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第三章 戦闘そして救出

 レオの背の上で風を切るように進みながら、俺たちは森の奥へと歩みを進めていた。セラは先行して空中から周囲の様子を探っており、時折ふわりと氷翼を羽ばたかせながら、周囲に視線を巡らせている。


「マスター、前方……多数の魔力反応を確認しました」


「多数? どれくらいだ?」


「10……20……あ、30……あ、減っていきます!」


 セラの声がわずかに強張る。


「減ってるって……誰かがやられてるってことか?」


「その可能性が高いです。戦闘中、もしくは一方的に襲われているかと……どうしますか、マスター?」


 心臓がどくりと鳴る。


 危険だ。でも――助けられるなら助けたい。


「行ってみよう。セラ、案内頼む」


「はいっ!」


 セラが先導し、レオがその後を追う。俺はレオの背で必死にしがみつきながら前方を凝視した。


 数分走ると、森の切れ目が見えてきた。茂みを抜けた瞬間――視界が一気に開ける。


 広い草原。その中央で、五人の冒険者らしき男たちが円を組むようにして戦っていた。


 周囲にうごめくのは、銀色の毛並みをもつ狼が多数見える。あれは確かシルバーウルフだ。★2の低級モンスターではあるが、この世界での脅威的にはどうなんだろう? さらに中央には、一際巨大な影。


「……あれはグレートウルフ(★3)!」


 体高三メートル。筋肉の鎧をまとったような獣。その眼光が鋭く輝き、牙が槍のように長い。グレートウルフ、シルバーウルフの上位種とされるモンスターだ。プレイヤー時代には獣系デッキを使う相手が使ってたっけ。


 草原にはすでに血が広がり、冒険者の一人は片膝をついていた。見てもわかるくらいには苦戦しているみたいだ。声を上げながら連携を取ろうとしている。


「このままだとまずいよな?」


 胸の奥がきゅっと締まる。目の前で繰り広げられる命のやり取り。平和ボケしていた生前の世界では考えられない光景だったからだ。


「はい。このままではあの人達は群れに押され、全滅はするでしょうね……マスター、どうしますか?」


 正直怖い。セラもレオも強いと思うが、この世界の“強さ”という物はまだよくわかっていないからだ。でも――答えは迷うまでもなかった。


「助けるぞ!」


「了解です、マスター!!」


 セラが茂みから飛び出す。氷翼が光を反射し、白い軌跡を描きながら一筋の光が進んでいった。



 ――――



 黒い金属のプレートを身につけたスキンヘッドの男性は焦っていた。


「くそっ……また来たぞッ! 囲まれるな!!」


 鋭い咆哮を上げ、シルバーウルフが草原を駆ける。

 俺――漆黒の刃のリーダー、キースは剣を構えつつ、重傷を負った仲間を庇う。


 相手をしているだけでもきついが――視界の端に、三メートル級の化け物が映る。


「グレートウルフ……なんでこんなところに……!」


 シルバーウルフを数匹相手にする程度ならわけは無い。だがこの数だ。ざっくり見ても十体以上。何匹か倒したがそれでもまだこれだけの数。さらにこの群れを統率しているリーダー、それがグレートウルフとは――。


 こいつは単体でも中級冒険者が五人揃ってようやく倒せる相手。


「ぐッ……!」


 脇腹を鋭い爪がかすめ、熱い血が流れ落ちた。数が多すぎる――! 一体を対処している間に別のシルバーウルフが攻撃をしてきて、捌ききることが出来ない!


 痛みに歯を食いしばりながら、俺は剣を構え直す。


「このままじゃ……全滅する……!」


 その瞬間、


 ガンッッ!!!


