デパート
わんこ系先輩×中二病眼鏡後輩です
二人にはいろいろ設定ありますが
気になった方は「フリーゲーム 中二病学園シリーズ」や「中二病スクールナイト」で検索してください
鏡はほくほくしていた。
少なくとも会長の目にはそう見えた。鏡はその顔から喜びを溢していた。
非常に珍しい光景で、会長も横目に、いや、しっかりと鏡の顔を眺めていた。できることなら写真に撮りたいほどだった。
鏡が抑えきれないほど喜ぶとき。それはお気に入りの作家の新書を手に入れたときだ。
鏡が生徒会の仕事も早々に帰ろうとしていたのを見抜いてか、会長はその用事に鏡に付き添いたいと願い出た。それは思いの外あっさり承諾された。
「まあ、予約していた本を取りに行くだけですし……」
そう答える鏡は冷静に振る舞っているのか、または会長がなぜこんな用事に付き合いたいのか理解しかねているようだった。
そういったわけで、鏡と会長は駅周辺の大型デパートに来ていた。鏡曰くそこの本屋は本を予約するには都合の良い場所らしい。
本を受け取りさえすれば鏡はすぐにでも帰宅し読書にふけりたいのだろう。
会長はそんな鏡の心理を把握していた。だからこのあとお茶にでも行かないか?などと誘いづらい。
それでも鏡の用事に自ら付き合うのは、この特別な境遇でしか見られない鏡の浮き足立つ表情を見るためだ。
好きな人が好きなものを見て喜ぶ顔を見るのはなんとなく幸せなものであり。
自分にはそんな顔してくれないのにな、なんてちくっとした小さな嫉妬も覚えつつ。それでも楽しそうな鏡はいとおしいから。
「よかったね、小説購入できて」
その会長の言葉に濁りはない。皮肉などもなく純粋な祝福だ。
「はい! ……あ、えっと」
素直な会長の言葉に思わず素直な喜びを示してしまい、あとから羞恥に言葉を濁す。
やっぱり鏡君はかわいいなぁと彼の反応を見て会長も嬉しく感じていた。
エスカレーターで地上階へ向かう。視界に流れむ様々な商品達。
会長はそれを見るとなく見ていた。鏡に至っては入手した本への期待で景色すら見ていなかっただろう。
ふと降りて行く先を見れば女性下着があるフロアがあった。
フリルのついた高級そうなパンティが会長の意識の中に入ってきた。唐突に思ったことを口にしてしまう。
「女性下着か……鏡君に似合うかな?」
「はぁ?!」
突拍子もないことを言われてさすがの鏡もすっとんきょうな声が出る。
エスカレーターから降りたとき会長は鏡の腕を引いて立ち止まり、フロアを眺める。
「鏡君にはどれが似合うかな。何色がいいと思う?」
「……正気か?」
変態的な発言を平然と当たり前のように話す会長に鏡はもはや会長の気を疑い始める。
会長としてはかわいい鏡君にかわいい下着を着せるのはなんらおかしいこととは思っていない。たとえそれが異性の下着であれ。
「鏡君って普段どんな下着着てるの?」
会長の関心は鏡の下着へ向かう。
「今自分が何話してるのかわかってます?」
鏡は本気で会長の思考についていけない。
「教えてくれないならこの下着を鏡君が着ているのを想像するね」
「今日穿いてるのは青のトランクスです!」
会長の発言に寒気を覚えた鏡は即座に自分の下着について答えた。屈辱だった。
「青か……なるほど。でもせっかくならピンクとか黒と赤の組み合わせとか着せてみたいなぁ」
会長が真面目に女性下着を探しそうになったので鏡は会長をその場から引き剥がす。
「やめてください! 帰りますよ! もう帰る!」
純粋な鏡としては男子高校生二人がこんな場所にいる恥ずかしさが余計愛極まるのだ。会長を引きずりエスカレーターを降りて行く。
「うーん、似合うはずなんだけどなぁ」
「勘弁してください……!」
鏡は顔を赤くして控えめに怒った。その顔を会長は嬉しそうに眺めるのだ。
本だけではなく、自分も鏡の表情を変えれることに、会長は喜びを感じたのであった。