第9話 別世界産のスキルとアイテム
######### side トルク #########
スキルで攻撃し、ワイバーンの攻撃をしのぎ、たまにポーションで回復する。
そんな行動を繰り返していた。
その間、ある程度の時間おきに何度か毒状態にすることができた。
少なくとも、このワイバーンは一定時間同じ状態異常にならない、と判断してよさそうだ。
しかし、ポーションのストックが尽きてきたし、精神的に疲れてきた。
HPのほうは『Hunt and Farm』のアイテムを使えばまだ大丈夫だけど、精神的な疲れはポーションで回復できないのでピンチだ。
どうしたもん
「アイスニードル!」
か?
男性の声とともに氷の針がワイバーンに直撃し、ワイバーンの高度が少しだけ下がる。
「はぁぁ!」
降りてきたワイバーンに茶髪の女性が大剣を振り下ろす。
「よう。なかなか面白い状況だな。」
「君は本当に命がいらないのかしら。」
ダンガンと茜の声だ。
どうやら、救援に駆けつけてくれたらしい。
「ええと、冒険者ギルドにワイバーンのことは伝えてくれた?」
「っ!
ええ、伝えたわよ!」
怒鳴られた。
「心配したのはわかりますが、お説教は後に。」
「そうそう。
とりあえず、…ヒール!」
エリーが茜を止めた後、眼鏡の男性が回復魔法をかけてくれた。
「あ、僕は大和。
ダンガンのパーティでプリーストだよ。
よろしく。」
「どうも、トルクです。」
簡単に挨拶して、ワイバーンに攻撃を仕掛ける。
茜と姉黄が前衛となってワイバーンを切り付け、ワイバーンの意識をそらしている。
しかし、ワイバーンは周りを攻撃しつつも、なぜか僕に狙いを定めたままのようだ。
救援到着までワイバーンが遠距離攻撃してこなかったをみんなに伝えた後、連携をとった。
と言っても、僕とダンガンでワイバーンの高度を下げ、茜と姉黄がワイバーンの攻撃を対処しつつ攻撃し、大和とエリーが前衛を回復するという、ベースジョブ通りの役割をしただけだが。
「って、うわあ!」
「きゃ!」
どうやらワイバーンはブレスも吐けるようだ。
ウインドブレスで僕たち後衛を吹き飛ばし、そこから翼で風を起こして前衛まで吹き飛ばした。
「ヒールです!」
「ヒール。っつ、ダメージが大きすぎますね。」
各自ポーションの使用や[ヒール]で回復して体勢を整える。
ウインドブレスのダメージは僕のHPの4分の1程度だったけど、ほかの人は違ったみたいだ。
体勢を崩した今の状態だと前衛が後衛を守ることは難しいだろう。
今すぐワイバーンの体制を崩す方法はないし、突進を僕以外の後衛の誰かがくらったら一撃でアウトかも。
まずい。
茜やダンガンには死んでほしくないし、しょうがないか。
「それ!」
ほぼ真上に矢を放つ。
それと同時にワイバーンの突進をくらい、吹き飛ばされる。
「「「トルク(君)(さん)!」」」
後衛の三人の叫び声が聞こえた。
声が聞こえた以上、生きているようだ。
HPはかろうじて残っていた。
「ギャアア!」
直後にワイバーンが悲鳴を上げ、地面に落ちた。
『Hunt and Farm』のスキル[天落矢]が命中したようだ。
このスキルは、矢を空に向けて放つことで命中までのタイムラグと引き換えに大ダメージを与えるものだ。
また、矢に『Hunt and Farm』のアイテム[悪夢の臭い玉]を括り付けていたので、
激臭でパニックを起こしたのだろう。
「うう、すごい臭い。」
「臭すぎてワイバーンの近くで息ができない…」
…問題はあまりの臭さにこちらも近づけないところか。
アーチャーの僕には関係ないけどね。
「もう一発!」
「ファイヤーボール!」
僕が[天落矢]を放ったと同時にダンガンの[ファイヤーボール]がワイバーンを燃やす。
ワンテンポ遅れて[天落矢]が命中し、
「ガアァァ…」
ワイバーンを倒せたようだ。
「や、やった」
「倒せましたね。
しかし、あれほど攻撃力が高いなんて。
トルクさん、今までよくご無事でした。」
安心したせいか、全員で座り込んでしまった。
まぁ、モンスターは周囲に見当たらないし、大丈夫だろう。
ワイバーンの攻撃の余波のせいかな。知らんけど。
「とりあえず、片付いたところでお説教ね。」
「え?」
「この間忠告したにもかかわらず、ずいぶん危険な真似をしたわね?」
怖!
