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契約書は細部までしっかり確認しましょう

作者: 栗栖 龍
掲載日:2026/03/06

この世界には魔法がある。

治癒や攻撃と言ったRPGで有効な魔法ももちろんあるが、汎用魔法と言ったら生活魔法だった。

火を起こす。

水で洗い物をする。

洗濯物を風で乾かす。

土を耕す。

これらは魔力の低い平民でも使える魔法だった。

魔力量を必要とする魔法の中で一番重用されるのが契約書魔法だった。

契約書の用紙の裏にはあらかじめ契約用の魔方陣が描かれている。

ただの売買の契約書なら、契約を破った方の額に、契約を破ったというマークが浮かぶだけだが、国同士のものともなると、裏切った場合は国土が焼失すると言ったものがあるくらいだ。

そして個人間での一番重いものとしては「破った場合は一生魔法が使えなくなる」というペナルティを盛り込んだものだった。

平民ですら使える生活魔法が使えなくなるということは、死ぬのとほぼ同義語だった。


そんな契約書魔法を作成できる契約書魔法師を多数(あまた)輩出(はいしゅつ)している公爵家に生まれたのが私、マリリアンナ・セズンディッシュだった。



私には前世の記憶があり、それを思いだしたのが5歳の時だった。

前世では変なエステサロンのキャッチに捕まり、やめておけと幼馴染に説得されて解約に行ったら、すでにその期間を過ぎていると契約書に書いてあると言われ、お金は返ってこなかった。

何故契約書を隅々読まなかったと怒られたが、「あんな細かい文字を隅々まで見る人なんていないし、何より今すぐ契約しろって迫られて逃げられる人間がどれだけいるというんだ!」と泣き喚いた黒歴史がある。

そしてもう一つの黒歴史。

20後半にしてできた彼氏に金をせびられ、気が付けば200万程貸したのに返してもらえずにいた。

彼に帰してと言っても「そんなに借りてない」「多くても20万くらいだ」と、一回に貸した金額で物を言ってくるし、さらに金を貸せと、無いなら風俗で働いて稼げと言われた。

さすがにそれはと悩んで幼馴染に相談すると、「あほか、悩むな!」「そんな彼氏、今すぐ捨ててしまえ!」と怒られた。

貸した金に関しても「借用書を書いていないんだから、回収はたぶん無理」と言われたのは覚えている。

前世の記憶で残っているのはそれだけだった。

そんな無念からか、今世は契約書を作る側に生まれてきたのかもしれないと、幼いながらに思ったのが5歳くらいだった。



そして時は流れて10歳の時だった。王家から第二王子との婚約の打診という名の王命が出された。

その初顔合わせ兼婚約契約締結(ていけつ)の日、王家の応接間でマリリアンナを初めて見たシーモ第二王子殿下はいきなり暴れだした。


「こんな魔獣みたいにきつい目の女が婚約者なんて嫌だ!」


と。

確かに私の目はどちらかというと父親譲りの吊り目だが、スカイブルーの瞳は大きく、二重の瞼には長く上向きにカールしたまつげがたわわに生え、ペールオレンジのたまご型の顔には各パーツが美しく配置されており、それらをふわふわのハニーブロンドの髪の毛がさらに輝かせていた。


(わたくしは吊り目ぎみなところ以外は母譲りで可愛いとか美しいと言われておりますが)

「お父様、あれがあれでよろしいのですか?」

「……お前が導け」


王家の専属契約書魔法師を代々務める公爵家は、跡継ぎを実力重視で決めるため私にもその資格があった。

つまり第二王子は「公爵家当主の婿」という立場になる可能性があった。

王家もそれを求めているのだろうが、細かい条文を見ていくとその中には「契約を破棄した場合は対象者の地位を剥奪する」と書いてあった。


(対象者ってわたくしも含まれるではありませんか……さすがに無理だった場合の保険が欲しいですわね)

