その4 魔女っ子とラブコメは混ぜたら危険
私が家に帰り着いた頃は、もう昼の二時をとうに過ぎていた。ああお腹空いた。
私の家は、田舎の中でも辺鄙な場所にある、山の麓の一軒屋だ。ぶっちゃけ山まるごと我が家の敷地である。古い平屋建ての家と、離れの今時な二階建ての家がある。平屋の方が祖母の家で、離れは両親が建てた家である。小学生の頃は離れで両親と暮らしていたが、中学に入ってすぐに両親が海外に行ったため、祖母の家に移っての、女の二人暮らしだ。
私がとぼとぼと玄関口にある門をくぐると、でっかい車があった。田舎の道路事情にそぐわぬ長い車は、なにやら見覚えがある気がするぞ。どこで見たんだ。首を捻って考え込んでいると、家のほうからなにやら爽やかそうな青年が出てきた。うん?今私の家から出てきたんだよな?誰だアンタ?
「邪魔でしょう?すみませんね、でもここに停めていいと言われたもので」
ニコニコ笑顔で言い訳された。それはいいからアンタ誰。不審者発見でおまわりさんに通報すべき?
「昼食がまだと聞いております。用意できてますからお早くどうぞ」
挙句に自分の家なのに案内される始末。あれ、もしかしてここ私の家じゃない?首を捻りすぎてつりそうになってきた。
「・・・おじゃまします?」
なんだか自分の家だという自信がなくなってきて、そんな帰宅の挨拶をしてしまった。いや、確かに私の家だよね?だからアンタ誰?誰かこの疑問に答えろや。
「梓、帰ったのかい?」
家の奥から祖母の声が聞こえてきた。どうやら居間にいるようだ。別に用がないときは特に帰宅の挨拶などしないのだが、わざわざ声をかけたということは呼んでいるようである。そう判断した私はカバンを手に持ったまま居間へと行ってみることにした。
「おばーちゃん、ただい・・・」
祖母への挨拶は、最後まで言葉にならなかった。それは、この場にいるはずのない異物を見てしまったからだ。
「なんだ、孫娘ってお前か」
居間のテーブルに着いて何故か焼きそばを食べている男は、今日一日で見覚えてしまった男。
「オーラ男、なぜここにいる・・・!」
あ、うっかり心の中のあだ名を言ってしまったぞ。
「さあどうぞ、今作ったばかりですからあったかいですよ」
そして謎の青年が、オーラ男の前に焼きそばを並べる。え、それ私のご飯なのか?そしてだから誰だアンタは!?
言葉にしない声を察してくれたのは、私が生まれてからの付き合いの祖母だった。
「なんだいアンタたち、学校で自己紹介くらいしてないのかい?てっきり全部知っているものと思ってたら」
祖母があきれた様子で、私に座るように促してくる。
同じように、オーラ男もなにやら言われていた。
「類、お前も何も話していないのか?」
「慶二、話すって何をだ。お前だって俺に一言でも説明したのか?」
「・・・。」
慶二さんとやら、そこで沈黙しないでくれたまえ。
つまりは、裏準備だけは整っていたものの、本人たちは何も知らされていないので、交流しようがなかったのである。客が家に来るなら朝に一言告げておこうよおばーちゃん!
なので改めて、私たちは自己紹介をすることになった。
「響梓です」
「音無類だ」
「榊慶二と申します。冷めないうちに食べてくださいね」
謎の青年改め慶二さんに促され、私は食事を始めた。む!うまいじゃないかこの焼きそば!祖母の料理で煮付け以外を食べたこともなく、かといって料理に壊滅的に才能がない私では、こんなに完成度の高い焼きそばは無理だ・・・!できるなお主!
そしてオーラ男の名前を思い出した。そう音無類だ。なんでアンタこんな山奥のド田舎まで来たんだ?
「梓、面倒がらずにちゃんと声にだしなさい」
私の脳内ツッコミを察した祖母が注意してくる。
「なんで東京の有名私立大学の付属高校にでも行かなかったのさ」
「お前しゃべれたのか」
音無類よ、突っ込みどころはそこか。確かに私、学校で一言も発声しなかったけれども。口が不自由なわけでもコミュ障でもないぞ。単に会話が面倒臭いだけなのだ。
「だから梓、しゃべりなさい」
そんなことを言われても。今までの生活これで成り立っていたのだ。急にこまめに声に出せるわけないじゃないか。これから鋭意努力しますよ。
そんな祖母に、「まあまあ」ととりなして慶二さんが説明してくれた。
「つい先日までは行ってたんですよ、東京の有名私立大学の付属学校に。でも実家の方針で、こちらの学校に入学することになったんです。これからお世話になります」
はあ、お世話になられるんですね。え、お世話?
「・・・学校が一緒だから?」
そういう意味のお世話なのか?早くそうだと言ってくれたまえ。でないと、とっても嫌な予感がするのだが。
「音無さんたちは、今日から離れに住むからね。ちなみに食事は慶二さんが作ってくれるそうで、こっちで食べるよ」
聞いてない、聞いてないぞおばーちゃん!そんな大事な話、一ヶ月くらい前から教えられるものなんじゃないの!?まがりなりにもこの家には、年頃の乙女がいるんだからさぁ!
しかしながらである。このあたりはド田舎すぎて、アパートやマンションの類が一軒もないことも確かである。電車で三駅くらい移動すればあるけれども。その駅だってとっても遠いのだ。いや、そのくらいは移動しようぜ、金持ちっぽいじゃないかアンタたち。絶対高級マンションとかの方がいいって!
「音無のじいさんとは昔なじみでね。頼まれちまったんだよ」
いやそんな、仕方ないよね見たいに語られても。
「よろしくお願いしますね」
「よろしくな」
うわぁぁん!よろしくしたくなーーーい!!