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第7話:旅路の果て

 

 数日間の長い旅を経て、アルバとリューゼスはついにヴェール王国へと辿り着いた。

 

 城壁に囲まれた王都は活気に満ち、多くの商人や旅人が行き交い、通りには様々な露店が並んでいる。空気には焼きたてのパンや香辛料の香りが混ざり合い、王都ならではの賑わいを感じさせた。

 

 二人は城門をくぐりながら、ようやく目的地に着いた安堵感と、これからの行動への期待に胸を膨らませる。

 

 「この辺りで、お別れだな。」

 

 リューゼスが立ち止まり、周囲を見渡しながら言った。

 

 「剣を探すのか?」

 

 少しの名残惜しさを感じつつも、アルバが問いかけると、リューゼスは小さく頷く。

 

 「ああ。俺が求める剣はこの国にあると聞いた。どこまで真実かは分からないが、手がかりを探す価値はある」

 

 リューゼスは腰の剣に手を添え、金髪を揺らしながら言う。彼の騎士としての執念が、その表情に滲んでいた。

 

 「じゃあ、俺はカイを探しに行くよ」

 

 アルバは拳を握りしめながら、強く宣言する。

 

 カイ──レギウスの仲間の一人であり、彼がこの王国のどこかにいるという情報を頼りに、アルバはこの旅を続けてきた。

 

 「気をつけろよ、アルバ。いくら王都とはいえ、何があるか分からん」

 

 「お前こそな。剣を探すだけならまだしも、無駄なトラブルに巻き込まれるなよ?」

 

 お互いに軽く笑い合い、そして拳を軽く合わせる。

 

 「じゃあな、また会おう」

 

 リューゼスの言葉とともに、二人はそれぞれの目的を胸に、賑わう王都の中へと歩き出した。

 

 王国の街並みは、他の王国と比べて少し古めかしくもありながら、独特の風格を漂わせている。街の中心部には巨大な市場が広がり、そこにはヴェール特有の物品や食材が所狭しと並べられていた。


 外から来た商人や旅行者も少なくなく、異国の文化が入り混じったような、活気に満ちた雰囲気である。生まれてから故郷の村以外の街並みを見たことがなかったアルバにとってはすべてが新鮮であった。

 

 アルバは道を歩きながらふとメモを取り出す。レギウスから渡されたそのメモには、カイの見た目や特徴、彼がどこに住んでいるかなどの情報が記されていた。


 「取り敢えず、家を訪ねてみるか...」


 夕日に照らされた街を歩きながら、メモに記された住所を目指す。少し歩いたあと薄暗い路地に、その家はあった。


 扉に数回ノックをしてみる。しばらく待ってみても、特に返事が返ってくる様子もない。


 「留守か....」


 アルバをため息をひとつ吐くと、再びメモに目を通す。どうやらカイは酒場をよく訪れているらしい。


 アルバは最寄りの酒場を周辺を歩いていた人々に聞きながら、2回ほど迷ってしまったがようやく辿り着いた。


 アルバが酒場に足を踏み入れると、賑やかな喧騒が耳に入ってきた。賑わう空間の中、周囲の人間を見渡すと1人の男に目がついた。


 無精髭に無造作に束ねられた黒い髪、中背で壮年の男。その腰には見慣れない形状の剣が収まっている。


 アルバはその男がカイである事をすぐに確信した。その男、カイは、他の仲間たちとの賭け事に興じていた。


 「つーことで、俺の勝ちだな。わりぃな皆!」


 「次の勝負は負けねぇからな、カイ!」


カイが叫ぶとテーブルを囲っていた男達も笑い声を上げながらカイの目の前に金貨を積んでいく。男達は金貨を置いた後、カイに別れの言葉を告げてから去っていった。


 積まれた金貨を懐にしまうカイに、アルバが少し躊躇しながらも歩み寄ると、カイはその足音に反応し、わずかに視線を上げてきた。


 だが、アルバはその目を確かに見た。酔っているように見えるカイだが、その目の奥にある冷徹な意志を感じ取ることができる。近づいてきたアルバをしばらく観察した後、カイは薄い笑みを浮かべながら言葉を発した。

