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彼との彩食  作者: 日戸 暁
第2章 合鍵と家と二人の飯
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同居人

【揚げるー料理番の呟きー】

いつものように下味をつけた鶏肉。

粉をまぶし、揚げ油に投じる。


初めて揚げ物を作らせてもらえたのは、

確か、この家に来て3年が経とうという頃だったか。

ふと思い出す。

自分のためだけに、わざわざ油を出して揚げ物を作りたいと思わないけれど。

前みたいに、揚げ物を、俺の飯を楽しみに待つ奴がいるなら。久々に作ろう。



【酢豚】

じゅうわあ。油のはねる音。 揚げた豚肉 をカレー皿に盛る。軽くチンしたピーマ ン、玉ねぎ、パプリカに黒酢餡をざっと 絡め、肉にかける。野菜が少ししゃくっ として、かりっとした歯触りの肉は噛む と柔らかで、まろやかな酸味の館がさら っとして。もっと頻繁に作ってと頼むと 「太る」と言下に断られた。


【酢魚?】

ちゃんと揚げて作る酢豚は太るからそん なに作らないと言われたが。

片栗粉をまぶし、油を塗り、 グリルで焼き目を付けたメカジキのこま切れに、蒸し野菜と炒めネギの甘酢餡をかけて、 酢豚ならぬ酢魚を作ってくれた。

大変に美味だ。

味はあっさりだが、 野菜のボリュームと 魚の衣の香ばしさで、 胃袋は大満足だ。




【弁当】

同僚が、彼女が作ってくれたという弁当を週3くらいの頻度で持ってきている。

冷食のポテトや野菜、唐揚げとか、そしてとうもろこしを詰めたちくわや、可愛らしく巻いたハムを詰めてある。


今までは、それを羨みながら、俺はカップ麺やコンビニ弁当を掻き込んでいた。

でも今は。俺も週1、2くらいでうちの料理番の惣菜を持ってきている。

この前は、同僚が勝手に俺の弁当の鶏からを奪って食って

「え、めちゃ肉うめぇーし、ジューシー!これ、どこで売ってる?」

ってびっくりしてた。

「うちの奴が作ったんだよ」

と俺はとても誇らしかった。

……俺自身は何もしてないけどな。


というか、流石にみやとに弁当までは頼んでいなかったんだけど、

いつだったか、

夜に飲み会のある日で、夕飯は要らないと伝えるついでに、

今日は昼も案件やらで食べに出られないうえ、飲み会の店は飯が期待できないとこぼしたら、

「昼飯と夜食、要るか?」と急きょ、常備菜も使って弁当を拵えてくれたのだ。

弁当箱に、雑穀ごはんを一段ガッツリ詰めて、おかずは昨晩の鶏唐を3つ。馬鈴薯とツナのお焼きが2切れ。モヤシとキャベツの七味酢和えと印元の胡麻和え。

弁当とは別に、人参、椎茸、お揚げの入った加薬ご飯のお握りも包んでくれた。


それが、俺にとって人生初の、家で詰められた手作り弁当だった。

すごく嬉しかった。

飲み会の後に、彼にスイーツ買って帰っちまうぐらいには嬉しかった。


以来、朝に時間が取れる日は、彼が弁当を持たせてくれるようになった。


ちなみに、今日も弁当くれた。中身はなんだろうな。



【それは手に入れやすい、愛】

2月の半ば。

帰宅したら、甘い香ばしい匂い。

チョコレート ケーキだ。

「バレンタインだから焼いた」ってどういうこと。

製菓用の ビターチョコ、それも旨いのがたくさん手に入るから。

だそうで。

別に意中の人がいるのでも義理で配るわけでもないらしい。

「俺も食っていい?」

「良いよ」

というわけで翌日、職場で彼に分けてもらった チョコレートケーキを食っていたら、例の、彼女と棲んでる同僚に色々詮索された。

どう説明したものか。


【自分たちの関係は】

夕飯に出てきた、小豆とカボチャの煮物。

「いとこ煮だっけ」と訊くと、

「そういうらしいな」と彼。

「そういや、お前ってさ。俺の従兄の、従弟なんだよな」というと、

「それはもう他人だろ、第一、俺は……」

言いさして、彼はなぜか言葉を濁し

「あんたは俺の同居人。それでいいだろ」

その晩、それきり彼は口を噤み、二度といとこ煮を作らなかった。

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