御仕舞いの空
ある夕焼けが酷く赤い日のことでした。
私はどうしようもない不安に駆られ、ふと上を見上げました。
まるで嫌な未来を告げるかのような空模様でいて、しかし神秘を纏った景色でした。
墨染の前のほんの抵抗。
それがあまりに儚く思えて、私は泣きたくなりました。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
前に進めば進むほど、より幻想感が否めなくなっていきます。
私は空に手を伸ばしました。掴めるかのように。
隣を駆けていく記憶に待てをかけられないのは、もどかしいことです。
私は私にすら置いてかれるのでしょうか。
再び空を見上げました。そうすれば物事が解決する気がしたのです。
しかし今や空は半分を黒に侵食されていました。
たった少しだけの情景は、直ぐに見納めとなっていくのです。
いつの日だったか、私の親友が言っていた気がします。
思い出したところで、過去は過ぎていく。
正論です。
私は様々なものを失い、思い出しては手が届かすに泣いたものです。
きっと今日の夕焼けもそうなのでしょう、あくまでも過去としてある。
最早空は黒で覆われてしまいました。
夜というものが世界を支配する時間。
私は不意に真っ暗な空に墜ちて、
何も見えなくなってしまいました。
何も、
目覚めなくなってしまいました。
これが私の記憶の中の、
御仕舞いの空です。