嘘
生前、祖母はこんな事を言っていた。
「みんな、なんも話してくれないんだもんな」
独特な東北訛りで、かわいらしい高い声で、悲しい一言。
でも俺はなんとなく分かった。俺も同じ事を思った事がある。
物心ついた時から、周りの人間は親父の事は何も言わない。遺影は何も話さない。
そう。
誰も何も話さなかった。そして、俺もあまり興味が湧かなかった。
だから別に、誰を責めるとかはなかった。
だいたいの親父の情報は俺から聞いた事が多い。たいした情報量ではないが。
そもそも、なんで祖母がそんな事を言ったかといえば、俺が離婚したと報告したからだ。最期に会った時にそんな報告をした最低の孫。嘘つけば良かったのかな。事情があって今日は来れなかった。ちょっと体調が悪くて。
今まで、喜ばれるウソも哀しくなる嘘もたくさんついてきたけど、俺は本当の事を話した。
人は死ねば忘れられる。
忘れるというか、生者にとって重要なのは想い出よりも現在を生きるエネルギー。
想いが原動力になるときもあるが、永遠で確かな物でもない。
祖母には嘘をつけなかった。
理由は、多分。祖母から嘘をつかれた事はないから。
今まで生きてきて、唯一の人かもしれない。
おじさん、何もあなた独りで背負う事はありません。
あなただけの家でもありません。
親父が産まれた家。
祖母が一人で住んできた家。
本音を言えば、少しあの家に住んでみたい。
親父が観た、同じ朝の景色を観てみたい。




