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闇の旅

 置き去りにされたグラスの水が、時と共に宙へと飛び立つ姿は目にすることは難しい。それは少しづつ宙へと漏れ出していくためだ。

 その水が火にかけられたらどうだろう。宙へと飛び立つ水は白く姿を見せる。その勢いが強ければ強いほど、濃度が高くなればなるほどはっきりと見える。

 朽ち果てた王の間は、はっきりと目に見えるほど高濃度の魔力が充満していた。

黒紫の靄が崩れ落ちた天井から魔力が外へと漏れ出し、床に沈下した靄は侵入者であるレオ達の足に絡みつく。

 進もうと思えば、一見靄のように見えるはずの靄が、沼のように足を重くする。

 漂う魔力の靄は、玉座と思わしき場所に近づくほど厚みを増す。

 もっとも「濃度の高い場所」はまるで大気が不気味に蠢く惑星のようだ。

「あれが……玉座……グルダニア王は?」

 レオが息苦しそうに声を漏らす。黒き剣を持って以来、楽だったはずの喉を締め付けられるような圧迫感がよみがえっている。

「あの靄の先に人影、たぶん、あれが……」

 ユリウスに言われ、レオとラウルは目を凝らす。靄の奥、玉座に深く腰かけ、肘をつく人影。あれが、グルダニア王。おそらくそこに「乙女の指輪」もある。

 グルダニアの異変の元凶が。

 王の間の魔力に呼応するように、黒き剣が強く鳴動する。すると、わずかに黒紫の靄が退いた。

「レオ、この先は……」

「ああ。この先は、俺だけで行く」

 すでに靄がレオの膝の高さまでやってきている。ラウルがこれ以上近づくのは危険だ。

 レオは剣を構えた。

 この剣で、グルダニア城の結界を破ったように、この魔力の渦も破れるはずだ。

「レオ……」

 ユリウスは神妙な面持ちで切り出した。

「その剣は命を吸って自らの力にする」

「ああ……」

 剣の記憶。ユリウスの過去でレオはそれを体験している。この剣の強さは、この剣により犠牲になった人達の命で作られたものだ。

「もしお前が、力が足りないと思ったら、その時は……俺を斬ってくれ」

「……」

「ユリウス、何言ってんだ!」

 ラウルが思わず声を上げる。

「レオ、頼めないか?」

「ああ、わかった……」

「ちょ、レオも何言ってんだ!」

 レオは慌てるラウルに言った。

「安心しろ、そんなことにならない」

 そんな根拠はどこにもない。ただ、それだけはあってはならないとレオは思った。

 ユリウスは初めからそのつもりでいたに違いない。グルダニアのため、エルヴィとの誓いため、自分の命を糧にすることも考えていたはずだ。

 グルダニアの騎士は、これほどに自分の国や誓いに対して忠義に厚く誠実なのか。

 もし、グルダニアとアステリアが戦をしていたら、苦戦は必至だっただろう。だが、味方ならば、これほど心強いものはない。レオは黒き剣を手に力をこめる。

「ユリウス、俺の方も頼めるか?」

「……ああ」

 ユリウスは矢筒から一本矢を抜いた。

「もし、俺がこの剣の力に飲まれそうになったら……その時は頼む」

「ああ……だが、どうも右腕の調子が悪い。期待しないでくれよ」

 レオは「そのつもりだ」と言ってユリウスとラウルに微笑んだ。

 レオは闇の渦と対峙した。

 構えた黒き積剣の剣先が、濃厚な闇を裂く。剣は高らかに鳴動し、剣先は赤く血に濡れる。  

 レオは剣により開かれた入り口から、闇の中へ入っていった。

 目の前に闇の世界が広がる。

 幾重にも塗り重ねられたまだらな赤褐色の空間、地には底の見えぬ闇。地面に立っているという感覚を失い、足を奪われそうになる。自分が急に空に投げ出されたような錯覚に眩暈を覚えた。

