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魔女っ子はつらいよ  作者: 黒辺あゆみ
1話 魔女っ子とは世を忍んでいるべきだと思う

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1/8

その1 響梓はこんな人間である

私こと響梓ひびきあずさは目立たない女子だ。

 子供の頃から同じヘアスタイルなおかっぱ髪型に、大きな黒縁眼鏡。美形でも醜悪でもない普通の容姿。いつもうつむいているし、あまり口数が多い方ではない。自分でもネクラだと思う。幼少の頃のあだ名は座敷童、うまいこと言ったな名付けた奴。そんな私も今日から花の女子高生の仲間入りである。


満開の桜の中私はてくてくと校門を潜る。周囲は親と一緒に盛り上がったりする生徒が多い中、私は一人だ。しょうがないじゃないか、両親は海外なんだから。一緒に暮らす祖母がいるにはいるが、こういう晴れがましい場所に出てくる人でもないし、入学式に来てほしいとも思わないので無問題だ。子供じゃないんだから一人で十分、・・・寂しくなんてないんだからね!?

 そんな内心一人突っ込みをやりつつも、いつものようにうつむきがちに歩いていると、後ろからものすごい悲鳴が聞こえてきた。何だ事故か?入学式だっていうのに幸先悪いぞ。がしかし、悲鳴の種類がそういうのとはどうにも違うようだ。これはいわゆる、噂に聞く黄色い悲鳴という奴ではなかろうか。こんなド田舎で何が起こるというんだ。周りを見渡しても芋っ子な生徒がごろごろして、ないな。一人場違いにオーラを放っている奴がいた。

 この学校の、今時の流行とは縁遠いデザインのレトロちっくなセーラー服と黒々しい学ランが蠢く中で、光り輝いている男子生徒が一人。なんだか校門に横付けした長い車から降りてきた。こんな田舎であんな車を乗り回されると渋滞の元なのではなかろうか。第一車の大きさ的に入れない道が多そうだ。ていうか誰だあれ。

「ねえあれって音無類おとなしるいじゃない!?」

「ええっ、まさかぁ!」

「でも、あんなにキレイな人そんなにいないって!」

私の無言の突っ込みを察してくれたらしい周囲の女子生徒が、そんなおしゃべりを大声で始めてくれた。感謝だ、名も知らぬ女子生徒よ。そうか、あのオーラ男は音無類とな。そのまま立ち止まって情報収集してみたところ、音無類とは最近テレビで話題を呼んでいる霊能者であるらしい。一緒に暮らす祖母の方針で、我が家にはテレビというものが存在しないので、そのような人間が話題だとは知らなんだ。ほう、霊能者ですか。でもそんな有名人がこんなド田舎に来ますかね?娯楽なんてなんにもないよ?

「全員、速やかに校舎に向かうように!」

騒ぎを聞きつけたらしく、スーツ姿のゴツイ男性教師が黄色い悲鳴軍団を追いたて始めた。あれはきっと体育教師だな。名前をしらないのでとりあえずゴリラ先生と呼ぶことにしよう。ゴリラ先生に追いたてられて、生徒が移動を始めた。その流れに乗って移動していたのだが、あのオーラ男(名前忘れた)の様子を確認しようと振り返ると、なんかこっちを見ていた。進行方向を向いていたというだけだと思うし、それほど自意識過剰である自覚はない。けれども、目が合ったと感じたのは気のせいだと思いたい。


入学式が行われる講堂に移動する。周囲には同じ中学だった生徒もちらほらいる。ド田舎とはいえ、このあたりではそれなりの進学校だから生徒数もそれなりである。それなのに、オーラ男は何故か私の斜め前に座っている。周囲の生徒は話しかけたくてもできずにいてそわそわするし、本人は座るなり腕組んで目をつぶるし。頭がこっくりこっくり揺れているようであるし、ひょっとして寝ているのか?入学式が始まる前から寝るなんていろいろすごいぞオーラ男。

 そんな風にオーラ男を観察しているうちに、入学式が始まった。起立、礼、着席などの号令でも全く起きる様子もない。全員が起立すると、オーラ男の場所だけぽっかりと穴が開くみたいに見える。がしかし、先生たちも何も言ってこない。うむ、芋っ子のなかにこんな美形がいたら、注意しにくいのも分かるがな。このオーラ男、実に美形な男なのである。同じ日本人なのだからして、黒髪黒目な黄色人種でることには変わりないのだが、日本人という人種の美しいパーツを集めればこうなるんだろうな、というくらいに美形なのだ。オーラ男がもさい学ランを着ると、同じ学ランだと思えないくらいになにやらブランド物の一点ものに見えてくるから不思議である。

 その後、何度が立って座ってを繰り返すも、オーラ男は起きなかった。そうして、とうとう入学式が終わってしまった。このままどうするのだろうかと観察していると、先生が教室に誘導する声で起きたようである。暢気に両腕を伸ばしてあくびをしている。どうやら校長らの話は良い子守唄になったようである。きっと校長も本望に違いない。

 一列にならんで講堂から出て行くとき、私の方が先に動いたので、オーラ男の横を通り過ぎる形になった。オーラ男から「おっ?」と声がした気がしたが、こちらを見ていた気がしたが、それはきっと私の自意識過剰がもたらす幻覚であると信じているともさ。


教室に移動すると、みんな適当に席に着く。私はさりげなく、しかし速やかに一番後ろの隅っこの窓際席に移動する。まだ生徒がざわついていて、席に着こうとしないうちにこれをなさなければならない。ここはサボり気味な生徒のベストポジションだからな。目当ての席を取れて満足していると、隣に座る生徒がいた。全力で地味っ子をしている私の隣に座りたいなど物好きだな、と思って隣を見ると、なんとオーラ男だった。こやつ、今気配を感じなかった・・・!こんな派手男が隣に来たのに気付かないなんて。せっかくのベストポジションだけれど、速やかに席を代わろうと私が立ち上がったところで、担任らしい先生が入ってきた。担任は校門でみかけたゴリラ先生だった。

「お前らどこでもいいから席に着け」

ガタガタッ

すぐに全部の席が埋まった。おかげで席を代われない。いや、せめて前の席の子と代わりたい!

「はい静かにー」

・・・タイミングを逃した。仕方なく私はもう一度座りなおした。このやろう、ゴリラ先生めどうしてもう一分遅れて入ってこなかった!呪ってやる気持ちでゴリラ先生(略してゴリ先)を見つめる。隣のオーラ男は前を見ないで、横を向いている。すなわち、私の方だ。貴様先生の話は真面目に聞け。

 絶対にオーラ男の方を見ない決意でゴリ先に視線を固定する。なにやらゴリ先が大汗をかいているし、こちらを見ないようにしているようだが、きっと暑いんだろう。暑がりさんだな。

 ゴリ先の話も終わりになって、明日の予定などを話しているとき、私はカバンに入れっぱなしの携帯電話が光っていることに気付いた。校内での休み時間以外の携帯電話の使用は禁止であるからして、マナーモードにしていたのだ。私に連絡を入れる人間など限られている。カバンのなかでこっそりと携帯電話を見てみると、メールが入っていた。


件名 日の出が丘公園


本文 暴れキリンを鎮めるべし


実に短いメールだった。差出人は祖母である。今から行けと。お昼食べる前に。はーっとため息をつくと、丁度話しが終わったようだ。

「それでは解散」

担任の号令と共に、私は速やかに立ち上がり、競歩の選手もかくやという勢いで外に向かって歩き出す。校内は走ってはいけないからな!


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