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赤ずきんの姉弟

作者: カワチ



 むかしむかし、あるところに、二人の姉弟がいました。


 姉はとても可愛らしい子で、みんなに甘やかされて育ちました。そのせいか、誕生日にスマホを与えてから、毎日ゲームをするようになり、お母さんは困り果てていました。


 弟はとてもおとなしい子で、暇さえあれば本を読んで過ごしていました。そのため、見かけによらず博識で、おかあさんの手伝いをするいい子に育ちました。


 ある時、二人をとてもかわいがるおばあさんが赤いずきんを作ってくれました。


 弟はとても気に入って、赤いずきん以外を被らないようになりましたが、姉は一度も被ることはありませんでした。


 赤いずきんを常に被る弟の姿を見た人たちは、いつしか『赤ずきん』と呼ぶようになりました。


 そんなある日、おかあさんは二人を呼んでこう言いました。


「二人とも、これをおばあさんのところへ持って行ってほしいの」


 おかあさんが持ってきたのは、一つのケーキと一本のワイン。


「おばあさんが病気で弱っているから、これを持ってお見舞いに行ってきてちょうだい」


「おばあちゃん、病気大丈夫かな?」


 心配そうに、弟がお母さんに聞きました。


「大丈夫よ。これを持っていけば、必ず元気になるから」


「だったら、病気に効く薬草を取ってくる」


 弟は勢いよく立ち上がると、薬草を取りに走って出て行きました。


 一方、姉はスマホから視線を外さず、こう言いました。


「あたし、行かないからね。今、ゲームのイベントで忙しいから」


「何言ってるの。おばあちゃんはあんたたちをとても可愛がっているじゃない。それに、お母さんは隣町のスーパーでタイムセールの大根を買いに行くから、無理なの」


「そんなの近くでもいいでしょ、二、三円しか変わらないのにー」


「良くないわよ! たった三円でも、どれだけ生活費に影響があるかわかる! 三円分生活費を削るのに、私がどれだけ命を削ってるかーー」


「わかったから、わかったから」


 お母さんの剣幕に、姉が渋々了承する。


 溜息を吐くのを我慢しているように、姉が顔をしかめる。


「行けばいいんでしょ、行けば」


 そう吐き捨ててスマホを操作し続ける姉に、お母さんは大きなため息を吐く。


「もうお姉さんなんだから、しっかりしなさい」


「なりたくて、なったわけじゃないし」


 お母さんは更にため息を吐く。


 しばらくして、弟が薬草を取って帰ってくると、カゴの中に散らばらないようにそっと入れる。


 お母さんは二人の目を見入るように、交互に見る。


「二人とも、寄り道をしないでまっすぐおばあちゃんの家に向かうのよ」


「わかってるって」


 姉がスマホをポケットに入れると、重そうに体を起こす。


 母からワインとケーキが入ったカゴを受け取ると、一人で外に出る。弟が、遅れて後を追った。




 しばらくして森の中に入ると、スマホをいじりながら歩く姉が先に歩く。カゴを両手で持った弟が後をついていく。


 おばあさんの家は、村から三十分歩いた森の中にあるのでした。


「もう最悪。ここ、圏外なんだけど」


「姉さん、カゴ重たい」


 スマホを操作したまま、姉は振り返らずに返事をする。


「今ゲームで忙しいから、無理」


「圏外ってさっき言ってたじゃん」


「うるさい! ともかく、黙ってて!」


 弟が姉の背中をじっと見つめたまま歩いていると、二足歩行のオオカミが現れました。


「こんにちは」


「……」


 笑顔を浮かべて挨拶をしたオオカミだが、二人は何もなかったかのように通り過ぎる。


「あの、ちょっと、お二人さん」


「……」


 追いかけたオオカミがもう一度声をかけるが、無視される。


 オオカミは慌てて肩に手をかける。瞬間、振り返った姉がオオカミの手を勢いよく払う。


「触んないで! 今、ゲームで忙しいの!」


「す、すいません」


 なぜ無視された自分が怒られているのか疑問に思いつつも、オオカミは素直に謝る。


「ていうか、獣くさいからもうちょっと離れて」


 まるで汚いものを見ているように顔をしかめる姉に言われて、オオカミが距離をとる。


「で、何か用? 今、忙しいんだけど」


「……そもそも、ここって圏外じゃ?」


「何、私が嘘言ってるっての」


「あ、いえ、そんなことないです」


 絶対零度の視線を投げかけられて、オオカミが慌てて咳払いをする。


「こんな森の中まできて、二人はどこに行くんだい?」


「おばあちゃんのとこにお見舞いに行くだけよ」


「へー、そうなんだ」


 オオカミは二人に気づかれないようにニヤリと笑う。そして、いつの間にか姉の背後にいる弟が持つカゴが目に入る。


「君の持っているカゴには何が入っているんだい」


「……お酒とケーキと薬草」


 恐る恐ると、姉の背中から顔を出している弟が答える。


 オオカミがニッコリと笑顔を浮かべる。


「おばあさんの家って、どこにあるんだい?」


 今度は、スマホから視線を外さない姉が答える。


「この先にある大きな木が三本立っている近くの家よ」


「へえ、そうなのかー」


 相槌を打つオオカミの脳裏にある考えが浮かびました。


(この脂がのっておいしそうな二人を食ってやろう。ついでに、ばあさんもいただいてやるか)