 一匹のシルバーウルフが衝撃で弾き飛ばされた。


「なっ……!?!?!?」


 俺の前に降り立ったのは――


 水色の髪を揺らす、小柄な少女。

 美しい光を帯びた四枚の翼。

 手には身の丈以上の巨大な大剣。


 その姿は、あまりにも神聖で、現実離れしていた。


「え……天使、か……?」


 仲間の誰かが震える声で呟く。


 少女はさらりと振り返り、柔らかく微笑んだ。


「大丈夫ですか? 怪我、深そうですね……!」


 そして次の瞬間――


 少女は空気を裂き、別のシルバーウルフの脇を蹴り、そのまま勢いを殺すことなく吹き飛ばした。


 もう一方向では、炎が炸裂し、数匹のシルバーウルフを巻き込んで蹴散らす。


「グオォォッ!!?」


「な……火炎魔法!? 誰が……」


 草原に姿を現したのは巨大な炎狼――レッドファングだった。


「なんで……レッドファングが……!?」


 その圧倒的な存在感を放つ天使の格好をした少女とレッドファングに、俺達の視線は釘付けにされた。



 ―――



 レオは男達へ迫ったシルバーウルフを炎の一撃で吹き飛ばすと、守るように位置取る。


「セラは周りを倒しつつ、グレートウルフをやってくれ! レオは負傷者の護衛! シルバーウルフの残党は優先的に潰せ!」


「了解です、マスター!」


「ワフッ!!」


 セラは地を蹴り、ただ一人で群れの中央へ突撃。


 レオは負傷者の周りを囲みながら敵を次々と切り裂いていく。


 俺は叫びながらスキル画面を開いた。


「デッキ……召喚……失敗!? また召喚できない……! 条件がわからん!!」


【召喚失敗】

【条件を満たしていません】


 無慈悲な文章が画面に表示される。


「条件ってなんなんだよぉ……!」


 考えている暇はない。今この状況で出来ることだけを考えろ!


「セラ、右側にまだ三体いる! レオ、そっちは危険だ、回り込め!」


「はい、マスター!」


「ワフゥッ!」


 セラが大剣を振るうたび、空気が凍り付く。


「はっ!!」


 斬撃が氷の衝撃波となり、シルバーウルフを三体まとめて両断。

 さらに周囲の敵も凍結し、砕け散る。


 負傷者に迫る一体を、レオが火炎で威嚇する。


「ガゥッ!!」


 地面ごと切り裂き、敵を即処理。知性の高さに冒険者たちは戦慄する。


 残るはグレートウルフのみだ。巨体が怯えたように後退する。


「マスター。最後は……押し潰していいですか?」


「だからその言い方やめろ。……まあ、任せる!」


「では……とどめです!」


 セラの足元から冷気が集中し、巨大な氷塊が生成される。


 え、あれデカくない?


