オーディンの寝返り
「なに? ハルカが妊娠しただと?」
リッツは眉間を寄せた。
「それで? その生まれたガキはどこに」
「教えてほしけりゃ、酒をよこせ。ワシは神の王だ。オーディン様だぞ」
青い鎧の片目男。
正体を現したこのオーディンは、リッツに情報を流すのであった;
「だから、麦酒! 酒よこせ!」
「そんなもの、あるわけねーだろ!」
「やだやだやだ、よこさないと、こうだぞ!」
オーディンは古ノルド語を詠唱し、
「蛙になっちゃえ!」
と叫んだ。
そしてリッツは哀れ、殿様蛙に変身してしまった・・・・・・。
「がっはっはっは。どうだね。これでワシの力がわかったろう」
「・・・・・・げこ・・・・・・」
オーディンはリッツに槍を向け、
「元に戻れ」
と再びノルド語で詠唱する。
「あんたの力はすごいな。天才的だ。その力を見込んで頼みがある」
リッツは含んだように、にやりと笑う。
「ハルカの産んだ子供を連れてきてくれ」
「それでどうするね。育てるつもりか」
「いや、俺が喰うのさ」
「なにぃ、ガキを喰いたいだと!?」
オーディンはリッツの言い分を聞かぬうち、彼を突き飛ばした。
「そうさ。下手すりゃオレが飢え死にしてしまう。だったら最良の方法として、ハルカの生んだガキを喰う」
「どこが最良の方法だ、愚か者! 貴様のようなのを、世間じゃ『恥知らず』というんだろうさ。汚れた男め」
オーディンは感情をむき出しにする。
「決めた!」
「お、やってくれるかい?」
リッツがすがりつこうとした刹那、オーディンが再び彼を突き飛ばし、
「俺は気が変わった。これからは、ハルカの味方をしよう」
とえげつなく笑った。
「そ、そんな; オレとの約束は」
「やくそくぅ? なんだっけね、それは」
オーディンは鼻をほじって知らんぷり。
「しらん、忘れた」
「裏切り者!」
リッツは泣きべそをかいて、銃を撃ちまくる。
だがオーディンが神であることも忘れ、魔法を知らないリッツは、こてんぱんに伸されてしまい、青あざを所々につくる結果と相成った。
「いててて・・・・・・」
「若造。貴様、神や子供という存在がどんなに尊いか、わかってないだろう。神は子供を慈しむ。従って、殺そうとするものに対しては容赦なく罰を与えるのだ」
オーディンは人間の娘との間にできた子供を、英雄やヴァルキリーという女神にしてきた。
半分は神、超人の力を与えて。
オーディンもその妻フリッグも、子供は大事にしてきた。
「飢えなければいい、ただそれだけじゃねえか。何が悪い」
リッツの往生際の悪さに、オーディンは肩をすくめる。
「ほー、リッツよ。貴様は自分がこの世界にとって、いかなる毒かすらも理解できてないんだな」
それだけ言うと、オーディンは馬にまたがった。
「どういう意味だ」
立ち上がって尋ねるリッツに、オーディンは剣を投げ与えて、
「そいつで真実を切り開け。貴様の前に立ちふさがる『運命』を、切り裂いて、俺のもとまでやってこい!」
オーディンはおかしそうに喉の奥で笑うと、リッツを見下ろした。
「・・・・・・ばーか。貴様なんぞに教えるのも勿体ないわ」
何を企んでるんですか;
いいんか、このまま進めてしまって(汗。
オーディンっていいのか悪いのか、ホント理解が難しいよなあ。
あくどいのに、そうじゃないというか。
境界線はどこにあるんだろうね? 笑