第26話 唯一の道
「それに、佩芳様に化けるなんて、度し難い愚行です」
嘘……なんで? どうしてばれたの?
途中まで、上手くいってたよね。私、どこで失敗した?
焦りながら、とっさに近くにいた鳥に視線を送る。身体は動かせないけれど、なんとか目を動かすことはできた。
お願い。
飛龍様に、この状況を伝えて……!
この状況で声を出すことはできない。それでも必死に、眼差しに気持ちを込める。理解してくれたのか、鳥はすぐに飛んでいってくれた。
「どうしてばれたのか分からない、という顔ですね」
「……どうして」
「それより先に、変化の術を解いたらどうです? 貴女が佩芳様の姿をしているというだけで、腹が立って仕方がない」
梓宸がそう言ったのとほぼ同時に、小鈴の変化の術が解けた。
しかし、小鈴が術を解いたわけではない。
強制的に、術が解除されたんだ……!
体力切れで変化の術が解けてしまったことはあるが、他人に解除されたことはない。そもそも山奥で暮らしていた小鈴にとっては、梓宸が初めて会う仙術師なのだ。
「……困ったことになりましたね」
呟きながら、梓宸がゆっくりと近づいてくる。後ろへ下がろうとしても、やはり身体が動いてくれない。
考えて、私! 今、なにをするのが正解なの?
身体は動かないけれど、考えることはできる。どうにかして、この状況を脱する術を考えなくては。
それにまだ、聞きたいことを全部聞けたわけじゃない。
「仙術師として、妖は退治しなくては」
「ま、待って! 梓宸さんは、妖と友達だったんじゃないの!?」
とっさに叫ぶ。小鈴の口からそんな言葉が出たのが意外だったのか、梓宸は目を丸くした。
梓宸のことは怖いし、苦手だ。でも、絶対に分かり合えないとは思わない。
だってきっと、私と梓宸さんは似ているから。
すう、と大きく息を吸い込む。こういう時こそ、冷静さを保つのが大事だ。
私は、梓宸さんと争いたいわけじゃない。争ったって、何の解決にもならない。
「私はただ、飛龍様と佩芳様に仲直りをしてほしいだけなんです」
「それは佩芳様が決めることです」
「梓宸さんだって、本当はそれを望んでるんじゃないんですか?」
確信なんてなにもない。
でも、今の私には話をすることしかできない。
「梓宸さんは、佩芳様がずっと今のままでもいいと思っているのですか」
ぴくっ、と梓宸の眉毛が動いた。
予想通りの反応に安心する。
梓宸さんは、妖を憎んで私を攻撃しようとしているわけじゃない。
私が、佩芳様の邪魔になる可能性があるから排除しようとしているだけだ。
「昔の佩芳様に、戻ってほしいとは思わないのですか?」
佩芳がぎゅっと唇を噛んだ。小鈴を見つめる瞳には、迷いがある。
もっとちゃんと考えて、私。
私の言葉は、梓宸さんに届いてる。
皇帝が倒れたことに梓宸が関係しているのは間違いないだろう。
だとすれば、なぜ梓宸はそんなことをしたのか。
佩芳様のご命令? それとも、梓宸さん個人の判断?
どちらかは分からないけれど、どちらだとしても、目的はたった一つだろう。
飛龍ではなく、佩芳を皇帝にするためだ。
飛龍様には、皇帝になる意思なんてなかったのに。
「今が、最後の機会ですよ」
「……なにがです?」
「陛下が亡くなってしまったら、もう、取り返しがつきません」
梓宸が息を呑んだのが分かった。
「今ならまだ、昔の佩芳様を取り戻せるかもしれないんですよ!?」
叫んだ瞬間、急に身体が動いた。
梓宸が焦った時にはもう遅い。とっさに狐へ化けた小鈴は、既に逃亡を開始している。
「待て!」
当然、待つはずがない。全神経を足に集中させて、小鈴はとにかく走った。
◆
龍宮のすぐ近くまで駆けてきたところで、見張りに取り押さえられている飛龍を見つけた。
狐の姿のまま、勢いよくその胸に飛び込む。
「飛龍様、部屋へお戻りください!」
見張りが叫ぶ。飛龍はぎゅっと小鈴を抱きかかえると、おとなしく部屋へ戻った。
◆
「……すまない、小鈴。すぐに、お前のところへ行こうとしたんだが」
狐のままの小鈴の頭を撫でながら、飛龍が申し訳なさそうに謝る。
「大丈夫です。それより、聞いてください、飛龍様」
「なにか分かったのか?」
「はい。予想通り、梓宸さんが陛下の病気に関係していました」
小鈴の話を聞いて、そうか、と飛龍が俯く。
薄々感づいてはいただろうが、やはり事実として突きつけられると辛いのだろう。
「……ですが、佩芳様の命令ではなく、梓宸さん個人の判断かもしれません」
小鈴の言葉を聞いて、飛龍は瞳を輝かせた。
これは、ただの小鈴の推測だ。いや、願望、と言った方が近いかもしれない。
だけど飛龍様に、佩芳様が陛下の命を狙ったなんて、思ってほしくないもの。
「佩芳様を皇帝にするために、梓宸さんが勝手に仕組んだことだと思うんです」
梓宸の罪を知った佩芳は、梓宸を突き放さなかった。
彼の罪を共に背負って、皇帝になる道を選んだ。
「でも梓宸さんはきっと、後悔もしているはずです」
私が飛龍様に救われたように、きっと梓宸さんは佩芳様に救われたんだよね。
家族もいなくて、一人ぼっちで……そんな時に助けてくれた人を支えたいと思う気持ちは、すごく分かる。
でもその結果、梓宸が佩芳を変えてしまった。
そのことに対して、梓宸は苦しんでいるはずだ。
「飛龍様も、佩芳様も、梓宸さんも……本音ではきっと、前のように戻りたいと思っているはずなんです」
「……小鈴」
だがこのまま陛下が死んでしまったら、一生昔に戻ることはないだろう。
「飛龍様。陛下の病を治す方法を考えましょう。きっとそれが、唯一の解決法です!」