 

 「へえ、お前が噂のアルバか。やっと来たな。遅かったじゃないか。」

 

 カイはだらりとした姿勢で椅子に深く座り、酒を飲みながらアルバを見上げる。ろれつは少し回らなくなっているが、その視線は鋭く、アルバの動きや周囲の状況をしっかりと捉えている様子が感じられた。

 

 「レギウス先生からの紹介で来た。あんたに色々教えてほしい事がある。」

 

 アルバの言葉を受けて、カイは軽く肩をすくめながら、再び無造作に金貨を指で回し始めた。その指先の動きには無駄がなく、アルバが少しでも気を抜けば、その瞬間に何かを仕掛けられそうな気配が漂っていた。

 

 「そうか…あのレギウスのやつが気にかけてる坊主ねぇ。まあ、別に構わんが、何が聞きたいんだ?」

 

 カイは、まるで何事もなかったかのように言葉を発しながらも、その顔には少し皮肉を込めた笑みを浮かべていた。アルバはその表情に少し戸惑いを覚えたが、すぐに冷静さを取り戻し、話を続けた。

 

 「黒鉄の牙に関することと、それから…キルバスのいる森への同行を頼みたい。」

 

 カイは少し驚いたように、アルバをじっと見つめた。男のその目の奥に冷徹な意志を感じさせる瞬間だった。

 

 「黒鉄の牙....それにキルバスか。お前、いったいどんなことをしたんだ?」

 

 アルバはしばらく黙っていたが、カイの問いに答える前に、軽くため息をついた。

 

 「あんたもレギウス先生みたいに黒鉄の牙を追っているんだろう?俺はあの組織を、黒い炎の男を見つけ出さないといけない。その為にあんたの力を貸してほしい。」

 

 カイは一瞬、静かな表情でアルバを見つめた後、ゆっくりと笑みを浮かべて、酒を口に運んだ。ろれつは相変わらず回らないが、その目つきと指先の動きは、やはり酔いから来るものではないことをアルバは知っていた。

 

 「なるほど…黒鉄の牙か。お前もなかなか大胆なことを考えてるな。だが、相手はお前が思う以上に強大だぞ。今の実力じゃ、奴らを追う過程で命を落とすだろうな。」

 

 カイは冷ややかな表情を浮かべながら、アルバをじっと見ていた。しかし、その言葉の中に、少しの興味が滲んでいることも感じられた。

 

 「俺は知りたいんだ。なぜあの日俺の故郷が焼かれたのか。あいつを追い詰めて吐かせるまでは、死んでも死にきれない。それに俺は他にも知りたい事が、”約束“がある。」


 「でも、今の俺の実力が全然足りない事も分かってる。もっと強くなる為に先生を、あんたを頼った。だからどうか、力を借してほしい。」


 アルバは深々と頭を下げた。アルバの言葉には様々な感情や覚悟が乗っていた。それを聞いたカイは酒瓶を置き、口を開く。


 「わかった、お前に付き合ってやる。キルバスには俺も用事があるからな。だが、強くなると抜かしたからには全力でついて来い。」

 

 アルバはその言葉を受けて、静かに頷いた。カイの条件は明確だ。

 

 「もちろん。やるからには全力だ。」

 

 アルバの言葉にカイはにやりと笑い、再び酒を飲みながら言った。

 

 「とは言え、今日はもう遅い。宿を紹介してやるからついて来な。」

 

 酒場で勘定を済ませたカイとともに酒場を出ると、すっかり暗くなった街の通りは静かだった。しかし、次第に何か異様な空気が漂い、アルバはすぐに何かがおかしいことに気づいた。


 周囲の人々が足早に通り過ぎ、時折不安げな顔で後ろを振り返るのを見て、彼の不信感は強くなった。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「さあな....」


 アルバはカイに目を向けたが、カイは酔っ払った様子でぼんやりと前を歩いている。アルバは無言でそのまま歩き続け、視線を周囲の人々の動きに合わせる。何かが迫っているのを感じ取った。すると、前方から響く金属音が耳に入ってきた。

 

