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お転婆狐の後宮勤め〜半妖少女は囚われの皇子を救い出す~  作者: 八星 こはく


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第27話(梓宸視点)久しぶりに

「梓宸」


 部屋の扉がいきなり開いて、佩芳が中へ入ってくる。昔からそうだ。


「……翠蘭様とのお食事はどうでしたか?」

「いつも通りだったぞ」


 真っ直ぐに佩芳の顔を見ることができない。

 こんな態度をとっていれば、怪しまれてしまうに決まっているのに。


「それより梓宸。なにかあったのか? 顔色が優れないようだが」


 いきなり近づいてきて、佩芳が顔を覗き込んできた。彼の瞳に映る自分が酷く情けない顔をしている気がして、とっさに目を逸らしてしまう。


 私は馬鹿だ。

 佩芳様の偽物に、一瞬でも騙されてしまうなんて。


 飛龍が親しくしている侍女……小鈴のことは、怪しいと思っていた。そもそもこの状況で飛龍に近づく人間は怪しく見えてしまうし、普通の人間とは違うなにかを感じたのだ。


 だが、妖だ、という確信があったわけじゃない。

 なにより、あれほどの変化の術を扱える妖なんて、初めて見た。


 でも、簡単に動きを封じることはできた。

 妖力はそれほど強くないのだろう。だとすればあの娘は、変化の術に特化しているのかもしれない。


 ……長い間、人間と共に暮らしているから、か?


「少々、疲れているのかもしれません。昨夜もつい、読書に夢中になってしまって」

「そうか。勉強熱心なのはいいが、ほどほどにしておけよ」


 呆れたように笑うと、佩芳は梓宸の隣に腰を下ろした。


「ところで、梓宸。父上を治す方法は、見つかりそうか?」


 真剣な瞳で見つめられ、一瞬、息が苦しくなる。いえ、と首を横に振ると、佩芳は神妙な面持ちで頷いた。


「……もう、長くないのかもしれないな」


 佩芳の呟きには、いろいろな感情が滲んでいるような気がした。


「そんな顔をするな、梓宸」


 口を大きく開けて笑うと、佩芳は梓宸の頭を乱暴に撫でた。昔と変わらない仕草に、昔と変わらない笑顔。

 けれど、彼に無理をさせていることは分かっている。


「お前のせいじゃない」


 違う。違うんです。あれは、私の責任です。


 今でも、自分の選択が正しかったのかどうかは分からない。後悔する夜も、あれでよかったのだと叫びたくなる朝もある。


『陛下が亡くなってしまったら、もう、取り返しがつきません』


 小娘……小鈴の言葉が、耳から離れてくれない。このまま、時が流れるのを待っているだけで、本当にいいのだろうか?





 佩芳と出会ったのは、王都のはずれ……花街に近い、薄暗い路地だった。市場で食べ物を盗み、罵倒されながらもなんとか逃げきった直後のことだ。

 いきなり大勢の兵士たちに囲まれ、梓宸は自分の死を覚悟した。


「お前が、仙術が使えるという噂の男か」


 大勢の兵士たちの後ろから、一人の青年が出てきた。おそらく、年頃は同じ……17,18歳くらいだろう。もっとも、梓宸は自分の正確な年齢を知らない。

 物心がついた時にはもう、両親に捨てられていたのだ。


 とても、同じ人間とは思えないな。


 襤褸をまとっただけの梓宸とは違い、青年は立派な赤い袍を着用している。金糸の刺繍が目に鮮やかな、とんでもない高級品だ。


「おい。返事をしろ! 佩芳様が質問しているんだぞ!」


 兵士の一人が叫ぶ。佩芳と呼ばれた青年は片手でそっと兵士を制すと、躊躇いなく梓宸に近づいてきた。


「どうなんだ?」


 力強い瞳は、まるで晴れた日の空みたいだ。

 広大で、圧倒的で、そして……日陰の汚れなんて、知らない。


「……仙術などという、大それたものではありません。ただ、妖と話ができるだけです」


 小さい時から、人には見えないものが見えた。

 それが力の弱い妖だと知ったのは、周りが梓宸を避けるようになった後のことだ。

 どうやら普通の人は、力が弱い妖を見ることはできないらしい。


「つまり、妖を従えられる、というわけか?」

「その場合も、あります」


 妖が見えるせいで不気味がられてきた。だが、もし妖に頼ることができなければ、ここまで生きてくることもできなかっただろう。


「仙術をしっかりと学べば、強力な仙術師になる可能性もあるな」


 佩芳は頷くと、いきなり梓宸の腕を掴んだ。梓宸の腕が汚れていたせいで、佩芳の袍がわずかに汚れる。

 しかし佩芳は、全くそんなことは気にならないようだった。


「単刀直入に言う。お前、俺の物になれ」

「……はい?」

「そうすれば、衣食住は保障するぞ。いや、それ以上か」


 事情が全く理解できない梓宸を見て、佩芳は声を上げて笑った。


「仙術師というのは、ほとんどが面倒な家柄の人間だ。くだらない規則に縛られた、旧時代的な連中と言ってもいい」

「……はあ」


 仙術師のことなんて、梓宸はほとんど知らない。

 だが、彼らが人々に感謝される、身分が高い存在だということは認識している。

 そんな仙術師のことを、こんな風に話すなんて。


「つまらないことに縛られない仙術師が欲しいと、ずっと思っていた。妖と理解し合うには、妖に詳しい奴がいないとな」

「……妖と理解し合う?」


 妖は人間の敵であり、忌むべき存在。それが、この国での当たり前だ。

 しかし彼は今、妖と理解し合うと言っていた。

 驚いた梓宸を見つめ、佩芳は困ったように笑った。


「ああ。俺には、えらく理想主義な弟がいてな」


 行くぞ、と佩芳が梓宸の腕を引っ張った。梓宸はまだ、何の返事もしていないというのに。


 久しぶりに、目を見て人と話をした。

 久しぶりに、人として扱われた。


 その事実に、泣きそうになる。


「ああ、そうだ。お前、名前は?」

「……梓宸です」

「そうか、梓宸か。いい名前だな」


 適当なことを言って、佩芳は大きく笑った。苦労を知らなそうな、底抜けに明るく、傲慢にも思える笑い方だった。

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