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【家のカレーというもの 料理番の呟き】
奴と知り合って、まだ一ヶ月も経っていないある夜。
雪の晩以降、奴はちょくちょく連絡を寄越すしついでに泊まっていく。そういう日は腹を決めて二人分の夕飯を作るのだが、正直まだ慣れない。
今日はまだ連絡がないが、来るのか?
早く連絡がほしい。献立が決まらない。
よし、今日は簡単にカレーにしよう。
最近食ってないし。
余っても冷凍して後日食えるし。
というか、奴はいつまでうちに来続ける気だ。
そう思っていたのだが。
「わ、手作りカレー?しかもビーフ?すげえ、ご馳走じゃん」
奴の喜びように驚いた。
訊けば、奴の家ではカレーはいつもレトルトのチキンカレーと決まっていたそうだ。
そのレトルトがビーフカレーになることも、そもそも母親の手作りの飯自体、稀だったと。
確かに家でも、俺でも、滅多にビーフカレーは仕込まないけれど。カレーほど楽な手料理もない気がする。
手作りビーフカレーを、あまりに彼が旨そうに食うので。
「俺の作る飯でいいなら、たまに食いに来いよ」
そう言ってしまった。
今思えば余計な一言だった。