継弟が来る
【ある夏休み】
8月。俺の継弟,星也は、毎朝うちに来る。
ここから電車で3駅の県立グラウンドで部活だそうだ。
いや、来るのはいいんだが。
彼が、此奴の分まで弁当を、
それも、特別に作ってやっているのがちょっと羨ましい。
ある日、休みの俺の昼として彼が作り置いたのは、卵焼きと鶏唐、人参&キャベツ&玉ねぎのサラダ、梅干し握りだった。
「なぁ、今日の昼飯何だったの」
部活帰りにうちへ来た星也に訊くと。
「えっとね、卵焼きと鶏の唐揚げ。ソーセージとパプリカとキャベツの炒めものはバルサミコ酢和えだと思う。人参と玉ねぎのサラダはレモンいっぱいかかってた。ズッキーニのチーズ焼きも美味しかった。あと梅干しご飯」
さらさらと答えながら、星也は弁当箱を洗う。
「あ、ほし。来てたのか」
バイトから彼も戻ってきた。
「お前、昼は何にしたの」
俺が聞くと、
彼は、
「あー、何にしたっけな」
と何故か答えを濁す。疲れた星也がソファで眠ってから、
彼は
「俺の昼は炒飯握り2個」と答えた。
「炒飯握りって何?」
「えっと……キャベツと人参と玉ねぎと鶏唐の残り刻んでいつもの卵炒飯に混ぜて、握り飯にした」
自分の小さなタッパーを洗いながら彼が教えてくれる。
「それって。俺と星也の飯の余りじゃないか」
俺が思わず言うと、彼は優しい顔で言った。「育ち盛りのサッカー少年の飯が最優先、 お前と俺は二の次でいいんだ」
【彼らのために】
真新しいオーブンレンジ。
彼が凄く奮発して買った。
オーブン機能が欲しかったらしい。
「俺やお前だけなら魚焼きグリルとフライパンで充分だけど」
何とも微妙なことを言う。
「これの出番も今だけだろうな」
と続け、彼はレンジの扉を開けた。
【懐く】
今日は星也が家に遊びに来ている。
たっぷりのハムとチーズを乗せて炙った、バゲットのオープンサンド。
グリーンサラダ。
トマトと卵のスープ。
休日の昼食をたらふく食べたくせに、
まだ食卓で、弥也人に追加で作ってもらったフライドポテトをもぐもぐしている。
こいつは、フライドポテトはホクホクよりカリカリが好きなんだそうだ。
ひときわ美味しそうに揚がっている一切れをじっと見つめて、
「やと兄」
キッチンを片付けて、ソファで本を読み始めた彼へ、星也が背もたれ越しに小さく呼びかける。
「はい、あげる」
言って星也が照れくさそうに、弥也人の口元にきつね色のポテトを差し出す。
彼は本に目を落としたまま、あ、と口を開けて、そのポテトを受け取っている。
「……ありがとう」
彼は仄かに笑っていた。
【ディナー】
魚のパン粉焼きは香草ソース掛け。 根菜のトマト煮は少しスパイシー。ひき肉と枝豆の温サラダ。じゃがいものチーズ焼き。
「お店みたい!」
フォークで大胆に突き刺した魚の切り身に緑のソースを塗りつけ、目を輝かせて忙しく口を動かす星也。彼にレモン水を差し出す彼の眼差しはいつになく甘やかで優しい。
【兄弟】
中学生になった星也に請われ、弥也人と俺は一緒にデパートへ出かけた。
弥也人も久々のデパートで、色々食材を物色している。屋上庭園で皆でソフトクリームを食う。星也が、ソフトクリームを舐める弥也人を、 こっそりフレームに納めた自撮りをしている。悪い奴だ、全く。それを待ち受け画面に設定してご満悦だ。帰り道。電車で眠ってしまった星也の寝顔を、この上なく優しい顔して弥也人が見ている。お前、そんな顔できるんだ。おもむろにスマホを取り出し、寝顔を写真に収めている。
俺のスマホに通知が来る。「お前の継弟、可愛すぎる」そんな文面と共に写真。わざわざ俺に送らなくていいんだが。
【弥也人ver.】
奴は星也を実家に送っていくとかで、俺だけ先に電車を降りることになった。
寝過さないよう起きている。
ふと傍らを見ると、二人が互いにもたれかかって眠っている。
乗客が疎らなのをいいことに、奴らの向かいの席に移動し、眠る継兄弟を写真に収めた。俺の新しい待受にしよう。
【年少者最優先】
今日の夕飯のメインは、坊ちゃん南瓜のグラタン。中身はしめじとツナ、チーズがたっぷり入ったホワイトソースだ。俺の育ち盛りの継弟には、さらに豚こまのソテーもつけてくれた。それも、人参と玉ねぎ、セロリの微塵切りをトマトペーストでまとめたソースをかけたやつ。
良いなぁ......。
と指をくわえてみていたら、呆れたように彼が俺にも作ってくれた。
【はろうぃん】
バターナッツ南瓜のポタージュに、茸と薩摩芋のリゾット。牛挽き肉とごぼうのトマト煮込み。ローストチキン。夕飯をご馳走になった上、☆は「トリック・オア・トリート!」と菓子をせがむ。「...どうぞ」彼が渡したのは南瓜ペーストとナッツの手作りクッキー。俺には市販の飴だったのに。