 オオカミは密かに笑うと、二人にこう告げる。


「お二人さん、あそこに咲いている花を見てごらん」


 オオカミが二人の背後を指差すと、弟が振り返る。姉が重そうに顔を上げて、視線を向ける。


 そこには綺麗に咲き乱れる花畑がありました。


「せっかくだから、おばあさんのために花を摘んで渡したらどうだい?」


「嫌よ。ゲームで忙しいから」


 姉のしかめる顔を見て、次に弟を標的にする。


「だったら、弟君はどうだい?」


「うん、そうだね、おばあちゃんはお花が好きだったし」


 弟が姉へと顔を向ける。


「お姉ちゃん一緒にお花を摘みに行こうよ」


「絶対嫌。やるなら一人でやって」


 姉は心底嫌そうに吐き捨てて、近くにあった石に座り込んでゲームを続ける。


 仕方なく、弟は一人で花を摘みに行きました。


 弟が花畑で花を摘んでいるのを確認したオオカミが、急いでおばあさんの家に走って行きました。


 おばあさんの家の前まで来ると、トントンと扉を叩く。


「はいはい、どなたですか?」


 おばあさんのくぐもった声が、扉越しに聞こえました。


 オオカミはニヤリと笑みを浮かべると、


「おばあさん、私よ、私」


「ワタシ、さん? はて、そんな人知り会いにいたかね」


「違うわ、私よ。お姉ちゃんよ」


「ああ、お姉ちゃんかい。遠いのによく来てくれたね」


 嬉しそうなおばあさんの声。


「ケーキとぶどう酒を持ってきたの。開けてちょうだい」


「病気で起きられないから、扉を開けて入っておいで」


 オオカミは扉を開けると、ベッドで寝ているおばあさんの元にすばやく近づく。そして、バッとカーテンを開けると、おばあさんが叫ぶ前に飲み込みました。


 それから、おばあさんが来ていた服を着てずきんを被ると、机の上にあった消臭剤を部屋中に撒き散らす。


 オオカミは姉に言われたことを気にしていたのです。


 そして、おばあさんが寝ていたベッドで横になって、カーテンを閉めました。


 一方、その頃、花を摘み終えた弟は姉と一緒におばあさんの家へ向かっていました。


 すると、今度は辺りをキョロキョロと見渡す猟師と会いました。


 猟師は姉弟と目が合うと、一目散に走ってきました。


「よかった! やっと誰かに会えたよぉぉぉぉ!」


 猟師が涙ながらに泣いているのを見て、姉が顔をしかめる。


 急いで姉の背中に隠れた弟は、猟師に声をかける。


「どうしたんですか、おじさん?」


「私は猟師でね、オオカミを追っていたんだが、森に迷ってしまってね」


「猟師が森で迷うって、ダサ」


 姉の辛辣な言葉に、猟師は苦笑いを浮かべる。


「ははは、本当にそうだね。ところで、二人はオオカミを見なかったかい?」


「オオカミなら、さっき会いましたよ」


「え、どこで?」


「森の中です。いつの間にか、どこかに行っちゃったみたいだけど」


 弟の言葉を聞いて、猟師が落胆したように溜息を吐く。


「途中で携帯に着信が来なかったら、気付かれずに仕留めることができたのに」


「え? ここって圏外じゃないの」


 興味なくスマホをしていた姉が、予想外の言葉を聞いて顔を上げる。


「いや、もう少し先に行った休憩所にフリーWi-Fiがあるんだよ」


「なんで、こんな所に休憩所があるんですか?」


「さあ? なんでも、森に住む七人の小人が作ったらしいけど」


「そんなのどうでもいいのよ。ともかく、そこならイベントできるじゃん」


 姉が猟師に詰め寄り、胸ぐらをつかむ。


「そろそろスタミナも回復するし、その場所に案内して」


「え、あの、ちょっと」


 姉の突然の行動に、猟師が目を白黒させる。


「でも、お姉ちゃん。おばあちゃんの所に行かないと」


「そんなの、あんただけでいけばいいでしょ」


 弟が制止の声を上げるが、姉は全く聞く耳を持たない。


「後で私も行くから、先に行っといて」


 そう言い残すと、猟師を引っ張って森の奥へと消えていった。