「殿下。とりあえず今は婚約を結びましょう。そして大人になったらもう一度考え直すのはいかがでしょうか?」

「嫌だ」

「では、国王陛下にその旨お伝えして、この婚約自体をないモノにしてくださいませ」

「父上!」

「お前の為だ。この婚約は絶対だ」

「そんな」

「けれど成人してもわたくしを受け入れられないとしたら、そのまま結婚するのは無理だと思います。ですので、17歳になったら二人でどうするか決めるというのはいかがでしょうか?」


そこで色々と話し合った末に王家が当事者二人の要望を受け入れ、契約書の最後に「対象者が同時に17歳である十カ月の間に、お互いの判断と了承の下で、この婚約を破棄し、この契約書を無効にすることができる」という条文を加えてもらい、その時用の署名欄を作ってもらった。


(これで婚約破棄になっても、わたくしはノーダメージですわ)

「では殿下。当分の間、婚約者としてよろしくお願いいたしますわ」


その挨拶もシーノ殿下は無言を貫くことで拒絶していた。子供と言えども大人げない。



7年後。

自他とも認める清廉潔白で他者にも厳しい公爵令嬢わたくしは、悪役令嬢として映るものには映り、殿下はそんな奴との結婚は嫌だと周りに零していた。

そしてお約束のようにヒロインが出現した。

実態は子爵家の放蕩娘と有名な女子学生だが、それを知らない殿下は見目の良さと男心をくすぐる媚態にまんまと引っ掛かり恋心を募らせ、令嬢がそれに応えたという噂が一学年下にまで届いていた。

そして私が17歳になった誕生日。初めて学内で呼び出されて「なにかしら?」と思っていたら、殿下は契約書を片手に、もう片方の手はヒロインの腰に手を回したまま、「婚約破棄に同意しろ!」と王家の契約書保管庫にあるはずの契約書を目の前に差し出してきた。

「ついでに俺たちの契約書を作れ」と、「お前にはその資格があるはずだ」と尊大な態度で告げてきた。


「それはご命令ですか?」

「そうだ」

「立会人はどうされますの?」

「そんな者は必要ない」


立会人とは契約立会人のことを指し、契約書に関しては嘘を吐けないという契約を魔法省とかわしている者のことだ。

契約を交わす者たちに契約書を読み上げさせ、そこに書かれている条文がすべて読まれたかの真偽を判定するという仕事を担っている。

読まれていない、もしくは間違っている場合は「偽」と判断し、足りていない箇所や間違えている個所を指摘し、再び読み直させるのだった。

見えないインクで書かれたものすら浮き出させて指摘するという、契約書の正確性の為には欠かせない存在だった。


「そもそもたかが契約書を作るだけの仕事をする奴が公爵位とか、たかだか契約書を読み上げさせるだけの仕事に金を払うとか、意味が分からんしムダ金なんだ。そんなものいらん! 俺が王になった暁には、そんな無駄なものすべて無くしてやるわ!」


そう言えばこの方は職業に貴賤があると公言している方だったわと私は心の中であきれていた。

そのたかが契約書を、契約書魔法を施された契約書を作成するのにも魔力がいり、正式な書き方というものが存在する。

だからの専門職であり、私は8歳にしてその資格得たので、公爵家の筆頭後継者の地位を得られている。

そもそも第二王子で外に出される予定の殿下である上に、契約に必須な職業を取るに足らないと公言できる愚か者が王になれるわけがないだろうという呆れが大半だったが、


(前世にもこういう職業の人が、魔法で嘘を吐けないという絶対的な補償があれば、私も騙されたりしなくて済んだのに。そんな素晴らしい職業を愚弄するなんて)


という怒りもあった。

それに契約書作成費用を払う気が無いのも分かっていたので、将来()払ってもらうことにした。


「文面はわたくしたちが交わしたものと同じでよろしいでしょうか?」

「ああ、あのままでいい」

「契約書用紙がここにはございませんので、明日お持ちいたしますわ」

「ああ。同じ時間にここに来い」


ということで私は家に帰り、ゆっくり時間をかけて契約書を作成した。

自分たちが交わした婚約契約書と前半は同じ文面で、私とロインを差し替えた。後半の婚約破棄に同意するところはわざと書かずにおいた。

用紙は公爵家独自の、周りの飾り罫の中に飾り文字が埋め込まれたものを使った。

前回は王家指定の用紙を使った為に読まれなかった一文が書かれているが、まあ本当の愛、永遠の愛を誓う二人には教える必要もないだろうと、あえて教えなかった。


(さて、どうなることかしら?)


