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お転婆狐の後宮勤め〜半妖少女は囚われの皇子を救い出す~  作者: 八星 こはく


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第36話 そんなこと

「瞭寧山に行ってきたのか? そもそも飛龍、お前はなぜ部屋から出られた? 梓宸も、俺に報告もせずにこんなところにきて、何のつもりだ」


 声を荒げているわけではない。それでも、佩芳の声は一瞬で場の空気を支配してしまった。


 どうしよう。どうしよう。ここで、何を言うのが正解なの?


 通天犀の角を陛下に飲ませ、まずは陛下を回復させる。話はそれからだと思っていた。なのにまさか、今、佩芳に見つかってしまうだなんて。


「梓宸」


 佩芳が梓宸の名前を呼ぶ。

 その瞬間、飛龍が傷ついた顔をしたのが分かった。


 この状況で、佩芳様は真っ先に梓宸さんの名前を呼んだ。飛龍様は、それが悲しいんだわ。


「どういうつもりだ?」

「佩芳様……」

「俺はお前に聞いているんだ。答えろ、梓宸」


 どくん、どくんと心臓がうるさい。梓宸さんは、なんて答えるの?


 通天犀の角を渡すわけにはいかない。でも佩芳に角を要求されてしまったら? 佩芳に背いてでも、飛龍は皇帝の毒を治すことを選んでくれるだろうか。


「……わ、私が……」


 梓宸は顔を上げ、一度ゆっくりと深呼吸をした。


「私が依頼して、お二人に瞭寧山へ行くよう伝えたのです」

「……お前が? 二人に?」

「はい。ようやく見つかったんです。陛下を回復させる方法が」

「本当なのか、梓宸!?」


 佩芳は梓宸の肩を両手で掴み、激しく前後に揺さぶった。


「なあ、梓宸。本当なのか、なあ!?」


 玩具を買い与えられた子供のようなはしゃいだ声だ。


 やっぱり佩芳様は、陛下に毒を盛るつもりなんてなかったの?


「……はい。通天犀という幻獣の角さえあれば、陛下の病は治ります。それがようやく分かったんです」


 梓宸は嘘をついている。

 通天犀のことくらい、梓宸は最初から知っていたはずだ。だがそれを、ずっと佩芳に隠していたのだろう。


 でもこの状況じゃ、どうやったって誤魔化すことはできない。小鈴たちは、実際に通天犀の角を持っているのだから。


「ですが、通天犀は警戒心が強く、人間である私が角を採取するのは非常に困難です。そこで私は、半妖である彼女に依頼したんですよ」


 梓宸は躊躇いなく小鈴を指差した。目が合った瞬間、圧のこもった視線を向けられる。


 梓宸さんは私に頼んでなんかいない。梓宸さんは、陛下を助けるつもりなんてなかったんです!


 真実を口にすれば、どうなるのだろう。

 佩芳は梓宸に失望するだろうか? それとも、小鈴が嘘をついていると決めつけられるだろうか?


 分からないけど、今、真実を口にする理由なんてない。


「そ、そうです。そして飛龍様が、私を心配して、一緒にきてくれたんです」


 ちら、と飛龍を確認する。飛龍は梓宸のことを嫌っている。それでも、話を合わせてくれるだろうか。


「飛龍。二人の言っていることに、なにか間違いはあるか?」


 佩芳が飛龍の顔を覗き込んだ。


「いえ」


 首を横に振ると、飛龍は素早く小鈴の手から通天犀の角が入った袋をとった。


「兄上。この中に、角が入っています。兄上が梓宸に命じ、梓宸が小鈴に依頼して手に入れたもの。つまり、これは兄上が手に入れたものです」


 そう言って、飛龍はあっさりと袋を佩芳へ差し出した。

 もし今佩芳が角を廃棄してしまったら、皇帝はきっと助からない。


 それでも飛龍様は、佩芳様に託すのね。


「兄上が、父を救ったのです」


 飛龍の声は震えている。それに、今にも泣きそうな顔だ。

 でも、情けないとは思わない。飛龍がどれほどこの時を待っていたかを知っているから。


「このことを知れば、父上もきっと、兄上に深く感謝するでしょう」

「……飛龍」

「兄上が仕事に励み、療養の時間をくれたおかげで、俺の病も治りました。全部、兄上のおかげです」


 飛龍は深々と頭を下げた。


 飛龍様は病気なんかじゃないのに。

 佩芳様が、飛龍様を病気に仕立て上げたのに。


「……なあ、飛龍」


 佩芳が飛龍の顔を覗き込み、そっと肩に手を置く。次の言葉を想像するだけで、小鈴の緊張も高まった。


「……悪かった」


 たった一言だ。小鈴からすれば、あまりにも短すぎる謝罪の言葉だと思ってしまう。それでも飛龍は瞳を輝かせて、真っ直ぐに佩芳を見つめている。


 狡い。

 私はまだ、そんな目で見てもらったことなんてないのに。


「ありがとう。お前のおかげで、俺たちは救われた」


 なあ、と佩芳は梓宸に視線を向ける。梓宸は何も言わない代わりに、深々と頷いた。


「これはお前の手柄だ」

「……違います。兄上が命じたからこそ、ですよ」


 二人はしばしの間、無言で見つめ合っていた。

 沈黙を破ったのは、佩芳の笑い声である。


「兄上……?」

「いや、なんでもない。そうだな。そうだ。俺が命じたからだな」


 ははっ、と声を上げて佩芳は何度も笑った。


「だが、お前にも褒美をやらないとな。なにが欲しい、飛龍?」


 なんて調子がいい人なの。飛龍様が今まで、どんな思いで生活してきたと思ってるの?


 そう責めてやりたいくらいだ。飛龍の泣きそうな笑顔を見たら、とてもそんなことは言えないけれど。


「……久しぶりに、兄上と二人で食事がしたいです」


 そんなことか、と笑った佩芳の瞳は、涙でいっぱいになっていた。

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