「は、はぁぁぁぁっ!!」


 氷塊がグレートウルフへ直撃し、大地ごと砕いた。土煙と冷気が、氷塊を中心に衝撃波のように広がった。


「セラ!! やりすぎ!!」


「ま、またやりすぎましたぁぁぁ!!」


 どうやらこの子は加減という物を知らないらしい……。



 ――



 俺は男たちに駆け寄る。


「おーい! 大丈夫ですか!」


 黒を基調とした鎧の五人組は、明らかに混乱している。

 リーダー格の男が腹部を押さえながらこちらを見る。


「ああ……ありがとう、助かったよ……このお嬢ちゃんとレッドファングはアンタの仲間? なのか?」


「ああ、セラもレオも俺の仲間だから安心してくれていい」


「はは、そうかい」


 男性は苦笑いを浮かべながら警戒を解いた。シルバーウルフとグレートウルフの群れを簡単に倒し切る相手なのだから、警戒はしても当然だろう。


「怪我は大丈夫ですか?」


「大丈夫……と言いたいが、まあ言えねえよな」


 男は周りにいる他の仲間たちに視線を移す。中には横になり重症な人もいる。


「街に戻って手当、もしくは神殿に連れていけば間に合うだろうが……」


 悔しそうな顔をする男。仲間を見捨てたくないのだろう。そんな時だった、セラが反応する。


「私、回復魔法使えますよ」


「セラ、出来るの?」


「はい。これでも大天使なので神聖魔法は得意ですよ!」


 自信満々に答えると、任せろと言わんばかりに手を胸に当てる。


「なら頼む」


「はい! マスターのお願いなら喜んで!」


 セラは剣をしまうと、両手を前に出す。身体がうっすらと光ると、風が吹いたように髪が流れていく。


【キュアサークル】


 そう唱えると、セラを中心に周囲に光が広がった。淡い光が傷に集まると一気に塞がる。


「傷が……ない……!?」


 倒れていた男達が驚愕の表情を浮かべる。


「全体回復魔法だと!? こんな規模……!」


 周りからどよめきが生まれる。回復魔法はそんなに珍しいのだろうか? そんな疑問も抱きながら、怪我が全快した男達は立ち上がり、リーダー格の男の周りに集まって来た。


「助けてくれて、本当にありがとう」


 リーダーの男が言う。


「俺は漆黒の刃のリーダー、キースだ」


「律です。こっちが大天使セラフィエル、で、レオです」


「本物か……? 天使の格好をしたお嬢ちゃんじゃなくてか?」


 キースは疑いながらもセラを見て話す。そんなセリフにセラは、


「天使じゃありません! 大天使です!」


 と訂正を加えている。


「悪い悪い、疑うわけじゃないんだ。ただ――天使なんておとぎ話や伝説でしか存在を聞いたことがないからな」


 キースは苦笑いを浮かべたあと、眼光を鋭くして俺を睨む。その溢れる殺気からセラとレオが身構える。


「お前ら、何者だ?」


「……ただの一般人です。気づいたら森にいて、ゴブリンに襲われて……偶然セラを召喚して……それで、みなさんが大変そうだったから助けたくて」


 キースはしばらく見つめ――ため息を吐く。


「……嘘を吐いてる目じゃねぇな。疑って悪かった。改めて、ありがとう」


 差し出された手を握り返す。


「信じてくれてありがとうございます」


「仮にも命の恩人なんだ、疑いはしたが……それ以上に敵対するなんて馬鹿な真似はしねえよ」


 キースは巨大な氷塊に視線を移し、「こんな規格外な奴らを敵にしたくないしな」と言い、セラのオーバーキルの状況を見て、俺はハハハと苦笑いをする。


「で、大天使? のお嬢ちゃんはマジなのか?」


「だから本物です!」


 未だに信じられないキースの質問に、セラは頬を膨らませながら翼を広げて証明しようとする。


「鳥族って感じでもないな……それにあの神殿のヤツら顔負けの回復魔法、俺でもわかるくらいの圧倒的な魔力、何よりあの力。信じざるを得ないか……」


「あ、兄貴。このお嬢ちゃんが天使ってマジかよ」


「俺も未だに信じちゃあいないが……嘘はついてないようだしな。それにお前らも身をもって体験しただろ? 奇跡を」


 先程の回復魔法の事だろうか。ここまで驚かれるとは流石に想定外だった。


「それに――レッドファングだろソイツ? それを使役してるのはアンタか?」


「ああ、俺が召喚した」


 質問に答えるとキースは両手を腰にあて、ため息をつく。


「天使? にレッドファングを召喚し従えてる? なんかの冗談だよな? レッドファングでさえ使役出来るのは王都で数えられる程度だ。さらにおまけに規格外の力を持つ天使のお嬢ちゃんまでいるときた」


 説明に反応するようにセラがちょいちょい「大天使ですって!」と訂正を加えているが、無視をしよう。


「天使なんて存在は過去に大戦で召喚されたって記録にある程度だ。それでも大きな犠牲を払ってやっと、だが制御なんて出来ず両軍共にその天使に罰として殲滅されたぐらいだ」


 セラって想像よりもかなりヤバい存在なのか。って事はこのまま街なんかに連れていったら大騒ぎに発展しそうだな……。


「よくアンタに従ってくれてるな……」


 そんな異質な存在である俺を見て、キースは疑問を抱いているような複雑な表情を浮かべた。


「あー、なんでだろ?」


「アンタも知らねえのかよ!」


「マスターはマスターです!」


「ワフ!!」


 セラとレオは仲良く返事をする。しかしキースの話を聞く限りでは、確かによく俺に従ってくれていると感じる。セラに至っては忠犬を思わせるくらいだし……たまにやりすぎで怖いけど。

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