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ロトの横暴

 ソドムとゴモラ。

 旧約聖書にでてくる、色と欲の町。

 アブラハムの子、ロトが目にしたものは・・・・・・大量の肉を頬張り、傍らには女を抱いて下卑た笑いを浮かべる金持ちら。


「なんということだ、なんということだ。これでは神の怒りに触れてしまう」


 そう考えたロトの智恵。

 すべてを破壊し、そしてまた、創造する力・・・・・・。

 天の父テトラグラマトンの力をふんだんに使い、支配をするのは――ロトだった。

 

  

 しかし、テトラグラマトンの力は、ロト以外のものが使うと肉体が崩壊すると言った秘術を施している!

 ゴーレムと呼ばれる土人形、ソドムに命令し、ロトに背くものは破壊させていった。

 そして創造のゴモラによって、命を育む。

 まるでそれは、魔法だった。


 赤い血で家の戸に印をつけるよう、ロトが自分の信者に言いつけたのは・・・・・・間違えて襲わないためだったのだろう。

 一夜にして滅んだ、享楽の町。

 その廃墟の町にはやがて、悪霊、そして盗賊が住み着いたのだという。


 ロトは自分が神であると言った錯覚を起こしたのか・・・・・・。

 そのうち、ソドムとゴモラとを好き放題に操って、やがて自滅したと、吟遊詩人から伝え聞く。 

 


「それにしてもなぁ、チュール」

 と、神々をまとめている神の王、オーディンが補佐のチュールに尋ねた。

「はい、なんでしょう」

「人間というのは、ひとつでも、たががはずれると、あとのことはどうでもよくなる生き物らしい」

 オーディンはウルズの泉(過去を見せる魔法の泉)から古代に生きていたロトの様子を見せた。

「ああ、ロトですね」

 チュールが言うと、オーディンは肩をすくめた。

「しかたないですよ。人間は欲望のつきない生き物です、我々とて例外ではありませんよ」

「さようか」

 チュールの嫌みに少々立腹気味のオーディン。

「神とて・・・・・・メシを食わずには生きられぬ。酒を飲まずにいられぬ、でしょ。オーディン」

「うっ! ・・・・・・お前には、かなわない」

「恐れ入ります」

 チュールは失った右手の変わりに、左腕を頻繁に動かす。

 彼の右腕はロキの子フェンリルに咬みちぎられ、いまでは左腕だけが残っていた。

 腕がないことを気に病んで、自殺を考えたチュールだったが、それを止めて励ましたのは、オーディンだった。

『バカなことを考えるな。生きてたら、いいこともある、それがたとえ、隻腕の騎士と何かを含んだ言われかたでも――』

「オーディン様・・・・・・」

 過去を想い出しながら、チュールは瞼をあけた。

 目の前に腰を据えるオーディン。

 チュールは『王者の剣』といわれる、巨大な聖剣を肩にかつぎ、ヴァルハラの王宮をでていった・・・・・・。


 ここヴァルハラでは、空を見あげたら、あかね差した鰯雲が見える。

 ヴァルハラ――死者の暮らす神々の国。

 人は死んだらここにやってくるのだ。緑多い住み易き場所とも言われる。

 ところで、チュールには地上界で気になる人物があった。

 髪の毛を乱雑に削ったショートヘアの娘。

 ハルカ、とほかのものが呼んでおり、利発そうな顔をしてもいた。

 チュールはユグドラシルという、九つの世界を支える大樹に寄りかかり、根っこにできた泉からハルカの様子を見つめている。      

「たしかに生きていて間違いはなかった」

 とチュール。

「生きていたおかげで、あの子の存在を知ることができた。何のかんのいって、やはりオーディンは偉大だな」

 悪辣な王、と忌み嫌われるオーディンだったが、チュールには尊敬できる。

 人の魂を選定し、勝手に殺すと言った行いは端から見れば横暴だろうが、チュールには理解できた。

 オーディンは一時期、ラグナロクの頃、焦って魂を集めていたのだ。

 逆らえない運命。

 だが――その逆では人間を、ろくでもない運命から救い出そうという、正義的思想を持ち出し、選別したものをヴァルハラに呼び、宴につきあわせた。

 

 

「神であっても、決まってしまった運命からは、逃れられないんだよ・・・・・・つまり死、からはね」

 

 それはチュールの口癖だった。 

ロトがソドムとゴモラを通過した際、妻は塩の柱に変わった、といいます。

たったそれだけなんだけど、「〜してはならない」という神の声が届かなかった妻には、ロトがこうしろといっても従えなかったんだろうなぁ。

しかし、ついうっかり、ということもあるか・・。

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