導入
八十近い老夫婦が営む雑貨屋。しかしそれは名ばかりで昔ながらの菓子や惣菜パン等を主に扱っているせいか近所の小学生達は口を揃えて駄菓子屋と呼ぶ。
その店先にある大手飲料メーカーのロゴが入っている小休憩用のベンチに腰を掛け、凍ったチューブ状のゼリーを噛む。冷っ。
一息ついて空を仰ぐ。
自分の思考が纏まらない。
いや、纏まってはいるのだけれどそれを言葉として発する為の語彙がない。自ら新たな言葉を作り出し世に発信出来る中高生が羨ましくてしょうがない。僕もその端くれだけど。
其れ即ちある種の嫉妬。冷っ。
自己表現で決定的なアドバンテージを誇る若者の中から零れ、常に落下状態に陥ている。どんなにしがみついて対応しようとしても永遠と追いつけることはない。悲しいかな、諸行無常。冷っ。
たかがそんなこと、去れどそんなこと。どんなに悩みもがいてても結局輪廻に嵌る。俯き頭を掻き毟り、そして再び空を仰ぐが何も変わらず。
どうしようもない。同じように話したい、振舞いたい。
自我、思考、欲望。
もうこんなことに頭を抱えてわーわー言っているのは阿呆だ。重い頭と腰を持ち上げ空になったチューブをゴミ箱に捨てふらふらと歩きだす。
僕は左手小指で鼻をほじる。あーあ、しょうもな。帰ろうかな。