 突然、森で一人にされた弟は心細かったので、急いでおばあさんの家に向かいました。すると、おばあさんの家の扉が開いているのに気付きました。


 病気のおばあさんが家の戸を開けたままにするのは変だと思いながらも、恐る恐る家の中を覗く。


「おばあちゃん、いるの?」


 弟の声は家の中で虚しく響きました。


 弟はいつもとは違うおばあさんの家に思わず、唾を飲み込みました。そして、意を決して家の中に入り、カーテンが閉められたベッドまで来ました。


 おばあさんのベッドの周りには、なぜか爽やかな匂いが漂っていました。


「おばあさん、カーテンを開けるね」


 ゆっくりとカーテンを開けると、おばあさんは横になっていました。が、やっぱり、いつもと様子が違うような気がしました。


「おばあさんって、こんなに耳が大きかったっけ?」


「それはね、お前たち姉弟の声をよく聞こえるようにするためさ」


「おばあさんって、こんなに目が大きかったっけ?」


「それはね、お前たちの可愛い姿をよく見えるようにするためさ」


「おばあさんって、こんなに大きな手だったっけ?」


「それはね、お前たちをよくつかめるようにするためさ」


「おばあさんって、こんなに大きい口だったっけ?」


「それはね」


 おばあさんがベッドから起き上がる。その姿には、弱々しい印象はなく、黒い毛皮はまるでオオカミのように見えーー


「お前を食べるためさ!」


 弟がおばあさんの正体がオオカミだと気付いた時と同時に、食べられました。


 オオカミは姉がいないことに気づき、姉を待つためにもう一度ベットに寝転がりました。が、いくら待っても来ない

ので、いつの間にか眠ってしまいました。


 お腹に入った弟は、オオカミのいびきが聞こえたことに気づき、声を上げる。


「おばあちゃん、生きてる?」


「あん、なんだって」


「よかった。生きてる」


 弟は安堵の息を吐く。どうやって脱出しようかと考えてみるが、持っているのはポケットにあるスマホだけだった。


「後は、姉さんに気づいてもらうしかない」


 そう呟いて、弟は震える両手を祈るように組んでいました。




 その頃、姉は休憩所でのんびりとゲームをしていました。その隣では、猟師がぐったりと椅子に背を預けていた。


「弟君、ほったらかしでいいの?」


「大丈夫よ、あいつは一人でなんでも出来るんだから」


「それでも、やっぱり心細いんじゃないかな」


 姉はスマホから視線を外さない。


「一人で行く時も悲しそうな顔していたし、今頃森で迷って泣いてるかもしれないよ」


 姉はスマホから視線を外さない。


「それに、気づいてる? 弟君、ずっと君の背中に隠れてたでしょ」


 姉はスマホから視線を外さない。


「きっと、君のことを頼りにしてるんじゃない?」


 姉はしばらくスマホを操作した後、面倒臭そうに溜息を吐いて立ち上がる。


「お母さんに寄り道したことチクられても面倒だし、今から行ってくるわ。ゲームのスタミナも切れたしね」


「うん、その方がいいと思うよ」


 猟師が堪えきれずに笑っているのに気付き、姉が鋭い視線を送る。


「なによ」


「いや、素直じゃないなと思って」


「ふん」


 そう言うと、脇目も振らずに走っていくのを猟師が見送る。


「あ、待って。僕がまた迷子になっちゃうじゃん」


 森の奥に消えていく姉の背中を、猟師は必死に追いかける。


 姉がおばあさんの家まで来ると、扉が開いた家の中から大きないびきが聞こえるのに気づく。


「おばあちゃんのいびきってこんなに大きかったっけ?」


 違和感を感じながらも、家に入り、ベッドのところまで行く。すると、そこには見覚えのあるオオカミが、大の字になって眠っていました。


「なんで、オオカミが」


 驚きで目を見開き、あとずさる。その時、足に何かが当たり、視線を下ろすと、



 ーーそれは、ケーキとワインが入っていたカゴだった。



 辺りが真っ暗になったように感じた。


