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微笑む反映  作者: KageNoOto
13/22

第13話 ライブ配信「――大丈夫です」

守るためにつく嘘がある。

生き延びるためにつく嘘もある。


何万人の視線の前で笑い続け、

血を拭い、

何もなかったふりをする時――


真実は消えない。

ただ、

小さな声で歌い始めるだけだ。

ライブ前夜、ナナミは眠れなかった。


同じ悪夢を、

何度も見た。


屋上に立つ斎藤。

向かい合うのは、

ナナミだと彼が信じている“誰か”。


その少女は微笑み、

優しく彼の頬に触れ――

次の瞬間、

首元に何かを突き立てる。


斎藤は崩れ落ちる。

目を見開いたまま。


遠くから、

“本物のナナミ”が

すべてを見ている。


叫び声と共に目を覚ました。


震える身体。

涙で張りつく長い髪。


午前四時。

寮の浴室で、

一人。


ナナミは、

はさみを手に取った。


――ざくり。

――ざくり。


いつも可愛いリボンで結んでいた、

大切な長い髪が、

床に落ちていく。


終わった時、

肩までの短い髪。


斎藤のポケットで見た、

あの写真の少女と、

同じ長さ。


鏡を見つめる。


大きく見開いた目。

大人の真似をする、

子どものような顔。


(これなら……)

(斎藤さん、

あの人みたいに、

私を見てくれるかな……)


彼がすでに、

壊れるほどの想いで

彼女を見ていることなど、

知らずに。


ナナミは、

声を殺して泣いた。


――――――――――


金曜日、20時。

緊急YouTubeライブが始まった。


タイトル:

《Kiyora+は元気です♡

Q&A+ミニライブ》


小さなスタジオ。

ピンクの照明。

ロゴ入りの背景。


全員、

黒のソフトゴシックロリータ。

腰には、それぞれの色のリボン。


ナナミが、

最後に入ってくる。


カメラが彼女を捉えた瞬間、

チャットが爆発した。


《ナナミ髪切った!?》

《ロングどこ行った!?》

《可愛いけど何があったの!?》


カメラ外で、

斎藤は凍りついた。


意味が、

分からなかった。


ライブ開始。

数秒で20万人。


作り笑い。

流れる質問。


「彼氏いますか?」

「推しは誰?」

「グループで一番好きな曲は?」


ぎこちない笑い。

空っぽの答え。


ユイが話そうとした。


「私の好きな曲は……」


声が、

消えた。


口は動くのに、

音が出ない。


唇の端から、

細い血の筋。


チャットが暴走する。


突然、

映像が乱れた。


ピクセルの向こう、

黒い背景に――

長いツインテールと赤いリボン。


一瞬だけ。


音楽に重なる囁き。


「――もうすぐ、私が歌う」

「誰にも、止められない」


映像は戻る。


メンバー同士、

恐怖の視線。


サヤカが配信停止を押す。

反応しない。


《今の影なに!?》

《声聞こえた!》

《十人目のアイドル!?》


キョウカが息を吸い――

血を吐いた。


黒いドレスに、

赤が飛び散る。


口を押さえても、

指の隙間から溢れる血。


膝から崩れ落ちる。


ライブは続く。


ナナミが駆け寄り、

泣きながら抱きしめる。


他のメンバーは、

動けない。


それでも――

キョウカは、

無理やり笑った。


震える、

壊れそうな笑顔。


「……だ、大丈夫です」

「ぜんぶ……演出です」

「カムバックの……ね?」


誰も理解していない。

でも、

恐怖で頷いた。


映像が再び歪む。


ナナミの背後、

もっと近くに、

影。


囁きが、

今度ははっきりと。


「可愛い」

「もうすぐ、

私のために歌うのね」


そして、

元に戻った。


チャットは止まらない。

配信終了ボタンも、

動かない。


ファンは、

無邪気に質問を続ける。


《キョウカ大丈夫?》

《ナナミ髪切った理由は?》

《Stay With Meの“特別な人”って誰?》


サヤカが即興で叫ぶ。


「アカペラで歌います!」

「チャットで選んで!」


選ばれたのは――

ナナミ、

リカ、

アヤメ。


三人が立ち上がる。

震えながら。


ナナミが歌い出す。

壊れそうで、

優しい声。


リカとアヤメが重ねる。


画面は数秒おきに乱れ、

影が現れては消える。


子どもの笑い声。

囁き。

泣き声。


ライブは、

止まらない。


もう、

彼女たちのものではなかった。


ようやく配信が切れた時、

ネットは爆発していた。


《史上最高のライブ!》

《演出神すぎ!》

《血吐くとかヤバい!》

《Kiyora+はホラーアイドルの女王!》


誰も、

疑わなかった。


スタジオの中で、

彼女たちは崩れていた。


斎藤が駆け込む。


一直線に、

ナナミの元へ。


強く抱きしめる。


「大丈夫か?」

「……どうして、

髪を切った?」


ナナミは、

涙でいっぱいの目で見上げ、

彼のシャツに縋りついた。


「……なんでもない」


嘘。


斎藤は、

さらに強く抱きしめ、

無限の優しさで頭を撫で、

指で涙を拭う。


「俺はここにいる」

「……ずっとだ」


ナナミは、

泣きながら、

彼にしがみついた。


それが――

最後の現実だと

信じるように。

「大丈夫です」


それは、

いちばん優しい嘘。


壊れないために。

壊れたことを、

知られないために。


けれど影は、

もうステージを降りない。


次は――

誰の声を、

奪うのだろう。

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