第24話 任せてください
「梓宸が?」
「はい」
ただの思いつきだ。でもそう考えれば、全てに納得がいく。
状況的に考えれば毒を盛られたとしか思えない陛下。
でも、どれだけ調べても、毒は発見されなかった。
だけどそれが、普通の人には分からない毒だったら? いや、毒じゃなくたって、普通の人には見えないなにかが、陛下を苦しめているのだとすれば?
「……確かに、あいつならなにか知っているかもしれないな。今、兄上の一番近くにいる男だ」
飛龍の声には、隠しきれない嫌悪感がある。たぶん、梓宸のことが嫌いなんだろう。
「だが、どうする? 俺はあいつに嫌われている。お前も疑われていただろう」
「……はい」
梓宸のことを思い出しただけで、全身が硬直してしまう。本音を言えば、二度と近づきたくない相手だ。
でも飛龍様のためなら、私はなんだってやるつもり。
それに……。
「梓宸さんは、妖を友と認識していたと聞きました」
「そもそも、友などいそうにない男だがな」
「それはまあ、確かにそうですけど。って、そうじゃなくて……その、つまりですね、私を疑っていたとしても、それは半妖だから嫌っている、というわけじゃないと思うんです」
梓宸は仙術師だ。小鈴の正体を怪しんでいる可能性はある。
でも、美雨から聞いた話が本当なら、妖だという理由で小鈴を排除しようとはしないはずだ。
「私に佩芳様を害する意思はなくて、ただ飛龍様と佩芳様に仲直りしてほしいだけだと伝われば、歩み寄ることだってできるかもしれません」
「無理だ」
「どうしてですか?」
「あいつは、兄上以外の話を基本的に信頼しない。お前がどんな話をしようとしても、兄上に話がいくだろう」
「……なるほど」
翠蘭様のように手を貸してくれることは期待できない、ってわけだよね。
だとしたらやっぱり、直接佩芳様に話を聞くしかないの? でも、話をしてくれる気がしないし。
「梓宸は、兄上以外とまともに話さないんだ。協調性がまるでない。だというのに、兄上は昔から梓宸を贔屓して……」
小鈴が考え込んでいると、飛龍が梓宸に対する不満を言い始めた。
不満というか、嫉妬というか。
飛龍様って、やっぱり佩芳様が大好きなんじゃない。
「あの、飛龍様」
「なんだ?」
「梓宸さんは、佩芳様にならいろいろと話してくれるんですか?」
「だろうな。兄上に対してなら」
「……なら、佩芳様のふりをして梓宸さんに話を聞く、というのはどうでしょう?」
小鈴の言葉に、飛龍が目を丸くした。
「私は狐です。飛龍様も知っているでしょう? 変化の術は得意なんですよ」
「兄上に化けると言うのか?」
「はい。それなら、梓宸さんだっていろいろ話してくれるはずです」
「……だが、あいつに正体が知られたらどうなる。あいつは仙術師だ。お前の変化の術も、見破れるかもしれないんだぞ」
危険なことは分かっている。でも、他に梓宸に近づく方法は思いつかない。
しかもこれは、小鈴にしかできないことだ。
「その時のことは、その時になったら考えます」
「お前って奴は……」
「梓宸さんは仙術師かもしれませんが、私だって半妖です。ただではやられません」
この前はいきなりのことで身体が動かなくなってしまったが、次は違う。最初からちゃんと梓宸を警戒していれば、対処できるかもしれない。
「だから飛龍様。私に佩芳様のことを教えてください。見た目を変えただけでは、きっとすぐにばれてしまいますから」
「……俺は、最近の兄上のことは知らんぞ」
「でも、癖や喋り方は知っているでしょう?」
少しの間考え込み、当たり前だ、と飛龍は頷いた。
◆
「違う。歩幅が狭い。兄上はもっと大股で歩く」
「……はい」
「兄上は歩き出す時、右足から前に出すぞ」
「……はい」
「兄上は腕を組む時、左を上にするぞ」
「……はい」
ちょっと動くだけで、飛龍がいろいろと注文をつけてくる。さっきからずっとこの調子だ。
いろいろと教えてくれるのはありがたいけど、飛龍様、佩芳様のことが好きすぎるんじゃないの?
こんな弟に対して冷たい態度をとっているのかと思うと、佩芳への恨みが募る。そもそも佩芳が一方的に飛龍を嫌ったりしなければ、こんな危険を冒す必要だってなかったのに。
佩芳様には腹が立つけれど、飛龍様の幸せのために、二人が仲直りをするのが欠かせないってことがよく分かったわ。
◆
「なんとか、それらしくなってきたな」
長時間にわたる訓練の後、ようやく飛龍はそう言った。疲れきった小鈴は、そうですか、と頷くことしかできない。
そもそも、慣れない姿に変化するだけでかなりの労力を使うのだ。
「これで、梓宸さんも騙せるでしょうか」
「……だといいが」
作戦決行は、明日の夜だ。
明日の夜、翠蘭のところに佩芳がやってくる。つまりその間、本物の佩芳が梓宸のところへやってくる可能性はない。
時間は限られているし、怪しまれないためにも、たくさんの質問はできない。
ばれてしまったら、なにをされるかも分からない。
正直、すごく不安だわ。
「私に任せてください、飛龍様!」
でも、そんなことは言わない。だって言ったら、飛龍様まで不安な気持ちにさせちゃうから。
それに、できるって信じていた方が、できる気がするんだもん。




