春
【花より】
「明日さ、土曜」
珍しく彼から声をかけてきた。
応じると、
「バイトの連中と花見と飲み会で、俺、昼前からいないから」
まぁ、付き合いも大事だけど。俺とも行こうよ花見。
そう言いたいのを我慢して、
「判った」と返した。
そうなると俺、明日の昼は独りか。
冷蔵庫の惣菜は食っていいって言われてるし、適当に頂戴して済まそうかな。
いや、カップ麺でいいや……。
次の日の朝。
朝食を終えた後、彼が何かこしらえている。
塗りのお重に似せた大きい弁当箱を半分に仕切り、半分に炊き込みご飯を、もう半分には白米をぎっしり詰めている。
白米をさらに半分に仕切って、片方に鶏そぼろと炒り卵、残りには鯛でんぶ。
それから、小さい弁当箱に、菜の花の辛し和え。筍とシイタケ、ニンジン、揚げの炊き込みご飯。さわらの西京焼き。
玉子焼き。うどと蓮根の梅酢漬け。
無茶苦茶きれいなんだけど。
詰め終えて、ダイニングテーブルに運ぶ。
すげえなぁ、良いなぁ、羨ましいなぁと思ってみていたら、彼のスマホに電話がかかってきた。
「ん、そう。お前が言ってたから米だけ持っていく。写真?分かった。送る」
彼が弁当箱を写真に撮っている。ややあって、また電話。
「え?うん。そう。そっちは?」
通話を切った彼は面倒くさそうな顔をしている。
「どしたの」
「花見に、アレと酒しかねぇや」
アレ。あの綺麗な弁当と、飯のお重のことか。いいじゃん、アレがあるなら。
身支度を終えた彼は、大きい弁当箱と、大きめの水筒を保冷バッグに突っ込んで、玄関に向かった。
あの綺麗な弁当がテーブルに置かれたままだ。
俺は慌てて言った。
「ちっこい弁当箱は!?」
「お前の昼」
言い残して、出て行ってしまう。
え、この、綺麗な弁当、俺のために?
近くの公園にでも、俺も出かけようか。
彼の弁当持って。
……一緒に花見、行きたかったなぁ。