「あたしのせいだ、あたしの」


 姉は激しく後悔しました。


 何故、あの時一緒に行ってやらなかったのか。

 何故、もっと早くおばあさんの家に行かなかったのか。

 何故、もっと弟に優しくできなかったのか。


 カゴから飛び出している花を拾う。


 花畑では綺麗に見えた花は、水を与えれれていないためか、少し色褪せていた。


 花を握りつぶしてしまうほど、両手で握りしめる。


「ごめん、ごめんね。ダメなお姉ちゃんで、ごめんね」


 姉が床に崩れ落ちる。


「あ、あの、どうしたの」


 息を切れ切れにした猟師が、家の扉から顔を出す。


 床に座り込んで泣き出しそうな顔の姉を見て、慌てて駆け寄って背中をさする。そして、ベッドにいるオオカミに気づく。


「弟君やおばあさんは、もう……」


 その言葉で、涙が溢れそうになり、大の字で呑気で寝ているオオカミを睨みつけた。が、その時、オオカミのお腹がボコっと膨れたり、凹んだりを繰り替えしていることに気づく。


 呼吸をしているからかと思ったが、それにしては規則的ではなく、デタラメなリズムだった。


「ねえ、あれ何」


 姉が震える指で指し示すと、猟師が驚きを浮かべる。そして、オオカミを起こさないように、そっと触れる。


「もしかしたら、弟君はまだ生きてるのかも」


 それを聞いた姉が、猟師に詰め寄る。


「どうしたらいいの! どうしたら助けられるの!」


「落ち着いて。僕に任せて」


 猟師が姉を引き剥がすと、はさみを見つける。


 はさみを手に取ると、オオカミのお腹を迷うことなく直線に切る。オオカミのお腹を半分以上切り裂くと、中から弟の頭が飛び出しました。


「怖かった~」


 そう言うと、弟がおばあさんを連れて這い出てくる。


「おばあちゃん、大丈夫」


「あん、なんだって」


「うん、元気みたい」


 苦笑した弟がそう言った直後、姉に飛びつかれて倒れそうになる。


「お、お姉ちゃん⁉︎」


「よかった、よかったよぉぉぉぉぉ」


「お姉ちゃん、く、苦しい」


 姉に力一杯に抱き絞められて、弟はされるがままだった。その光景を見た猟師が微笑ましい気分になったのもつかの間、お腹がぱっくりと開いたオオカミを見る。


「さて、こいつはどうしようか?」


 猟師の言葉を聞いて、抱きしめられた姉の体から、弟が細い声で返事をする。


「そ、それなら、庭にある大きな石を詰めたらいいよ」


 そう言われた猟師は庭に出て大きな石をなんとか持ってくると、オオカミのお腹に詰める。そして、弟の指示で四人がクローゼットに隠れる。


 しばらくして、オオカミが目をさます。


「あー、喉乾いたー」


 オオカミは床に落ちてあるワインに手を伸ばそうとすると、バランスを崩して、そのまま転がり落ちてしまう。


「あ、あれ、なんでだ」


 ベットに手をかけてなんとか立ち上がると、床のカゴを取ろうと手を伸ばす。が、いくら手を伸ばして触れることができない。


 仕方なく、庭にある水飲み場に行くために外に出ると、またもバランスを崩して倒れてしまい、そのままどんどんと森の中へと転がっていきました。


 一部始終を見ていた四人がクローゼットから出ると、大喜びでした。その後、おばあさんと猟師はワインを飲み、姉弟はケーキを仲良く分けて食べました。


 それから、姉は弟に優しくなり、ゲームも頻繁にはやらなくなりました。そして、姉は赤いずきんをかぶるようになり、二人は赤ずきんの姉弟と呼ばれるようになりました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 赤ずきんという昔の物語を現代風にアレンジしていて発想が面白かったです。 [気になる点] 最後の展開がいまいちよく分からなかったです。 特に弟がどこに行ったのか最後の方がよく分からなかった…
2018/01/20 11:49 kobayashinitya
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