 どこから漂ってくるのか、ひどく生臭い。赤黒さを連想させる匂いに混じり肉を腐敗させたような匂いが、口鼻を塞ぐようにねっとりとまとわりついてくる。

 闇は上等な娼婦のように優しく絡みつき、助けを求める亡者のように引きずりこまんと行くてを阻む。

 身体が重い……。

 軽かったはずの黒き剣すら、今は重く感じる。これが本来の重さだと言わんばかりに。

 けれど、この黒き剣がここでの生命線だ。

 それはわかる。

 この剣を手放せば、荒れ狂う嵐の大海に投げ出されるのと同じ。命はない。

 冷静さを保て。

 ここは城の中だ。

 王の間の、玉座までのわずか道を歩んでいるにすぎない。迷うな。前に進めばいい。

「……!?」

 気がつくとレオは無数の毒蛇に囲まれていた。道を行こうとするレオを囲み、その進行を阻む。近づいてくる毒蛇にレオは声を上げ、剣を振り、蛇を斬った。数が多い、どこからから現れるのか、数は減らない。

 蛇はレオの身体の自由を奪わんと目を光らせ、舌を伸ばす。

「……?」

 レオの周囲を耳障りな羽音をさせる虫が飛び回り始め、それに伴い。どこからともなく獣臭が漂った。

 何かいる……?

 いや、いない、いないはずだ。この蛇も、虫も、いないはずだ……

 レオは蛇と虫を振り払う。何度も、何度も。  

 足を止めるな。

 振り払いながら自分に言い聞かせた。

 足を止めれば動けなくなる。

 進もうとする心が、蛇に絡まれ、虫に集られ、獣の餌食になってしまう。

 異臭を避けるように呼吸を浅く繰り返しながら、玉座に座す王の影をにらむ。

「遠い……」

 なんて遠いんだ……。

 歩き出す前より遥か遠くに感じられる。

 進まなければ……早く、早く!

 レオは構えた剣を闇に向け、その剣先が闇の魔力を裂いていく。わずかに拓かれる細い道を、レオは思い切って走った。

「はあ、はあ……」

 虫の羽音は、いつの間にか呪いと罵声が混じる囁き声に変わっていく

 囁きが四方から聞こえ、視界の端に気配が見え隠れする。

 見られている。視線を感じる。その中をレオはさらに歩んだ。

 ……なぜ? こんなところに?

 ……なぜ? こんなことをする意味は?

 ……なぜ? こんなつらい思いをする?

 ……あの下品な剣は何?

 ……バカな奴だ、損な役回りばかりを買って出て……

 ……お前の仲間は、安全な場所で、温かなスープを飲み、清潔な寝床で女を抱いているというに……

 ……お前はその醜い剣を手に、無意味な時間を過ごしている……

 ……愚かな、間違いに気づこうとしない。すべて無駄に終わろうとしている……なぜお前は歩みを止めようとしない……

 ……その穢れた剣を捨てろ、それ以上近づくな……

 ……哀れな、お前の行動を皆が嘲笑っているというのに、なぜお前は歩みを止めようとしない……

「黙れ!」

 レオは剣を構えたまま、囁きを振り払うように頭を振る。

 無視をするんだ!

 こんな声に耳を傾けるな!

 剣は闇を裂き、道を作る。硬く、乾いた道を、光も差さぬ道を。レオはただ歩んだ。

 足を進めるほどに囁きは騒めきとなり、その喧騒は耳を覆いたくなるほどレオの頭を叩いた。

 その剣を手離せ。

 剣を離せ。

 その剣を……

 離さない、離すものか……

 レオは脂汗を浮かべながら、心の中で繰り返す。

 剣を手離し、我に身を委ねよ……

 黙れ……。

 汝、何を望む……? 我を受け入れよ。

 黙れ!

 ……お前は乙女の指輪の意思か? それともグルダニア王か?

 レオは問う。

 声は答えない。

 なぜ、グルダニアをこんな風にした? 

 なぜ、人を惑わす?

