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お転婆狐の後宮勤め〜半妖少女は囚われの皇子を救い出す~  作者: 八星 こはく


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第23話 好きなものは好き

「小鈴がきたと、飛龍様にお伝えください」


 懐に贈り物を隠し、見張りに頭を下げる。見張りは頷いて、すぐに飛龍のところへ向かった。


 やっぱり今日も、帰れ、なんて言われちゃうかな。

 その時は……また狐になって部屋へ行くしかないよね。


 会わない、という選択肢はない。会えない時間が長くなったところで、特に意味があるとは思えないから。


 飛龍様だって、二度と私に会いたくないわけじゃないよね……?


 祈りながら、見張りが戻ってくるのを待つ。

 戻ってきた見張りが、表情を変えずに言った。


「入れ、と飛龍様が言っている」





「あ、あの……この前は、申し訳ありませんでした。飛龍様の気持ちを考えず、先走ってしまって」


 深く頭を下げると、ああ、と低い声で飛龍は頷いた。

 怒っているようには見えないが、笑っているわけでもない。


「ただ、翠蘭様とも話して、佩芳様も、飛龍様と仲直りをしたがっているのではないかと思って」


 佩芳の気持ちは分からない。けれど、飛龍と仲違いをしてから佩芳が変わっていったことも、幽閉しておきながら飛龍に危害を加えていないことも事実だ。


「それと今日、王都へ行ったんです。それで、飛龍様にお渡ししたい物があって」


 懐から櫛を取り出し、そっと飛龍に差し出す。漆黒の櫛は小鈴からするとかなりの出費だったが、皇子が使うような品ではないだろう。

 けれど、これを飛龍に渡したいと思った。


「飛龍様は、櫛を贈る意味をご存知ですか?」

「意味?」

「はい。美雨さんに聞いたんです。……櫛を送るのは、相手の幸せを祈る、という意味があるのだと」


 目が合うと、飛龍が泣きそうな顔をした気がした。


「私が佩芳様と仲直りをしてほしいと思ったのは、飛龍様がそれを望んでいると思ったからなんです」

「……小鈴」

「でも私は今の飛龍様のことも大好きで、だからその、ええっと……」


 飛龍の夢を支えたいと思ったのは事実だ。誰もが幸せに暮らせるように、という理想にも憧れた。

 それ以上に、きらきらと輝いていた飛龍の瞳が好きだった。

 だけど、夢や理想がなくたって、飛龍を好きな気持ちは変わらない。


「私はとにかく、飛龍様に幸せに笑っていてほしいんです。ここにずっといることが幸せなら、私はそれでも構いません」


 ちゃんと、気持ちは伝わっているだろうか。完全な人間じゃない私も、しっかりと言葉を紡げているだろうか。


「もし、皇子の立場を捨ててどこかに逃げるのが幸せだと言うのなら、私だって一緒に行きます」


 二人で城を出て、どこかでひっそりと暮らす。それはそれで楽しい気もする。

 別に小鈴は、城での煌びやかな暮らしに憧れてここへきたわけではないから。


 飛龍様が夢を捨ててしまうのは、残念だと思ってしまうけれど。


「私は、飛龍様に幸せになってほしくて、それから、ずっと一緒にいたくて……ただ、それだけなんです」


 話しながら、泣きそうになってきた。涙がこぼれないように必死に目を開けて、真っ直ぐに飛龍を見つめる。


 自分の気持ちを伝えるのって、こんなに感情がぐちゃぐちゃになるんだ。


「教えてください。飛龍様。飛龍様は、佩芳様と仲直りがしたいんじゃないですか? 飛龍様の幸せには、それが必要なんじゃないんですか?」


 もし必要ないと本気で言われたら、佩芳との仲直りに固執するつもりはない。


 翠蘭様には悪いけれど、私はとにかく、飛龍様に笑ってほしいだけだもの。


「……お前の言う通りだ」


 深い溜息を吐いて、飛龍は小鈴から目を逸らした。


「馬鹿みたいだろう。こんなところに閉じ込められて、病だということにされて……それでもまだ、俺は兄上に必要とされる日を待っている」

「そんなことないです!」


 あまりに大きな小鈴の叫び声に、びくっ、と飛龍は飛び上がった。


「飛龍様の気持ちはよく分かります。だって私も、昔と違う飛龍様のことも大好きだし、飛龍様になにをされても、きっと嫌いになんてなれないから」


 飛龍がどうしてここまで佩芳を慕っているのかは分からない。でもきっと、慕うだけの理由があるのだろう。


「好きなものは好き。それで十分です。まあ、飛龍様が佩芳様のことばかり好きだというのは、ちょっと寂しいですけど……私のことも、少しはこう……」


 あ。

 私、つい余計なことを言っちゃったかも。せっかく、飛龍様が本音を話してくれているっていうのに。


「ごめんなさい、今はそんなこと……」

「馬鹿なのか、お前は?」


 ははっ、と声を上げて飛龍が笑った。

 昔を思い出させるような明るい笑顔に、胸が高鳴る。


「こうして今二人で話していることの意味を、お前はもう少し考えろ」

「……え? それって、どういう……?」

「だから、自分で考えろ」


 呆れたように言う飛龍の真意はいまいち掴めない。けれど大好きな笑顔が見られただけで、すごく幸せだ。


「とにかく、飛龍様はやっぱり、佩芳様と仲直りしたいんですよね? だったら、仲直りできるように頑張りましょうよ!」


 すぐに頷いてくれるかと思っていたのに、飛龍は寂しそうな顔に戻ってしまった。


「……父上のことが、気がかりでな」


 はっきりと言葉にはしていないが、おそらく、皇帝が倒れた件に佩芳が絡んでいるのでは、と飛龍も思っているのだろう。


 確かに、仲直りするにしても、真実は気になるよね。

 もし佩芳様が毒を盛っていたのなら、飛龍様の気持ちも変わるかもしれないし。

 でも、お医者様が湯呑を調べても何も分からなかったらしいし、陛下の傍にずっと控えているお医者様だって、原因不明だと言っているし。


「あ!」

「おい、小鈴。大声を出すな」

「すいません、でも、もしかしたらって思っちゃって」

「なにがだ?」

「梓宸さんが、なにか知っているんじゃないかと……!」

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