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涙坐徒然

〈眞夜中の砂漠月咲く冬隣 涙次〉



【ⅰ】


* 涙坐、魔界の庶民の為の面談は、ルシフェル統治になつてから打ち切られた。ルシフェルは涙坐が【魔】の血筋を引いてゐるからと云つて、容易には「彼の民」に近付けなかつたからだ。涙坐、一人「開發センター」を訪れ、彼女の面談に依つて人間界の住民となり、その結果ルシフェルに殺された時軸思緒の墓に掌を合はせた。何やら冬の風が吹き初め、うそ寒い日、彼女は「わたしのやつて來た事つて一體何だつたんだらう」と慚愧の念に駆られた。



* 當該シリーズ第81話參照。



【ⅱ】


當面は、* しやつくり始まると透明人間化する云ふ特技(?)を生かした仕事が、彼女のメインワークとなりさうだつた。然し、これから寒くなつて行く大氣が邪魔である。完全な透明人間と化すには、服を脱がなくてはならない。それでは余りに寒い。

涙坐は安保さんに相談した。安保さんは「私に任せて置きなさい」と云つてくれた。** 父・平凡が生きてゐれば、丁度安保さんと同じぐらゐの年齡だ。凡にとつては晩くに出來た子である涙坐は、生前の凡に存分に甘える事が出來た。だがその溺愛も、彼が【魔】の本分を生かさうとした為、無駄なものになつてしまつたのだつた。



* 當該シリーズ第50話參照。

** 當該シリーズ第138話參照。



【ⅲ】


安保さんは、それを着た者の皮膚と化す、特殊なボディスーツを造つてくれた。アンドロイド開發の途上で考案した人工皮膚の技術を生かしたのである。これを着れば、見た目透明さを保ち、然も暖かい。「有難う御座います!」-ふと、(かうであるべきだつた)父の面影を、涙坐は安保さんに、見た。



※※※※


〈寒々と絡めた足は素足なり夜は眠れる者を勝ちとす 平手みき〉



【ⅳ】


そのボディスーツを着ての仕事は、やはりルシフェル絡みのものだつた。彼の時軸に依る銃撃で受けた傷(前々回參照)は、どのくらゐ癒えてゐるか、と云ふ調査。本來ならこれは、「シュー・シャイン」の仕事の領域だつたが、「シュー・シャイン」はルシフェルを大いに苦手としてゐた。涙坐は、「使へる男」=「シュー・シャイン」にも苦手意識と云ふものがあるんだな、と思ひつゝ、魔界に透明となつて潜入した。



【ⅴ】


ルシフェルは執務室にゐた。珈琲を運ぶ部下の【魔】がドアをノックし、「開いてるぞ」とルシフェルが云ふ。その隙を見て、彼女は執務室に紛れ込んだ。

驚いた事に、ルシフェルの傷は大方治つてゐた。ルシフェルは、前回処刑された無名の【魔】の生き血を啜り、そして復活したのである。その事を知つた涙坐には、氣持ちの動轉があつた。(何て殘酷な!)ルシフェルはその精神的な動揺から、何かゞ部屋に入り込んだ事を知つた。彼は讀心の術にも長けてゐたのだ。



【ⅵ】


「誰ぞ紛れ込んだな」-彼は、執務室の氣温を一氣にマイナス50℃にまで下げた。さつき迄湯氣を立てゝゐた珈琲が氷結した。だが、安保さん製作のボディスーツはそれに良く耐へた。とは云へ、顔面は露出してゐた為、涙坐の眼球は凍り付いた。生命からがら、何とか脱出出來たのは、躰を覆ふボディスーツのお蔭と云ふしかない。もう少し長く(執務室に)ゐれば、彼女は顔面の凍傷で死んでゐるところだつた...



【ⅶ】


鼻先が眞つ赫になり、鼻水が氷柱になつてゐる。カンテラには見せられる(何せ仕事上の事だ)が、安保さんには見せたくない姿だな、と涙坐は思つた。「あら、わたし、戀をしたのかしら」-さう、涙坐はファザコンだつた。



※※※※


〈風の子のローラースケート迅き哉 涙次〉



ざつとこんなところである。父戀し、の心が、安保さんへの憧れに變質した- そんなカンテラ一味の女スパイが見せた、唯一の女ごゝろであつた。



【ⅷ】


涙坐のしやつくりが止まつた。姿が可視化する。彼女は眞つ先に安保さんに會ひたかつた。その身を、投げ出してしまひたかつた。そんな涙坐の氣持ちを、誰が知るだらう。尠なくとも、安保さんは知らない。これからも「自分の職務に忠實な」、お洒落と云ふ事を知らない安保さんでゐ續けるのだらう。そして、彼女の秘められた心は、決して暴かれる事はないのだ。お仕舞ひ。


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