 レオの問いに闇が蠢く。黒紫の靄は渦を巻き、やがてそれは形を成して姿を現した。

「バカな……」

 レオは茫然として闇を見上げた。その巨大な姿は、まさに神話や伝説、英雄譚に出てくるそれそのもの。

【剣を手離せ……】

 巨大な口が地響きのような声を発する。

【我に身を委ねよ】

 巨大な目がレオを見下ろす。

【汝、何を望む?】

 闇がレオの首を絞め、手、足を縛る。

「ぐっ!?」

 縛られた場所から命が奪わる。

 レオの身体が黒く、醜く朽ちていく。

「おおっ!?」

 朽ちた傷口からはあの羽音のする虫が湧き、周囲を飛んだ。周囲にいた蛇は割れた鎧の隙間から侵入し、レオの肉を食む。どこからともなく漂ってきていた獣臭が自分のから発せられていると知り、レオはゾッとした。

 身体が持たない……。

「剣を離せば……?」

 もし、剣を離せば……助かる、のか?

 そんな気持ちが頭をもたげる。

 これが終わる? 今からでも……?

 俺は……!

(レオ、お前は何のために戦う? こんなクソみてぇな場所まで来て、毒飲まされて、それでも戦う理由はなんだ?)

アラン、俺は、俺の戦う理由は……

(俺達はアステリアの精鋭だ、必ずグルダニアの真実に辿り着く!)

ダン隊長、みんな……俺は……

(絶対、戻ってこいよ)

 エリオット……

(今、大事な人のことを思い出していたんでしょ?)

 カティ……

「……」

 レオは動きの悪くなった左手で、自分の腰に下げたポーチを探った。すっかり荷物の少なくなったポーチの中で、それはすぐに手に触れた。小さな小瓶。ドロリとした紫紺色の液体が入った小瓶。

 レオは、ダルガの小瓶を手にした。


   ★


「黙れ!」

 王の間にレオの声だけが響き渡った。

「レ、レオ?」

 ラウルは突然の声に驚きの声を上げる。魔力の渦の中に進んで数歩で、レオは立ち止まったままだった。

「戦ってるんだ、レオは……今はあいつを信じるしかない」

 ユリウスとラウルには、黒紫の靄の中で苦しんでいるレオの姿しか見えない。

 何に苦しみ、何に恐怖しているのか、見当がつかない。それはレオにしかわからないレオだけのものだ。

 ふと、レオの手が腰に下げたポーチに伸びる。レオが小瓶を取り出した。

「あれはダルガ……」

 初めて会った時、教会でレオが落としたあの小瓶だ。あれがどんなものか、危険性も含めてユリウスはもちろん知っている。それでも「取っておけ」と言ったのは、自分が右腕を失った時のような経験があったから。

 そうか、それが必要なほどなのか?

 ユリウスは弓を引いた。

 自分もそれを使った。だから責めることはしない。それほどの恐怖なのだろう。耐えられないほどのことが起きているのだろう。

 だが、レオ、お前も知っているはずだろう? それを使えば、幻想に沈み自分を失う。自分を失えば、おそらく……

「レオは、闇に飲まれる……」

 それでも今のレオには必要なのかもしれない。仮初であっても『救い』が。

「ユリウス! レオを射る気か!?」

「ああ、それがレオとの約束だ……」

 例え、それを自分が望んでいなかったとしても、やらなくてはいけない時がある。グルダニアのために、あの剣を再び失うわけにはいかない。レオが倒れるならば、自分は生き残り新たな使い手を探さねばならない。

 それが自分の使命なのだ……とユリウスは震える自分の手に言い聞かせた。

「レオ、頼む……!」

 その時だった。ポーチから出した小瓶がレオの手からこぼれ落ちる。

「レオ!?」

 力ないその動きにラウルは愕然とした。レオの状態は良くない、アランに毒を飲まされた時のように動きが悪い。それほどの状態だったのかとラウルは初めて理解した。

 そんなレオの姿にユリウスは思わず舌打ちをする。

「ちっ、レオ、お前は……!」

 ユリウスは弓を下げた。

「お前は大した奴だ」

「えっ……?」

「あいつは、ダルガを落としたんじゃない。自分から捨てたんだ」

「それって……?」

「レオはまだ死んじゃないってことだ」

 レオ、アステリアは凄い国だな、お前みたいな奴を育てるなんて、お前みたいな凄い奴がいるなんて……! 