そう思いながら、翌日は自分達でサインをして無事穏便に破棄された契約書と、新しい門出を迎えた二人のサインが入った契約書を受け取ると、「お幸せに」と二人に告げてその場を去った。

部屋を出た瞬間からピンク色の雰囲気が漂ってきたのでキモいと思いつつも、馬鹿王子との関係がなくなったことに心は晴れ晴れとしていた。

その心同様軽い足取りのまま、王宮の貴族管理課に二枚の契約書を提出しに向かったのだった。



契約書を提出した直後、王宮は大騒ぎになっていたらしい。

仕事から帰ってきたお父様が「よくやった」のお言葉と一緒に教えてくださった。

結果が出るのは早くて半年後かしらなんてのんびりしていたら、永遠の愛は3ヶ月ももたなかったらしく、殿下とヒロインは喧嘩の末に契約書を破ってしまったそうだ。


「あらあら。そんな愚かなことをなさりましたの?」

「ああ。と言うわけで説明に来いと吠えられてな」

「ふふ、お父様も一緒に行ってくださいますわよね?」

「当たり前だ」


その言葉に含まれているのは、愛娘への思いやりではなく、私同様「こんな面白いものを見逃してなるものか」という気持ちが一番大きそうだった。


王城につくと、殿下とヒロインが魔法が使えないとぎゃんぎゃん騒いでいた。私の姿を見るとすぐに「お前、俺たちに何をした!」「魔法を封じるなんて酷いわ!」と文句をぶつけてきた。


「あらあら。わたくしに契約書を作れと命じたのも、我が家の用紙でいいと許可を出したのも、立会人は必要ないと拒絶なさったのも、殿下だったではありませんか」

「な、た、確かに、そうだが……何故魔法が封じられている!」

「何故と言われましても。我が家の用紙の魔方陣が『契約を破棄せし場合、契約者の魔法を封じる』というものであることは、王宮に勤めている者ならだれでも知っていることですわ」

「俺は知らん!」

「王家の者は魔方陣についても学ぶと聞いておりましたので、ご存じだと思っておりましたわ。まあ、立会人さえ立てていればその説明もあったはずなのですけどねえ」


ふふっと私が優雅に笑うと、二人は黙って私を睨んだ後でヒロインが「殿下のせいじゃない!」と愛する男をひどく責め始めた。対する男も「言わなかったお前も悪い!」と責任の押し付け合いを始めていた。

だがそれよりなにより、重要なのは飾り罫だ。我が家の契約書には飾り文字で「契約者は、家の名誉をかけて、この契約書にのっとり、この契約を守ると誓う」と書かれている。

家の名誉をかけるというのは「守らなかった場合は、家の名誉を傷つけた罰で、家から追放されるという罪を受け入れる」という意味になる。

その説明を二人にしたとたん、二つの顔は真っ青になり、絶望の表情を浮かべていた。


「ふふふ。契約書魔法師と契約立会人を“たかが”と馬鹿にしたバチが当たったようですね」

「き、きさまっ!」

「ああ、それと、契約書を破ったのは悪手でしたわね。破らなければ元の状態に、契約書通りの関係に戻れば魔法の封印は解除されましたのに。破った時点で一生封じられたままになりますわ」