ニッコリ笑っているはずなのに、すごい眼力だ。
「いや、僕、巻き込まれただけなんだけど。」
「私たちが到着するまで結構時間かかったけど、問題なく生き延びてたわよね。
逃げながらワイバーンを街の近くまで誘導できたんじゃない?」
「それだと町の人を危険にさらすし…。」
「その気遣いで死にかけてたら世話ないわよ!」
かなり心配かけていたようだ。
この怒りが心配の裏返しだということに容易に気付ける。
それでも困ったので周囲に視線を回し、気づいた。
茜だけでなく、姉黄とエリーにも睨まれている。
「私たちを心配させたんだから、このくらいは当然でしょ。
というか茜、私も混ぜて。」
「茜さんだけでなく、私たちも心配したんですよ?」
女性陣は助けてくれないどころか、説教側のようだ。
ダンガンたちのほうに助けを求めるが、
「取込中のようだから、先に街に戻るぜ。
トルク、次から無茶は控えろよ。」
「フレンド登録はまた今度にしたほうがいいでしょうね。
トルク君、またお会いしましょう。」
薄情にもダンガンのパーティは僕を見捨てて帰ってしまった。
… 説教中 …
「このくらいにしてあげようかしら。」
3人がかりの説教が終わるころにはすでに日が暮れていた。
それほど時間が経過していたにもかかわらずモンスターに襲撃されなかったのは、
3人の権幕がよほどのものだったためではないか。
そんなどうでもいい考えが浮かんだ。
「さて、君の隠し事について話してもらいましょうか。」
げ!
「何のこと?」
「この世界に[天落矢]なんてスキルは存在しないわよ。
あんな臭いアイテムもないし。」
「未実装だっただけじゃないの?」
「未実装スキルがこんな初期に習得できると思う?
それに、プレイヤーにも影響が出るくらいの臭いアイテムを実装するとは思えないわ。
苦情が殺到するのは目に見えているもの。」
そりゃそうか。
「それに、君がワイバーンから受けたダメージは、前衛の私たちが受けたダメージより少なかったみたいだし?」
その辺は『Hunt and Farm』のステータスのせいだね。
ごまかすのは無理そうだ。
「実は…」
… 秘密事の説明中 …
「なるほど。
そもそも『蒼穹のつながり』のプレイヤーじゃなかったんだ。」
「作成したばかりのキャラクターのステータスではなかったんだね。
タフなわけだ。」
「でも、なんで秘密にしていたんですか。」
エリーに尋ねられた。
「他のプレイヤーに狙われそうだったからだよ。」
「?」
茜と姉黄は理解したようだが、エリーは理解できていないようだ。
「この世界が現実だ、という重い事実に直面したときに、一人だけ初めから強かったらどう思う?
変な顰蹙をかうだけでなく、下手をすればこの件の犯人扱いされて命を狙われそうだよ。」
「ああ、そういうことですか。」
エリーも分かったようだ。
「そういうわけなので、秘密にしてください。
お願いします。」
ばらされたら、少なくともレストの街から離れるべきだろう。
ほぼ全てのプレイヤーがレストの街に滞在しているだろうから。
「広める意味もないからいいわ。
どんなわけがあろうと強いプレイヤーと接点ができるのはいいことだし。」
姉黄はOKっと。
「友達を困らせたくないから、秘密にしますよ。」
エリーも問題なさそうだ。
いつの間にか友達認定されていたようだし。
「そうね。事情が事情だけど結構心配もさせられたから、いくつか条件を付けるわ。
一つ目は今後たまにでいいから私たちとパーティを組むこと。
二つ目は『Hunt and Farm』のスキルやアイテムが私たちでも使えるようなら使わせてほしいの。お金は払うわ。」
「了解です。条件をのみますので、よろしくお願いします。」
何とかなった。
よかった~。
そういえば、ダンガン達からは何も聞かれなかったけど、見逃してくれるのかな。
単に気付かなかっただけ?
まぁ、疑問に思っていたら今度会う時に聞かれるか。
とにかく、今日は帰って休もう。
もう疲れた。