   ★


 これでいい、これで……。

 ダルガを捨てたその震える手で今度は自分の首元を探る。

 出発の時にエリオットがくれたアステリアルベルのスカーフをはぎ取り、剣と自分の右手を離れないように縛りつける。

 何があっても離さない。離さないんだ!

「俺はさがらない!」

 黒き剣がレオの意思に呼応して高鳴った。

 レオの意識が研ぎすまされる。

 振動する黒き剣は、さらに闇を切り裂いた。

 レオの首や拘束していた闇は消え失せる。

 罵声と呪いの言葉の喧騒が、どこかで指揮棒が振られたかの如く鳴りやんだ。

「……?」

 レオはその場に一瞬立ち尽くした。

 闇が裂けたその先で、レオは目の前に広がる光景に心を奪われていた。

 明るい青空、温かな陽光の中を小鳥がさえずり、色鮮やかな薔薇が咲く。大輪の薔薇の豊かな甘い香りが鼻腔に届く。

 身体が軽い。手も足も呼吸も、すべてが軽く、心地よい。

 ここはどこだ……?

 俺は何をしていたんだ……?

 そう自分に問いかけた。

 夢から覚めたばかりの時のように、しっかりとした答えが頭に浮かんでこない。

 歩かねばならない、進まなくてはならない、そんな気がする。

 歩みこそを止めないが、その足取りはおぼつかない。

「ああ……」

 こんなに清々しい、穏やかな気分になったことなどあっただろうか?

 子どもの頃、騎士を目指す前、遥か遠い昔、こんな感覚を味わったことがあるような気がする。何かをやり遂げた、やり終えた、そのあとに胸を満たす安堵感。

 レオはふと自分の右手を見た。この場所に似つかわしくない不気味な剣と自分の右手が紅のスカーフで結ばれている。

これは……?

「……まあ、いいか……」

 レオはフラリフラリと歩いていく。

 大地は疲れた足を助けるように柔らかく、清浄な水の流れる小川に潤され、実りを孕み命を育む。

 どれほど歩いたことか? 

 長かったのか?

 短かったのか?

 時間の感覚が失われていく。

 レオはそこにたどり着いた。

 見上げるほどに壮麗な純白の離宮。

 招かれている。誰かいる。

 レオは直感的にそう思った。入っていいものなのだろうか? 自分のような者がこのような場所に。

 これほどの建物、貴族でも持つことは難しいだろう。おそらくは王族、いやそれ以上でなければ……。

「……?」

 戸惑うレオの前に、一匹の真っ白な小さな子猿が現れた。子猿はちょこんと座り、レオのことを見上げると、クルリと背を向ける。

「着いてこいというのか?」

 レオは子猿に導かれるまま、離宮の中へと入っていく。よく手入れのされた見事な薔薇と美しい噴水のある中庭を通り抜け、さらに猿は奥へと進む。

 離宮の中は華美な装飾はなく、調度品もほとんど見当たらない。清潔で清涼。立ち入ってはいけない聖域に足を踏み入れたかのような感覚に、レオは自然と姿勢を正していた。

 ふと、見た一室には清潔なクロスの敷かれたテーブル。その上には宝石のような果物と成熟した香りを放つワインが並ぶ。

 猿は足を止めてレオを見上げた。

「いや、いいんだ。別に構わない」

 猿がまるで果物とワインと薦めているかのように感じたため、レオはそう言って断った。

猿はまた歩き出す。

 離宮の奥の入り口までやって来て、猿は再び足を止めた。

「ここ? ここから先は俺一人で行けと?」

 猿は小さくうなずきどこかに去って行った。

 レオは濃い薔薇の香り満たされた、その部屋と足を踏み入れた。

「……!?」

 レオはわが目を疑った。

 まさか、そんなはずがない。

 鼓動が一瞬にして加速する。

記憶を辿り、正確な姿を思い出そうとしたが、うまく思い出せない。もしかしたら、自分の勘違いかもしれない。

「よく来てくれました」

 その声にレオの心臓はまた跳ね上がった。

 この声……この声、間違いない!

