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彼との彩食  作者: 日戸 暁
第2章 合鍵と家と二人の飯
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【いつか、“地元”の商店街〜料理番の呟き〜】

もう何年前になるだろう。


この家に初めて来た日の、翌日の夕方。

「あの......」

「うん?」

なんと切り出していいか分からない。

「○○さん」

「うん」

返事が返ってきたので、そう呼ぼうと俺は決めた。

「えっと、夕飯の買い出し、とか、俺、行っていいですか」

「あぁ。私も行こう。流石に来てすぐのお前を一人に出来ん」


○○さんが商店街に俺を連れて行く。

あれ、誰だい?と店の人が俺を指して訊く。

「しばらく、○○さんのお世話になります、」

俺は自分の実父の苗字で名乗る。

それを行く先々で繰り返す羽目になり、 俺は疲れた。


○○さんは家に着くなり、無言で俺を居間に引っ張っていった。顔が怖い。


何を怒られるのだろうと、俺は正直怯えていた。

「お前、私の世話になるつもりなのか」

あぁ、追い出されるんだなと俺は思った。

最短記録かもしれない。

「ごめんなさい......あ、明日」

「明日?」

「明日、役所に行くので、て、手続きとか、手伝ってください」

住まわせてはもらえないだろうけど。

この人は、大人の手というものを貸してくれるかもしれない、俺はそう思った。


いつになったら施設に行ってくれるの。

そう居候先の家で何度も言われたのだ。

施設入所のほうがマシだと俺も思う。

でも、手続きするのに今まで誰にも手を貸してもらえなかった。

そもそも実母がいつも何処かで絡むのか、役所にすら繋がらなかった。


○○さんは、俺の話を聴き、しばらく考えていた。

「私は、おまえを預かったとは思っていない。世話になる、じゃなくて、私と暮らすと言ってくれ」

そして、実は少し前から俺の存在を知っていて、俺を正式に引き取る...…どうにかして実母と縁を切らせて養子にするつもりでいたと教えてくれた。

ただ、思ったより早く、俺の身柄が回ってきたらしい。

そして次の日。○○さんと役所へ行った。


「あの時は、来て早々、ここには“しばらく”の間しか居たくないと思われたかと思った」

○○さんが、へにゃりと笑う。


正式に俺が○○さんの養子になった日。

お互い安堵して、そんな“思い出話”をした。

俺の作ったハンバーグを、二人で食べながら。

「来て直ぐ、勝手に台所漁ったから嫌がられたかなって思ってました」

俺の言葉に○○さんは笑っていた。

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