「そんな~~~~~!」

「ハメやがったなーーーー!」


泣き叫びながら公爵令嬢にとびかかろうとした平民達は、王宮の衛兵に取り押さえられていた。

しっかり捕縛されたのを確認して、私は優雅に一礼してから、謁見室を後にしたのだった。



謁見室から玄関に向かう途中にある役所エリアで私は声をかけられた。


「こんにちわ、セズンディッシュ嬢。謁見室は大変な騒ぎになっているようですね」


そこに居たのは王宮専属立会人の侯爵令息ジグモンド・コズメティートだった。


「あら、お久しぶりですわね、コズメティート卿」

「いい感じに罠にはめたようだね」

「あら、人聞きの悪い。コズメティート卿を呼び出して立ち会ってもらえばよかったものを、しなかったのは彼らのミスですもの。というより、契約書を渡したのは卿ではありませんの?」

「まさか。契約書保管庫に勤める、王家に逆らえない子爵が独断でやってしまったようですよ。脅されて」

「まあ、お可哀想に」


たとえ王子に脅されたとしても、勝手に契約書を保管庫から持ち出してはならない。だからそんなことをするものがいるはずないのだが。


「まあ、あの放蕩娘に彼の娘さんは婚約者を奪われたショックで、自らの手で儚くなられたそうなので」

「そうでしたの」


子爵は自爆覚悟で娘の敵討ちをしたということなのだろう。

そう言えばとある子爵令嬢に婚約破棄を言い渡して手ひどく振った子爵令息が、飲み屋の帰りに破落戸(ごろつき)に襲われた事件があったなと、マリリアンナは思い出していた。


「子爵が娘さんと同じところに行かれないと宜しいのですけど」

「そうですね。ところで話を変えますが、セズンディッシュ嬢の新しい婚約者はお決まりですか?」

「なぜかしら?」

「もしまだ決まっていないのなら、立候補させていただこうかと。家を継がない侯爵家の三男ですが、いかがでしょうか?」

「あら。でもわたくしが公爵家を継ぐとはまだ決まっておりませんわよ」

「継がれない場合は、二人で新たな仕事を、……行政書士事務所でも立ち上げませんか?」

「!! ……ふふ、それは魅力なお誘いですわね、モンド様」

「では、ご一考頂けると幸いです、アンナ様」

「お父様とも相談いたしますわ。それでは失礼いたします」

「よい夜を」

「貴方様も」


行政書士。

それは前世で、幼馴染が国家試験を見事突破して得た、書類を扱う専門職。

それもあって契約に関しては口酸っぱく言われたものだった。

現世では国同士の契約書の作成も任されることのある契約書魔法師と王宮専属立会人として何度も一緒に仕事をしていた。

その合間合間にかわされる言葉で、もしかしてと疑ってはいた。

前世の杏奈(わたし)の幼馴染で、いつもいい加減な私を叱ってくれた紋斗(もんど)


きっとこの出会いこそが運命であり、永遠に続く可能性のある関係だろう……と甘酸っぱくも幸せな予感に自然と笑みがこぼれていた。


もちろん、きちんと事細かく契約書は書かせていただきますけど♪

彼の前世からの得意分野なのだから文句は言われないはず。

その契約書にのっとって、私たちは長く幸せに過ごすでしょう。

お読みいただきありがとうございます。

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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


「春のチャレンジ2026」のテーマが「仕事」だったので、前に出だしと骨組みだけ書いてた話を掘り起こしました♪

一人称か三人称か悩みましたが、ラストが一人称の方がすっきりしたので、一人称に合わせました。

堅苦しいのは私の文章がというのと、主人公の性格が堅苦しいからと思っていただけると幸いです^^;


普段はのんびり長編「ドラゴンの使者・ドラコメサ伯爵家物語 ドラゴンの聖女は本日も運命にあらがいます!」を書いております。

URL:https://ncode.syosetu.com/n4604ho/

最近は週一でアップしておりますが、いつまでストックが持つかとハラハラしていますw

短編も思いついたらアップいたしますので、合わせてよろしくお願いいたしますヾ(*´∀`*)ノ

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『ハメやがったなーーーー!』←自業自得では。というより人の恨み買いすぎカップルで、こんなん放置してた王家は求心力下がってない?
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