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2章 カードゲーマーはやはりパック開封

 ゴブリンを両断し、森を一瞬で氷結させてしまったセラフィエル——いや、セラの圧倒的な力を前に呆然としていた俺は、しばらく口を閉じることができなかった。


 眼前には、白い息を立てながら凍りついた木々が果てまで続く幻想的な銀世界。

 俺の足元には、うっすらと氷の膜。

 さっきまで生命の息吹を感じていた森は、嘘のように静まり返っている。


「……マスター、本当にすみません。張り切りすぎました……」


 セラがしゅん、と肩を落とし、氷の大剣を抱えておずおずとこちらを見ていた。


 天使らしい神秘性はあるのに、なぜこうも“忠犬”なのか。

 怖い。けど可愛い。いや、やっぱり怖い。


「いや、まあ……助かったからいいけど……」


「本当ですか!? よかったぁ……!」


 ぱぁっと顔を輝かせる。

 氷の世界の中、セラの笑顔だけが妙に温かかった。


 しかし、このまま立ち尽くしているわけにもいかない。

俺は深呼吸し、まずは状況整理をしようと腰を下ろした。


「セラ、とりあえず……この世界のこと、知ってる?」


「えっ……!?」


 セラは一瞬きょとんとしたあと、困ったように指をつんつんと合わせた。


「……実は……わたし、天界育ちなので……下界のこと、全然わかりませんっ!」


胸を張って言うあたりが逆に可愛い。


「いや逆にすごい自信……いやまあ、そうか。

 じゃあ天界から来た天使は下界の知識がないのか?」


「はい! 天界の者は基本的に“召喚された時に初めて下界に降ります”ので……。わたしも今日が初めての下界ですっ!」


「今日かよ!!」


 俺の叫び声が凍った森に虚しく響く。


 どうしよう。世界の基礎情報が何一つ分からない。

 しかし、幸い俺には“もう一つの情報源”がある。


「……ステータスを開いてみるか」


 意識を集中すると、青いウィンドウがポン、と開いた。


【神代 律 Lv1】

HP:100

MP:20

攻撃:10

防御:5

ジョブ:カードゲーマー(EX)

スキル:

・デッキ

・パック購入

・召喚

・ストレージ(未解放)


「……カードゲーマー。本当にジョブになってるのかよ……ていうか、ステータス貧弱すぎないかこれ」


 十五年人生をかけた趣味が、まさかジョブになるとは思わなかった。


「マスター、わたしのステータスも見られるのですか?」


「え、見ていいの?」


「もちろんです! なんでもお見せします! 服を——」


「いや脱ぐな脱ぐな!ステータスだけでいい!」


 危うくセラが氷の大剣を投げ出して脱ごうとするので慌てて止める。


「……なんでそう健気なんだよ……」


「マスターですからっ!」


 胸を張る姿が犬みたいで可愛い……いや、天使なんだよな?

 俺はセラのステータスを表示した。


【氷界の大天使セラフィエル レベル1】

HP:4500

MP:1200

攻撃:850

防御:780

属性:氷・神性

種族 : 天使

スキル

【氷結魔法】【神聖魔法】【天界剣術】

固有スキル

《絶対零度》

《聖なる祝福》


《絶対零度》

対象の生命活動を瞬時に停止させる。

耐性無視・防御無視・神性耐性のある存在を除き、ほぼすべてに対して有効。

広範囲同時凍結が可能。


《聖なる祝福》

物理、魔法への高耐性

即死、状態異常無効化

常にステータス10%上昇


「…………」


俺はウィンドウを数度見返し、そして——絶句した。


「お前……怖っ!!?」


「えっ!?怖いですか!?そんなぁ……!」


 セラが潤んだ瞳でこちらを見る。

 いや可愛いけど問題はそこじゃない。


「これ……なんでも凍るじゃん……!」


「マスターに危害を加える存在は、全部凍らせて滅しますねっ!」


 天使スマイルで言うな。怖いから。

しかも追加の聖なる祝福ってなに?無条件のステータスアップに状態異常完全耐性に物理魔法耐性って、なにこれ?チートやチート。

ステータスだって同じレベル1とは思えないくらいに高い。


「★10って、本当にやばいんだな……」


最高レアリティカードの実力を改めて認識する。しかも俺が知る中ではセラフィエルはエルドラシアの中では最強と言われるカードではない。最強、反則、禁止カード認定とか言われてきたカードなんかは更にヤバいのだろう。

