ロキとヘイムダル
「あいつは、毒だ」
天界、ヴァルハラのオーディンは、リッツのことを『毒』と称する。
「チュールはまだ気づいていないのかな、あの、とんま」
お気に入りの蒼穹色をした鎧を身につけ、魔法の槍を手に取るオーディン。
「このワシが地上に赴けば、誰かが犠牲にならざるを得ないがね」
とオーディンはニヤニヤ。
その誰かとは――リッツのこと。
オーディンは策略家。したがって、目的を果たすためなら手段など必要がないと豪語する。
そんな彼だから、味方はどんどん減少していき、今ではチュールくらいしかいなかった。
「さていくか。・・・・・・スレイプニル!」
口笛を吹いて八本足の馬を呼びつける。
オーディンは馬にまたがり、ヘイムダルという門番に命じ、門を開かせた。
「お気をつけて、オーディン様」
ヘイムダルはオーディンを敬っているかに見えて、実は違っていた。
ただ、オーディンが王という器にあるので、そう呼ぶだけ。
オーディンもそこのとこは理解していた。
オーディンが通過したあと、ヘイムダルは急いで扉に閂をかける。
「人間ひとりに・・・・・・あんなムキになることないのにさ。オーディンって、バカだね」
オーディンの義兄弟、ロキが現れてヘイムダルに言った。
「人間がいなくなったら、オーディンの利用対象がなくなるじゃないか」
ヘイムダルもつられて言う。
「いいのかねー。そんなコト言って。クビだよ? きみ」
「オーディンに聞こえなければいい」
ヘイムダル、邪悪そうに笑んだ。
ロキはわざとおびえる格好をしながら、
「おー。こわい怖い。じゃあ、おいらフリッグのとこいくよ」
「てめえ、告げ口するなよ」
と、ヘイムダルはつけ加えた。
ロキという神は、まったく油断がならなかった。
オーディンが嫌いなくせに、寝返る場合もあり、抜け目のないところがあった。
ヘイムダルはロキが大嫌いだったが、オーディンの長男トールの寛大な心によって、いつもロキを許すのだった。
「まあまあ。いいじゃないか。ロキだって根っから悪いヤツじゃないよ」
トールには周りを明るくする才能があった。
そのため友人も多く、チュールもそのひとりであった。
「チュールは元気だろうか」
ところ変わって、フリッグの邸。
トールが窓から空の鰯雲を見上げてため息をついた。
「チュール。お前があの人間の子を追いかけていったこと、俺には不思議に思えてならない」
トールは人間の守護者だが、チュールにその力はなく、ただ戦の指揮をすることだけしか、取り柄がなかった。
それがなぜ、ハルカを追っていってしまったのか。
トールには、はなはだ疑問だった。
「まあいいか。俺、考えるより行動する方だから、あまり深くは追求しない。ただチュール、お前には元気で戻ってきて欲しいんだ」
何となくだけど、この場面も書きたかったりして。
じつは北欧神話が特に好き、ってわけじゃないんですが、なぜか思い入れがつよいんだな^^;
まず、魔法の性質とチュールのキャラが好きで、読み込みましたから、『ヒュミルの歌』あたりとか(苦笑。
しれっとして「あ、怪物が来る」という冷静なチュールが好きなんですな(笑。