 アステリアローズの鮮やかな薔薇色染められたドレス。流麗な金髪に淡雪を柔らかな白銀の肌、穏やかで気品を感じさせる瞳が、熱を帯びてまっすぐにレオに向けられている。

「ア、アクセリナ様!?」

 レオは思わずその場に跪いた。

 アクセリナはあの優雅な足取りで淑やかにレオに近寄ると白く細い手で、そっとレオの手を取り立たせ、微笑む。レオは驚きつつも、その笑顔に顔を熱くした。

「よく来てくれました。苦しい旅だったのでしょう?」

「い、いえ、そんな……」

「でも、あなたのおかげで、すべて終わりました。ありがとう」

「終わった……すべて……?」

 アクセリナは力の抜けるレオの手を引き、部屋の奥へと招き入れられた。

「あなたはやり遂げたのです。誰も成し遂げられなかったことを、あなたが……」

レオは薔薇とアクセリナの匂いに包まれクラクラした。

「もうその剣は不要でしょう? そこに置いて、こちらに……」

 アクセリナは「さあ、レオ」と微笑み、自分のドレスに手をかける。

「……!」

 アクセリナの白い肩が露わになり、甘い匂いがレオを包む。

「レオ=レクセル、こちらに……」

「……」

 レオは稲妻に打たれたように目を見開いた。そしてアクセリナの誘いにレオは肩を震わせ、ポロポロと涙を流した。

「レオ……?」

「……アクセリナ様……!」

「どうしたのです?」

「アクセリナ様が、俺の名を……?」

 レオは止めどなく涙を流しながら「ありがとう、ありがとう」と繰り返す。

レオは自分を抱こうと手を伸ばすアクセリナから一歩離れ、アステリア式の最敬礼で誓いの言葉を述べた。

「俺は……俺は、必ず、この任務をやり遂げます。だから、どうか……どうか待っていてください……!」

 アクセリナはフッと微笑むと、寂し気に瞳を揺らし、静かに姿を消したのだった。

 光は開かれた。

 気がつくとレオは、グルダニアの王の間に立っていた。ランタンが闇を退けるようにレオを中心として黒紫の靄が後退している。

 レオは玉座まであと数メートルのところまでやってきていた。

 幻覚はない。囁き声も、異臭も、息苦しさもない。消耗こそしているが足も軽い。

 レオは王のもとにたどり着いた。

 玉座に腰かける王はすでに骸となり、それもずいぶん時間が経ち、もとの姿を想像することができないほど変わり果てた姿となっていた。しかし、その指につけられた赤黒い指輪だけは異様なほど赤光に輝きを放っている。

「これが乙女の指輪……」

 レオは、王の手に赤光に輝く指輪を抜きとった。その瞬間、王の骸は砂塵の如く崩れさり、再び闇がレオを包み込む。

【希望の灯を燃やし尽くし 絶望の底を知る旅人よ……汝、何を求める】

 俺は……

【汝、王に愛されし者、汝、王に選ばれし者、清浄なる乙女の祝福を汝に与えん、清廉なる乙女の理力を汝に与えん】

 レオは、右手で静かな鳴動を続ける黒き剣を地に石床に突き立て、指輪を持つ左手を掲げる。

【尊き王を象るものを手にした者よ、汝、王なり、すべては王の手のもとに……】

 俺の求めるものは……

 魔力が高まる。

 この国をここまで変えた強大な力が。あらゆる望みを叶え、現実のものをする力が。

 指輪を通してレオに力が流れ込む。

 レオはギュッと黒き剣を握りしめた。

「乙女の指輪よ、汝が王が今望まん!」

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