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お転婆狐の後宮勤め〜半妖少女は囚われの皇子を救い出す~  作者: 八星 こはく


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第21話(飛龍視点)負けるつもりはない

 自由に部屋を出られるようになって、8年が経った。飛龍は20歳、佩芳は22歳である。

 まだ皇帝は、世継ぎを定めてはいない。


「陛下は佩芳様でなく、飛龍様を世継ぎに指名されるつもりでは?」

「元々陛下は、飛龍様の母君を寵愛なさっていたではないか」

「いやいや、世継ぎは長男である佩芳様に違いない」


 様々な憶測が流れている。そのどれが正しいかなんて、飛龍だって知らない。


「……はあ」


 溜息を吐き、早足で部屋へ戻る。そのまま床に寝そべって、ぼんやりと天井を見上げた。


 病弱だった面影はとっくの昔になくなった。身長も伸びたし、体格も佩芳には劣るが、同世代の青年と比べればかなり立派である。

 剣の腕も、狩りの腕も上達した。幼少期から本ばかり読んでいたからか、勉強も得意だ。


 それが、よくなかったんだろうな。


「俺は、皇帝になどなりたくないのに」


 いつからか、兄が飛龍の部屋で食事をすることがなくなった。

 いつからか、狩りや剣の稽古に誘われることがなくなった。


 二人の対立を煽るような噂ばかりが流れ、兄と話すことも減った。嫌われているわけではない……と思いたいが、自信もない。


「さっさと父上が、兄上を後継に指名すればいいんだ」





 扉がいきなり開いて、飛龍は起き上がった。反射的に枕元においてある小刀へ手を伸ばす。

 部屋の前にはもちろん見張りがいる。怪しい者を飛龍の部屋まで通すはずがない。

 だが、警戒して損はない。


「……誰だ?」

「そんな声を出すな。俺だぞ、お前の兄上だ」


 久しぶりに聞いた明るい声に、身体の緊張が抜けていく。小刀を床に戻し、明かりを灯した。


「どうしたんです、兄上。こんな時間に」

「お前の誕生日を、一番に祝ってやろうと思ってな」

「……あ」

「なんだ、自分の誕生日を忘れてたのか?」

「別に、そういうわけでは……」


 誕生日には頼んでもいないのに盛大な宴を開かれる。忘れたくても忘れられない。だが、自分の誕生日と兄の来訪が全く結びついていなかったのだ。


 そうか。兄上は、俺の誕生日を祝おうと思ってくれたのか。


「おめでとう、飛龍」


 昔と変わらない明るい笑顔にほっとする。


「これをお前にやろう」


 そう言って佩芳が懐から取り出したのは、短刀だった。


「もしかして、それは……」

「ああ。俺が使っている短刀を作った刀匠に作ってもらった。お前、俺の短刀を欲しがっていただろう」

「……ええ」

「切れ味もいいし、軽い。俺の物より上質かもしれんな」


 軽やかに笑いながら、佩芳がそっと短刀を差し出してくる。両手で受け取った剣は、記憶にあるそれよりもずっと軽かった。


 確かに言った。

 兄上の剣が欲しいと。


 だが、同じ刀匠が作った剣が欲しいわけではない。兄上はそれが分からないんだろう。


「どうだ? 今度、余興で試合でもするか?」

「冗談はやめてください。俺には大勢の前で恥をかく趣味なんてないですよ」


 病弱だった昔とは違い、それなりに剣の腕前も上達した。しかし、兄と試合ができるほどではない。

 そんなこと、佩芳自身が一番分かっているだろうに。


「そうか? 俺は、挑むなとは言わないぞ」


 一瞬で、佩芳の顔から笑みが消えた。鋭利な眼差しに突き刺され、とっさに下を向いてしまう。


 初めて見る、兄の顔だった。


「なあ、飛龍。お前も知らないわけじゃないだろう。父上が、お前に後を継がせたがっている、という噂を」

「……ただの噂です。他人事だと思って、面白おかしく話しているだけでしょう」

「ない話じゃないだろう。元々父上は、お前をよく可愛がっていた」

「それは俺が母に似ているから、というだけでしょう」

「生まれつきお前が健康だったなら、既に父はお前を指名していたかもしれないな」


 兄らしくない言葉に焦る。今答えを間違えてしまったら、大切なものを失ってしまうような気がする。


 俺はただ、昔のように、兄上と話したいだけなのに。


「それに、お前は俺よりもずっと頭がいい。戦いならともかく、政はお前の方が向いているかもしれん」

「……なにをおっしゃるんです」


 ははっ、と佩芳は口を大きく開けて笑った。けれど、見慣れた太陽のような笑顔ではない。


「回りくどいことを言って悪かった。結局、言いたいことは一つだけだ」

「はい」

「俺は、お前に負けるつもりはない」


 はっきりと宣言すると同時に、佩芳は部屋から出ていってしまった。呼び止める暇もない。

 再び一人になった部屋で、飛龍はそっと地面にしゃがみ込む。


「……どうすればいい?」


 自分は帝位になど興味はない。そう主張したところで、きっと何の意味もない。かといって、兄を後継に指名してほしい、などと父親に頼むことも不可能だ。

 仮にそんなことをしたら、佩芳は怒り狂うだろう。


 兄をずっと尊敬していたし、憧れてもいた。そんな兄の隣に立って、兄を支えられるような人間になりたいと思っていた。


 その結果が、これだ。





 いよいよ、皇帝陛下が後継者を指名する。


 最近、王城はその話題でもちきりだ。正式な発表があったわけでもないのに、貴族たちもやたらとそわそわしている。


 佩芳は前以上に剣の稽古に励み、何度か戦にも参加した。武官たちの人気は完全に佩芳の物である。

 武官たちに対抗する文官の一部は飛龍を指示しているが、飛龍は派閥作りには興味がない。そもそも、皇帝になる気などないのだから。


「……兄上はきっと、少し焦っているだけだ」


 飛龍と違い、佩芳は生まれた時から第一皇子として育てられた。その重圧は想像することすらできない。

 そんな佩芳からしてみれば、弟に帝位を奪われるなんてあり得ないのだろう。


 父上も、俺に跡を継がせる気はないはずだ。あるのなら、もっと早く指名しているだろう。

 だからもうすぐ、前のように兄上と笑い合える日がくる。


「大変です、飛龍様!」


 廊下から叫び声が聞こえ、慌てて部屋の扉を開ける。真っ青な顔をした男が、震える声で叫んだ。


「陛下が……陛下が、意識を失ってしまいました!」

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