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魔女っ子はつらいよ  作者: 黒辺あゆみ
1話 魔女っ子とは世を忍んでいるべきだと思う
3/8

その3 音無類はかく語りき

あれは一週間前のことだった。

「類、お前には○×県にある高校へ行ってもらう」

家に帰った俺を待ち受けていた親父に、そう告げられた。まさに唐突な話しである。

「俺そんなとこ受けた覚えないけど。ていうか今の学校の入学準備も済んでるんだけど」

「そんなものは退学になった。もう退学届けも受理された」

「はあっ!?」

本人に黙ってなんてことをしてくれたんだこの親父!

 しかしながら、親父がこんな暴挙に出た理由もあったりするんだ。理由はただ一つ、俺の女遊びが激しいせいだ。

 自分で言ってしまうが、俺はモテる。人生今までフラれたことは一度もない。顔がよくて背が高く物腰も柔らかい。ちょっと微笑んでやれば誰でもイチコロだ。たまに男も引っ掛かるが、俺にはそういう趣味はない。

 そんなわけで、俺は今まで女をとっかえひっかえしていたわけだ。でも女の家に泊まったことはないし、孕ませたこともない。そのあたりはきっちりしてきたつもりだ。だから何も問題ないと思っていた。でも両親にとっては頭の痛い問題だったんだろうな。それを今にして痛感している。

 今俺がいるのは車の中だ。深夜の高速道路をひた走っている。車に乗っているのは、むっつり顔の俺と、運転している男の二人だけである。

 俺はもちろん今回の○×県行きを素直に受け入れたわけではない。逃げたり怒りで暴れたり泣き落としたりと、いろいろ手を尽くしたが、親父から○×県行きを撤回されることはなかった。そして入学式の前日に、車に押し込められてこうしているというわけだ。

「往生際が悪いぞ類。もうあきらめろ」

運転手の榊慶二さかきけいじが声をかけてくる。この男は類が小さい頃から世話役をしている男で、類が頭が上がらない数少ない人間である。

「・・・なんで車なんだよ。普通飛行機だろう」

「そうしたら空港で逃げるだろうお前」

図星である。こちらの行動などお見通しである。

 けどな?だってな?車で高速とばして丸一日かかるんだぞ?俺に何しろっていうんだ。ちなみに携帯ゲームという選択肢は俺にはない。俺は車酔いするタチなんだ。だからよけいに車で長時間移動というのが嫌で嫌で仕方がない。

「いい加減あきらめろ。言いたいことがあるなら聞いてやるから」

「次のサービスエリアに寄ってくれ。さっきから吐きそうだ」

こんな状態で丸一日。車の中で寝ろといわれても寝れるわけもない。だいたい、俺は枕がかわると寝れない繊細なタチなんだ。(だから枕だけは持ってきている)必然的に徹夜明けでその高校に着くことになった。


俺が生まれた音無家は、先祖代々霊能者をやっている古い家系である。政治家なんかにも客はいるし、俺もそれなりに霊能者をやっている。最近俺のルックスの良さが取り沙汰されて、テレビんかにも呼ばれるようになっていた。俺としても正直見世物パンダ的扱いは嫌なんだが、親父の命令なので仕方がない。今時の霊能者も人気商売なんだよ。


 時間に余裕がないので、俺は直接高校に向かうことになった。

 高速道路からおりると、道中はどんどん山の中に入っていく。熊とか出そうな雰囲気のド田舎である。こんなところに三年間いなきゃならんのか。この俺に田舎臭さがうつったらどうしてくれるんだ。

 高校の校舎は田舎の割にはそこそこ小奇麗な建物であった。慶二情報によると、このあたりではまあまあの進学校らしい。入学式に出席するらしい親子があふれかえっている校門に、車を横付けする。田舎では見ないデカさの車だからか、そのあたりにいる奴らがみんな注目した。俺は車の中からそれを眺める。どいつもこいつも、本当に芋っこい奴ばかりだな。

「ほら降りろ。俺は世話になる家に荷物を降ろしてくるから」

薄情者の慶二に車から放り出された。とたんに周囲がざわついた。俺が誰だか分かったのだろう。ざわつきはすぐに黄色い悲鳴に変わる。普段は聞きなれたそれも、寝不足の頭には結構な衝撃である。ちくしょう、怒鳴り散らすのも億劫だ。とにかく今は静かな場所で寝たい。

「全員、速やかに校舎に向かうように!」

騒ぎを聞きつけたゴリラっぽい教師が芋軍団を追いたて始めた。

 俺みたいにテレビなんていう芸能人がうようよしているところに出入りしていると、綺麗な奴なんて掃いて捨てるほどいる。おかげでここのところ綺麗系の顔に飽きていたところだ。