そう考えたらゾクッ寒気がする。そんな俺を見てセラフィエルは褒められたと思いニコニコしてる。


「いやあ、それほどでも…ま、まあ仮にも大天使の一柱ですし?一応天界では10本の中に入るくらいには強いんですよ私!」


「褒めた訳では無いけど…まあ褒めたことにしとこう」


エッヘンと胸を張るセラフィエル。鎧越しでも分かるくらいには意外と胸あるのかーとか若干スケベな考えがよぎりながらも、そんな事を考えている場合ではないと我に返りスキル画面に視線を戻す。


「とりあえず……デッキを見てみるか」


「デッキ?ですか?」


なんの単語かわからないセラを横目に

 スキル一覧から“デッキ”をタップすると、

 エルドラシアで使っていた俺の天使族デッキがそのまま表示された。

 セラ以外の懐かしいカードが並ぶ。ズラっと並ぶカード名を見ていると、横からセラがやってきて珍しそうに画面を一緒に見はじめた。

フワッといい香りがしてドキリとする。女の子が近くに来るのは何年ぶりだろうか…


「あ、ルミエルちゃん…マリエルちゃんもいるんですねー、先輩もいる」


「え、知り合いなの…」


「え?まあ知り合いというか同僚というか友達というか…まあそんな感じですね!」


「まあ大天使なら他の天使も同僚かあ…あ、《規律の大天使ミカエリス★9》……懐かしいな……」


リストを眺めながらミカエリスと書かれた項目を見る。

 金髪のイケメン天使のイラストが脳裏に過ぎる。このカードを買うのにも結構したんだよなぁ、前世での苦い思い出に浸る。しかしその分プレイ時にはかなり役に立ってくれたお気に入りのカードでもある。

 律の指がミカエリスのカードに触れた瞬間、

 召喚ボタンに視線が止まった。


「あ、召喚できるのか……?」


召喚が出来るならば戦力という意味でもかなり頼もしいだろう。それに召喚が可能ならばデッキ内全てのモンスターを召喚すればかなり安全だ。

そしていざ押してみる。が、反応がない。

首を傾げ何故?と思いながらもう一度押そうとしたら――


「だっ、ダメですっ!!」


 セラが飛びついてきて止めた。


「え、なんで?」


「ミ、ミカエリス様を呼ぶのは……ダメです……!本当に止めましょう!」


「そんなに?」


「ミカエリス様は“規律を司る大天使”……わたしなんかが勝手に呼ぼうとしたら……天界の凍結処分です……」


「凍結処分って何!?」


「読んで字のごとく……氷漬けです……わたしが……」


「氷の大天使なのに!?」


 セラはガタガタ震えている。

 ミカエリスの恐怖が伝わり、律は即座に召喚を断念。

仮にも氷を司る大天使を氷漬けにするってどういう事なんだ…まあ天使社会にも上下関係があるんだな。俺は震えるセラを見ながら生前の職場での日々を思い出す。


「と、とりあえず今は呼べないみたいだし、これ以上はやめとこう」


「ありがとうございますマスター……!!」


 セラが泣きながら抱きついてくる。

 可愛いけど、重い武器を持ったまま抱きつくのは危ない。

セラを1度引き剥がし、再度スキル画面を注視。



「次は……これだな。“パック購入”」


 押すとウィンドウが表示される。


【パック購入:100ポイント】

所持ポイント:200


「買えるじゃん……!」


 脳裏にかつての開封動画の記憶が蘇る。


「セラ、パックってわかる?」


「ぱっく……?食べ物ですか!?開けたらお菓子が出てくるとか!」


「いや違うけど可愛いなお前……」


「えへへ……褒められましたっ!」


しかしパックって…絶対にカードのパックだよね?

何となくだけど、自分のスキルと照らし合わせるとこのパック購入ってのは重要だと感じる。

カードの召喚が出来るという事は、パックを購入してカードを集め召喚して戦う。シンプルな答えだが、恐らくそんな感じだろう。

だが先程デッキのカードは召喚不可能だった…召喚には条件がある?それこそエルドラシアのように儀式や合成、ターン経過などの特殊条件か?

