魔法セイズ
「悪魔じゃないなら・・・・・・なんなのよ」
ハルカはチュールが作り直した煉瓦の家で、膝を抱えてむくれている。
「どうして教えてくれないのよ」
「規則だからだ。文句言うな」
薪をくべながらチュールが笑った。
「規則ってなんなの?」
「教えられない」
「ずるい!」
「するくねえって;」
こんな調子で、出会ってからずっと押し問答の繰り返し。
チュールはそろそろ、本気で眠りたかった。
だがハルカの質問責めは、朝になっても終わらないだろう、と予想できる。
「頼むから、寝かせろ;」
「答えてくれたら、寝てもいいわ」
チュールはごまかすために、嘘の職業を告げる。
「俺は・・・・・・妖怪だよ、妖怪」
「・・・・・・ふーん」
チュールの全身を、冷や汗がだらだら流れていく。
――ばれませんように、ばれませんように。
「妖怪って水を創れるの?」
「もちろん」
と答えておくことしかできない自分が、実に嘆かわしいとチュール。
――なぜだ? 俺は尊い神・・・・・・のはずなのに・・・・・・。
「これでいいだろう? もう解放してくれ・・・・・・眠い・・・・・・」
チュールはそのまま地面に突っ伏した。
あの、水を創り出す魔法は、チュールにとってとてつもなく精神力を使う行為だった。
重油を清らかな水に原子変換させる魔法――それは錬金術にも近かった。
一の物質のものを一以上にも、以下にもできないとされるのが、ヘルメス学の基礎であった。
従って、世界は一、神も一の性質を持つので、すべては一である、と定義されてきたのである。
簡単に説明すると、鉄を金に変えるという行為、すなわち錬金術は、その術を不可能のままサイエンスへと姿を変え、現代に継承されたのである・・・・・・。
人の性質もエレメントも、すべてが一。
したがって、十になることなど不可能だと。
ところがチュールの魔法は、重油という一の物質をまるまる別のものに変えてしまった。
これが人間の言う『奇跡』である。
それだけに、チュールの精神力は相当弱っていたのだ。
現実の神の魔法も、たとえばイシスなどの魔法も、それと同じで、奇跡を起こせた。
生命を育むというシステムは、いわば奇跡の連続でもある。
原子変換、農耕の魔法、セイズと呼ばれるその魔法は、古代ゴートの頃から伝わってきた、最後の秘術でもあった。
ハルカはなんとなくだが、チュールが何者であるかを悟ってきた。
わかってきていても、それを隠すチュールがかわいそうで、言い出せなかっただけなのだ。
「お休み、チュールさん」
ハルカもまた、チュールの隣で眠りに落ちていく。
錬金術の説明については、へたくそです;
どう説明していいか、ちょっとむずかしくてわかりませんでした^^;
いやはや・・すいません。