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彼との彩食  作者: 日戸 暁
第2章 合鍵と家と二人の飯
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雪解け

【土鍋】


俺が彼の家に居候し始めたばかりのころ。

帰宅した俺と入れ違いに、彼はバイトに出ることが多かった。

仕事から帰ってすぐに俺は彼を見送り、彼が作った夕飯を独りで食うのだ。


ある晩。

食卓にはまだ熱い一人用土鍋。

中では濃い味噌で煮込まれた白菜とうどんが、いい色に染まっている。


味噌煮込みうどん、俺、大好きだ。

それに、土鍋に入った料理って見た目からしてテンションが上がるよな。

今晩の献立に俺は舞い上がった。

ほどよい熱さのうどんを勢いよく啜る。豚と葱もたっぷり入って、実に旨かった。

でも、食べ終わって気づいた。


水切り籠にも流しにも、食洗機にも、どこにも他の食器がない。

普段は彼が夕飯に使った食器がどこかにあるのに。


土鍋は俺の使った一つきり。

……俺の分だけ用意してくれたのか。


翌朝、明け方に帰ってきた彼に俺は訊いた。

「昨日の夜、お前、何も食ってないの?」

は?と聞き返された。

「土鍋、1個だったから。お前、うどん食ってないだろ」

俺が言うと、彼は合点がいったようにうなずいた。

「飯はバイト休憩中に食ったよ。みそ煮と、握り飯」

彼が小さいタッパーを洗うのを見て、俺は少しほっとした。


「俺の分だけ、わざわざ土鍋でうどんとか、大変じゃね? 何か悪いな」

朝風呂の支度をする彼の後ろで言うと、彼は答えた。

「時間が合わないときに、あれ一つ食卓に出せばいいのはむしろ楽だ。……それに」

脱衣所から俺を追い出し、扉越しに彼が言う。

「お前、煮込みうどん好きだって言ってたろ」



【食器】

「暇なら、テーブルに箸でも並べてといて」

と台所で彼が言うので、

彼の焦げ茶の箸と、俺の、濃紺に縞模様の箸を食器棚の引き出しから取る。


彼の家でしょっちゅう食うようになった、ある日。

これ、お前のな。

と彼がくれたのは、新しい箸と茶碗、そして彼のと色違いのマグカップだった。


自分用の食器があるって、こんなに嬉しい心地になるんだな。

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