 アルバはその音に誘われるように足を速め、急ぎながらも慎重に人々の流れを避け、少し外れた路地へと向かった。やがて、その音の源にたどり着くと、目の前に衝撃的な光景が広がった。

 

 「リューゼス…!」

 

 リューゼスが、幾人かの武装した男たちと対峙していた。男たちは剣や槍を手にしており、リューゼスはそれに対して一人で立ち向かっていた。彼は戦いながらも、冷静で、どこか優雅に動いている。彼の動き一つ一つに無駄がなく、敵の攻撃を巧妙にかわしつつ、反撃の手を緩めることがない。

 

 「ほーう、あの剣士なかなかやるじゃないか。知り合いか?」

 

 感心しているカイを尻目にアルバは自分の足を進める。

 

 「おい、リューゼス!」

 

 アルバは声をかけるが、リューゼスはその声に一切反応することなく、次の敵を倒すことに集中していた。その剣の前では、まるで風のように敵が倒れていく。戦いの中で、リューゼスの動きは決して乱れることはない。

  

 アルバはリューゼスのもとに向かって駆け寄ろうとしたがそれをカイが制止した。

 

 「あの腕前なら、こんな雑魚程度なんて事ないだろ。」

 

 こちらに気づいたリューゼスは一瞬だけこちらを振り向き、そして淡々と答えた。

 

 「心配するな、アルバ。すぐに片付ける。」

 

 その言葉と同時に、リューゼスは1人、また1人と薙ぎ倒していく。

 

 そして最後の1人を斬り伏せ、戦闘が終わり、静けさが戻った後、アルバは倒れている武装した男たちを一瞥し、無傷のリューゼスに向かって歩み寄った。

 

 「リューゼス、大丈夫か?」


 アルバが声をかけると、リューゼスは剣を鞘に納め、冷静に振り返った。

 

 「ああ。あと....横にいるのはお前が言ってたカイか。」

 

 リューゼスは淡々と答えるが、その表情にはどこか不快感を感じさせるものがあった。

 

 アルバはその表情を見て、少し考えた後に質問を投げかけた。


 「剣を取り戻しにいっただけでどうしてこんな事に....?」


 「ダリウス・ロクソン。だろ?」

 

 倒れている武装した男達の顔を確認しながら、カイは男の名前を呟いた。

 

 リューゼスはその言葉に一瞬の間を置いた後、ゆっくりと話し始めた。


 「そうだ。あの剣を取り戻すために、調べているうちに、とある商人、ダリウスが持っていることは確認していた。しかし、俺が買い取りに行ったところ、問題が起きた。」

 

 「問題?」


 アルバは眉をひそめ、さらに尋ねる。

 

 「俺が買い取るつもりで話をしていた時に、ダリウスが俺の顔を見るなり、護衛をいきなりけしかけて来てな。」


 リューゼスは少し肩をすくめながら続けた。


 「最初は話がうまくいくと思ったんだが、結局は戦いになった。それで、肝心のダリウスがその隙に逃げちまったんだ。」

 

 アルバはその話を聞きながら、リューゼスが剣を取り戻せなかったことを理解し、改めて提案した。


 「それなら、彼を追いかけて剣を取り戻すしかないだろ?」

 

 リューゼスはしばらく考えた後、軽く笑って答えた。


 「お前の提案通りだが、またお前を頼る訳にはな....それに奴が何処へ逃げたかも、見当がつかん。」

 

 「ダリウスの屋敷ならこの近くにあるぞ。そこに逃げてるかは分からんがな。」


 カイの言葉にリューゼスは驚いた様子を見せながら、言う。


 「知ってるのか?それなら場所を教えてはくれないか。」


 「ああ、勿論教えてやるが条件付きだ。俺達もダリウスの屋敷に同行させてもらおう。」


 (リューゼスとやらの剣も気になる所があるしな...)


 カイがにやりと笑いながら放った言葉に対して、リューゼスは眉をひそめたが、少し間を置いた後、頷いた。


 「はあ....分かった。」

 

 その言葉に、カイは笑みを浮かべながら先導する。ダリウス・ロクソンを追い詰めるために3人は歩みを進める。

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