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魔女っ子はつらいよ  作者: 黒辺あゆみ
2話 魔女っ子のライバルはたいていチート
5/8

その1 響梓は餌付けされているわけではありません

私こと響梓の朝は、朝食の匂いによって始まる。

 以前であれば、祖母が作る煮物のしょうゆの匂いであったが、最近は違う。なんだかオシャレな匂いがする。先日はふわふわオムレツなるものを、人生で初めて食べて感動したものだ。

「今日のご飯、なんだろうな」

芋虫のごとく布団からもぞもぞと抜け出し、しばしボーっとして朝食の妄想をしていると。

「おら、慶二が朝飯できたって言ってんぞ。いいかげん起きてきやがれ」

突然の乱入者によって、私の寝ぼけた頭は覚醒させられる。

「・・・今起きた」

「早くしろ、俺は腹が減っているんだ」

乱入者、音無類はそれだけ言うと、また去っていく。

 このやろう、毎朝乙女の部屋に無断で入るなんて、いや、部屋の前に立っているだけなので入ってはいないか。もとい、乙女の部屋を無断で覗くなんて、紳士にあるまじき行為!いつか天誅下してくれるわ!

 私の脳内はそんなカンジでハイテンションなのだが、身体は相変わらずもそもそと動いている。それから五分後に、もう一度類の襲来を受ける。

 これが最近の私の朝である。


「これは・・・、噂に伝え聞いたフレンチトースト!!」

「食べたことがないと言っていたので、今朝はこれにしてみました」

エプロン姿の慶二さんが、にっこり笑っていらっしゃる。音無類には及ばないがそれなりにイケメンな慶二さん。イケメンは何を着ても様になるのである。

 そして目の前に並んでいる皿を見る。ふおぉぉぉなんてオシャレ朝食!この感動は、ふわふわオムレツに並ぶかもしれない!一応フォークとナイフが出されているが、食べやすいサイズに切ってあるので、別に手に持って食べてもいいらしい。ていうかこの家にフォークとナイフなんて存在したのか。

「なかなか乙な味だねぇ」

煮物オンリーな食事しか作らない祖母だが、和食以外だって食べられるらしい。最近初めて知った。嫌いだから作らないのではなかったのか。ちなみに、私の母は料理ができない人であり、父がご飯を作ってくれていたのだが、父も和食党な人だった。なので慶二さんのご飯が、私の人生で初めての和食以外の食事なのだ。

「感動であります!この味を忘れぬように、味覚に覚えこませるであります!」

「そこまでしなくても、また作りますから。どんどん食べてくださいね」

「ふぁい!」

また作ってくれるとな!?慶二さんアンタは神様や!私はもっきゅもっきゅとフレンチトーストを噛み締める。うーんふわふわ美味しい!

「お前、慶二の飯食うときはよくしゃべるのな」

音無類が、こちらは上品にナイフとフォークを使いながら、これまた上品に食してなさる。美形は食べる姿も美形なのか。居間のテーブルが高級家具に見える。

 ちなみに純和風な造りのこの家は全部屋畳である。なので食事も当然正座。ナイフ・フォークと正座って、視覚的に相容れないものがあると思うのだ。そんな状況で、上品さを損なわないってある意味すごい。

「美味しいものを美味しいと伝えるのは、人類最大の使命だ!」

「さよか」

脳内テンションのままに言い切った私を、音無類が軽くいなす。お前が聞いてきたんだろうが、なんかコメントよこせや。

「二人とも、のんびりしていると時間がなくなるよ」

朝からそんなお馬鹿なやり取りをしていると、慶二さんに注意された。私はフレンチトーストを味わうことに再び集中するのだった。



「いってらっしゃい」

慶二さんがお見送りをしてくれる。毎朝イケメンに見送られるのは気分がいいことだ。

「おう」

「いってきます」

二人並んで玄関を出た。そうして、門を出れば慶二さんは見えなくなる。

 そこから、私はすばやく音無類から距離をとる。目測で五メートルほどである。そして周囲をすばやく観察し、誰もいないことを確かめると、前方にいる音無類をしっしっ、と追い立てる。何か言いたそうな顔をしているが、この距離なので相当大きな声で言ってもらわないと聞こえない。

 私の家から学校まで、登校にかかる時間は徒歩十五分。この高校を選んだ理由は近さ一択です。何故にこのようなド田舎に進学校かという気がするが、ド田舎だからかもしれない気がする。なんといっても娯楽施設皆無だし。最寄の街まで電車で一時間。その駅まで徒歩二十分。つまりは遊ぶことにものすごい労力がいるのだ。

 ここでつまりは何が言いたいのかというと。私の家から一歩外に出れば、同じ学校の生徒がその辺を歩いていても不思議ではないということである。一緒に登校しているところを目撃されるとか嫌過ぎる。私は中学までと同じように、地味に平凡で目立たない生活をしたいんだ。目指すは空気だ。

 こうして五メートルの距離を保ちつつ、学校に到着。惜しむらくは、私と音無類の机が隣同士だということだ。早く席替えしようやゴリ先。

 私たちは教室で席に着くが、お互い会話を交わすわけもなく。音無類は席に着くなり、文庫本を広げて読書を始める。俺に話しかけるなオーラをバンバン出している。これは比喩ではなく実際に出しているのだ。きっとこのオーラに触れると気分が悪くなるものと思われる。

 だが遠巻きに見るだけでも絵になるため、女子生徒がため息をついている。がしかし、だまされるな皆の衆。高級そうなブックカバーがついているから純文学青年に見えるが、それは夏目漱石とかではなくライトノベルだ。



こうしているうちに授業が始まり、あっという間に昼休み。時間経過が早いとか言うな。授業なんて何もイベントは起こらないものなのだ。

 昼休みには、学校生活で最も楽しみにしているといっても過言ではない、弁当の時間というものがる。ちなみに、この学校には、田舎に似つかわしくないくらいに立派な食堂がある。理由は、通学途中にコンビニやスーパーが皆無なため、弁当が用意できない生徒救済のためらしい。

 がしかし、私はそこにお世話になることは今のところはない。何故ならば、私には立派な弁当があるからだ!ちなみに慶二さんお手製である。

 毎日飽きがこないように工夫されているおかずは見た目も美しい。和洋中が毎日日替わりだったりするのだ。日替わり弁当とはなんという贅沢。

 一つ難点を挙げるとするならば、この弁当は音無類とお揃いだということだ。弁当箱も柄違いのお揃いだったりする。これってわざわざ買ったのか?我が家でこんなオシャレな弁当箱を見たことないから、おそらく買ったのだろう。

 視覚と味覚で弁当を味わいつつも、となりをチラ見する。本日のメニューはエビチリ弁当。冷めてもエビがプリップリで美味しいです、ありがとうございます。となりのお方も、同じ弁当を黙々と上品に食べてらっしゃる。美形って弁当を食べる姿も絵になるのか。

 ちょっとガン見し過ぎたのか、音無類がこちらを見た。弁当を食べるのを中断して口をパクパクさせている。


「ほしいのか?でもやらん」


誰がアンタの弁当を欲しがったか!でもちょっとお代わり欲しいです慶二さん!

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