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5 慟哭


一桜いおは、裏手にある騎獣小屋へ走った。

 すでに騎獣や馬は逃がされており、小屋はがらんとしている。

 その小屋の奥で、落ち着かない様子で動き回っている馬に一桜はかけよった。


「星彩!」

 嬉しそうに嘶いた馬には、きちんと作られた荷が積んである。


「よかった…星彩。無事だったね」

 艶やかな濃銀の毛並みに顔を押しつけると、星彩は一桜に首を向けた。

 大丈夫か、と言っているようだ。


「ありがとう、星彩……」

 声が震える。カズヤの最期が頭から離れない。でも。

「行かなきゃ」

 悲しんでいる時間はなかった。

 

 一刻も早く村を脱出しなくてはならない。


 一桜は素早く星彩に飛び乗った。

「星彩。ちょっと遠いけど、武蔵ノ国に行くよ」

 耳元で囁くと、わかった、というように耳が動いた。


「よし――行こう」

 星彩は静かに、しかし力強く駆けだした。





 火は村を舐めるように呑みこんでいた。

 雪の重さに耐えた家々も、苦労して耕し種を蒔いた畑も、すべてを紅蓮の炎が呑みこんでいく。

 火が回っているためか、国王軍兵の姿はほとんど見えなかった。それでも用心して屋敷の敷地を抜け、村の中に入る。


「みんなは」

 火の熱さの中、星彩を走らせながら周囲を見る。地面には、無数の村人が折り重なっている。生きている人影は見当たらない。


「ごめんね、みんな、ごめんね……」

 一桜は手を合わせ星彩で駆け抜けた。悔しくて悲しくて――でも、どうすることもできない。

 村の中央、数刻前まで祝宴が行われていた広場にも火の手が迫っていたが。


「お父様?! 兄さま?!」

 広場から城門へ向かって、国王軍で埋め尽くされる中、小突かれている数人の人影がある。

 その中に、父・鉱宗と一鉱の姿があった。


「隠れている大垣の民よ!その場所より見るがいい!」

 おそらく司令官だろう。巌のような体躯の武者が大声を張り上げ、大剣を振り上げた。

 鉱宗と一鉱が赤く照らされた広場に引きずられ、押さえつけられて膝まづく。


「この村は今日、終焉を迎える!」


 司令官は大剣を振り上げ、一鉱に向かって振り下ろした。

「……うそ」

 続けて鉱宗にも凶刃が振り下ろされ、広場は朱に染まった。


「これより、この地は山陰陽州美濃ノ国にあらず!王家直轄地として西方鎮守府大将軍、月白様が治める!!隠れている村人は即刻ここへ出てこい! 今出てくれば新たな村の民として殺さぬ!!」

 一人、また一人と、物陰からよろめく人影が出てくる。


「そ……んな……」


 お父様が。兄さまが。


――一桜。頼んだよ。


 一鉱の優しい微笑みが、瞼の裏に映る。


「う……うう……」


――タタカエ。


 誰かが、囁いた。


「うう……」

 一桜は、背に手を伸ばし、負った刀の柄を握った。

 吸い付くような、感触。


「うわあああああああ!!!」


 柄を素早く引いた、刹那――一桜は己に向かって刀を薙いだ。




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