ちくおんき
私の大好きな場所。
きれいなお人形さんのお家やうさぎのぬいぐるみがあるおもちゃ屋さん。
かわいい花柄のワンピースがそろってるお気に入りのブランドのお店。
考えてみると好きな場所はたくさんある。
けどそこは"大好き"な場所じゃないんだ。
おじいちゃんの部屋。
そこが私の一番大好きな場所だ。
私のおじいちゃんには、なんか変なクセがある。いや、クセっていうかシュミかな……。
私のおじいちゃんは世間で言う骨董品を集めてるんだ。
お金持ちの家の和室の床の間に飾ってあるような掛け軸とか伊万里焼(もどき?)のお皿とか壺とかたくさんある。おじいちゃんはいつも自分のコレクションの手入れをしている。私がおじいちゃんの部屋に行くと、これが老後の楽しみなんだとか言ってしわくちゃの顔をニコニコさせる。
私にはそんなガラクタのどこがいいのかわかんないだけどね……。
でもそんなある日、私はおじいちゃんの部屋である物をみつけた。
それは今までみたことのない不思議な形をしている。四角いハコの上に大きなトランペットのラッパが上を向いている。いつもなら絶対興味を示したりしないのに、そのときそれにはすごく惹かれた。
「ねぇおじいちゃん……」
「……うん?どうしたんだい、エリナ」
私はその不思議な物を指さして言ったんだ。
「これ……これはなあに?」
おじいちゃんは嬉しそうに目を細めた。
「エリナ、それは蓄音機っていうんだ。昔はそれで音楽を聴いていたんだ」
「ちくおんき……?こんなので音楽聴けるの!!すごいねえ」
「これはおじいちゃんの一番の宝物なんだよ」
おじいちゃんはやさしくそれをさすっていた。その顔は我が子を慈しむ父親の顔に見えた。
「これはまだ動くんだよ……」
おじいちゃんはひょこひょこしながら、れこーどっていうCDよりも大きな円盤を引き出しから取り出して、ちくおんきにセットした。
それから流れてくる音楽はいつもCDで聴いているのと比べると音が悪くてぶつっと途中で切れてしまう。
けど私にとっては、それがとても新鮮ですぐにちくおんきの虜になったんだ。
それが私の大好きな場所がおじいちゃんの部屋って理由。
私は毎日のようにおじいちゃんの部屋に足を運んだ。
「おじいちゃん――あれ聴かせて」
私がおじいちゃんの服のすそを引くと、おじいちゃんはひょこひょこしながらちくおんきを鳴らしてくれた。
「エリナは蓄音機が好きだねえ……」
「うん!!」
「何を流そうか?」
「エリーゼのためにがいい!」
それはあの日初めてちくおんきで音楽を聴いた時に流れた曲だ。
「そうかい、そうかい……」
私は、毎日毎日おじいちゃんと一緒にちくおんきで音楽を聴いた。
――あれから十年
私はおじいちゃんの部屋にいた。
私の隣におじいちゃんの姿はない。
あの時のおじいちゃんを真似してひょこひょこしながら引き出しからレコード取り出してちくおんきにセットする。
曲はもちろんあの曲。
音は十年前と同じで、なめらかな旋律のはずなのに、歯が抜けてしまった子どもみたいに空白がある。
目を閉じて聴いていた。
「……エリナ、ありがとう。一緒に音楽聴けて毎日楽しかったよ」
そんなおじいちゃんの声が聞こえたような気がした。
+あとがき+
ここへの小説は初投稿です(汗
そしてはじめての一人称です。
いつもは三人称が多いんですよ…
なんかもう最後のほうとかボロボロですね、もっとちゃんと終わらせたかったのですが実力不足です…
まだまだ未熟なところが多い緋川ですが、これからがんばっていこうと思います。よければ評価など他お願いします。