 田舎者にルックスの良さなんか求めちゃいない。山の中の美人度なんて知れているし、いたとしても地域のマドンナ的存在だったりして、扱いが面倒臭そうだ。そうなると求めるは、面白さ一択しかないな。

 ああせめて、退屈しないで済む面白い女がいるといいなぁ。あとできれば胸がデカイとなおさらいい。

そんなことを考えていると、ぞろぞろと移動を始めた芋軍団の中に、周囲とは雰囲気の違う女を見つけた。そいつも芋っこいことには違いなく、むしろもっと地味なのだが、周囲と違って浮かれた様子がなく、淡々と観察している。それにちょっと面白い気配をしている。

「ふぅん?」

じっとそいつを見ていると、そいつがこちらを振り向いた。ばっちりと目が合うと、慌ててそらして校舎へと走っていく。

 とりあえず、名も知らぬ芋娘一号よ、お前の顔は覚えてやったから感謝しろ。


入学式が行われるという講堂で席に着くと、俺は即効で寝た。何せ徹夜明けだ。式が始まれば誰かが起こしてくれるだろうさ。

 そう考えていたというのに、なんと俺は入学式まるまる寝ていたらしい。誰か起こせよ。入学式を寝て過ごすとかどこの不良だ。これでも今まで学校生活はスマートに過ごしてきたんだぞ。気持ち遠巻きにしている連中をギロリと睨みつつも、大きく伸びをする。長時間同じ姿勢でいたせいで、身体が固まってしまっている。そうやって一人身体をほぐしていたところに。

「おっ?」

 移動が始まりそそくさと去っていく周囲のなかで、校門で見かけたあの芋娘一号を発見した。どうやら同じクラスの列にいたらしい。そうか、同じクラスか。知った顔(ただし一方的)を見つけて気分が浮上した俺は、素直に移動の波に乗った。

 教室につくと、席順を確認する。が、どうやら自由に座っていいものらしい。他の連中は中学からの知り合いなんぞを見つけて立ち話に励んでいる。がしかし、当然俺の知り合いなんぞいるわけがないので、適当に座ろうと空いた席を検分する。女共の注目を集めているのは無視だ。寄ってきたけりゃ、俺に面白さをアピールしろや。

 そんな中、あの芋娘一号はじつに自然な動きで教室のベストポジションともいえる、窓際最後尾の席を占拠していた。何人かが「あっ!」という顔をしたが時すでに遅しだ。そうだよな、特にこだわりのない担任なら、このまま席替えなしかもしれないんだ、席順は重要だ。なかなかやるな芋娘一号。狙った席につけて満足しているらしいその隣の席に、俺は静かに座った。座ろうとしていた男がいたが、にっこり笑ってどいてもらった。感謝だ。それから三秒ほど遅れて、芋娘一号は隣に俺が座ったことに気付く。ぎょっとした顔で芋娘一号が立ち上がった瞬間、担任が教室に入ってきた。あ、こいつ朝のゴリラじゃん。

「お前らどこでもいいから席に着け」

その掛け声で、立っていた奴らも適当に席に着く。芋娘一号は焦ったようにキョロキョロしていたが、

「はい静かにー」

担任の押しの一言で、あきらめて座った。いい仕事をしたぞ担任。これからちょっとは言うことを聞いてやってもいい気分だ。

 反対に、芋娘一号は呪ってやる勢いで担任を睨みつけている。その視線に気付いている担任はしきりに汗を拭いている。芋娘一号よ、入学早々かわいそうだからやめてやれ。

 俺は担任の話なんぞは聞かずに、隣の芋娘一号を観察していた。担任の話はどうせ配られたプリントに書いてある内容だしな。

 俺は霊能者という特性上、生き物の霊気というものが見える。たいていの人間はそれを駄々漏れさせているのだが、この芋娘一号からはそれが漏れていない。霊気というものは、生き物にはかならず備わっているものであるからして、霊気がないということはありえない。だから、おそらくは霊気が漏れないようにコントロールしているのだろう。そんなことは一般人にできることではない。一体何者であろうかという疑問が沸く。ちくしょう、面白そうじゃねぇか。

 その芋娘一号は、カバンの中に手をつっこんでごそごそしている。こいつも担任の話なんぞ聞いちゃいないだろう。

「それでは解散」

担任の終わりの号令と共に、芋娘一号は勢いよく立ち上がり(イスが後ろに倒れたが、本人気付いていない)猛ダッシュで歩いて教室から出て行った。まあ廊下を走ると叱られるからな。でもあの歩き方の方が疲れないか?倒れたままのイスを元に戻してやり、俺はスマホを手にする。授業が終われば使ってもいいだろう。周りにも使っている奴がチラホラいるしな。

「慶二、お前どこにいる?」

迎えにきているはずの慶二は、校門にいると答えた。

「ちょっと寄りたい場所があるんだ」

慶二に直ぐに出られるように指示を出し、俺も校門へと向かった。


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