に迫っていた―
そして俺は”怪異”に巻き込まれる―――――――