1.月は雲に隠れ、また姿を現す
ヒシオはただ、それをじっと見ていた。
ヨシヤの子、アサギユのエリコは腹を下していた。
ひどく痛む腹を抑えながら、花園(※トイレを指す)に駆けつけた彼女は、恐るべき絶望を目の当たりにした。
花園には開きかけの蕾が列をなしており、エリコが花を咲かせるためには少なくとも十の開花を待つ必要があったのだ。
彼女の蕾はもはや猶予がなく、ただ待てば咲き散らかさんとしているのは明白であった。
ゆえに彼女は罪を犯した。
エリコは女であった。しかし1つの尊厳のため、1つの尊厳を捨てる勇猛な女であった。彼女は隣の花園に駆け込み、男たちの気まずそうな視線を浴びながら、ひと部屋の植木鉢に駆け込んだ。
彼女は安堵とともに大量の花を咲き散らかし、ついでに月の涙をも拭い去った。
彼女は勇猛であった。
彼女は個室を後にし、怯える男たちを尻目に機嫌よく手を洗い、石鹸の香りを楽しみ、再び手を洗い、手で風を切り、花園を後にした。
そして彼女は魔法を使い、その場にいたすべての人の三十分を抹消し、一連の出来事をないものとした。
これで彼女の罪は、彼女だけのものとなった。
ヒシオはただ、それをじっと見ていた。
この作品はフィクションです。
ヒシオは鑑賞に際して発生した、いかなる罪、咎、苦悩、呪詛、倫理の欠如、社会的不利益、秩序の喪失、混沌の蔓延、その他全ての変化に対して、一切責任を負いません。