考えても埒が明かない。今出来ることをしてみよう。購入を押してみる。

すると目の前が光、長方形の物体が現れた。


「まじでエルドラシアのパックじゃん!!?」


 生前のカードゲームそのままのデザイン。鳥肌が立つ。


「まさか…異世界に来てまでパックを開封するなんてなあ」


「これがパックですか?食べ物ではないんですね」


セラはやはり食べ物ではないとわかると明らかに残念そうな表情を浮かべる。さっきから食べ物を期待しているがお腹でも空いてるのだろうか?

もはや何千と開封してきたであろう鮮やかな手つきでパックを開封しカードを取り出す。やはり生前通り5枚入りのようだ。



★1 絆創膏

「瞬時にHP100回復」

★3 万能秘薬

「あらゆる異常回復」

★4 レッドファング

「モンスターカード」

★2 テント

「一夜経過で全回復」

★3 ボルケーノソード

「炎属性付与武器」


セラは興味津々で覗き込む。


「これがカードですか?」


セラは手にもつ5枚のカードを物珍しそうに眺めていると


「薄い紙…のように見えますが魔力を感じますね。特にコレとか」


「レッドファングか…」


セラが指したのはレッドファングのカード。★4ともなるとレアリティ的には中間辺り。BOXとかで何十とパックを開封してきた身としては、結構出てくるイメージではあるが数パックしか引けない現在で見たら運がいいのかもしれない。


「残り100ポイントか…よしもう一度引くか」


というわけでよく考えることもなく、即ポイントを使い切ってしまった。まあこればかりはカードゲーム好きとしては仕方ないのだ。高レア当てたい!強いカード!というある意味ギャンブル的な側面から来ている。

淡い期待を抱きながら再びパックを開封すると…


★1 絆創膏

★1 非常食

★2 テント

★3 落とし穴

★4 レッドファング(被り)


「いや被るなよ!!」


床に膝をつき、片手で地面を叩きながら叫んだ。次の瞬間、脳内に声が流れてくる。

【ストレージが解放されました】

【被りカード ★4レッドファングが能力解放可能です】


「ストレージ……?」


 スキル画面に新しく追加されている。開くと——レッドファングが光っている。


【★4レッドファング:2枚所持 → 常時召喚権付与】

【召喚しますか?】


「常時召喚?ってことは常にいるって事か」


 もちろん“はい”を選択

すると目の前に光の柱が現われ、中からゆっくりと出てきたのは巨大な狼。


 体高は2メートル以上。白とオレンジが入り混ざる毛並み。

 口からは炎の息が漏れている。


「で、でか……こわ……!」


 想定よりも大きな獣の出現に驚き、尻もちをつく律。想像では大型犬くらいを想定していたのに現れたのは体格2mは超える獣。口から見える牙は鋭く、足から見える爪も鋭い。

オマケにレッドファングは炎属性を扱う事が出来るモンスター。口から漏れ出ている吐息は炎が揺らめき、体毛からは熱を感じられる。

しかしレッドファングは——


 ノシ……ノシ……と近づき、

 律の前で伏せ、尻尾をブンブン振った。


「……従う気満々じゃん!?」


 恐る恐る頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。


「よし……じゃあお前の名前は……レオ!」


 レオは喜びのあまり吠える。

 セラも同じように撫でようと手を伸ばすと、気配に気づいたレオが距離を取り、グルルと唸り声を上げて威嚇をする。


「ひゃっ……!?」


威嚇されたことに驚きつつも悲しそうに眉をひそめる。


「レオ、セラは仲間だからな?」


 レオは即座に警戒を解き、セラの前まで歩いていき、身を擦り寄せる行動を取る。レオなりの謝罪の気持ちなのだろう。


「レオさん……よろしくお願いします!」


「ワフ!」


果たして氷を司る大天使が炎を操る狼と仲良くしてもいいのだろうか。まあ考えるだけ無粋か。

見た感じは美少女が狼と戯れているようにしか見えない。うんこれはこれで和む風景だな。


「っと、ここにいても仕方ない……街を探そう」


 歩き出そうとした瞬間、レオが律のパーカーを噛んで引っ張る。


「乗れ……ってこと?」


 背に乗ると——

 ふわふわで暖かい。最高の乗り心地だ。

しかもこれは俺が火傷しないように温度を調節してくれてるのか


「セラ、お前は?」


「わたしは飛べますよ」


 透き通るような4枚に別れた氷翼を広げ、軽やかに浮かぶ。

 こうして俺たちは氷の森をあとにし、

 最初の街を探して歩み出した。

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