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第7話 異世界召還(2)

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません

「総理! なんか、世界中、宇宙人の侵略で大パニックっぽいです! お屋敷も半分吹っ飛びましたよ! っていうか、顔ツヤツヤっすね!」


 シェルター内に滑り込んできた園田が、光二にスマホを見せつけてくる。


 そこには、なんか巨大な空飛ぶタガメにチューチュー吸われる東京ドームの姿があった。


 他にも巨大ガガンボが爆発して、クラスター爆弾のようなものをまき散らしていたり、巨大バチが人間で肉団子をこさえたりする阿鼻叫喚のショート動画が次から次に流れている。


「……今、三島さんが護衛の安否を確認しています。スマホが通じなかったので、とりあえず園田と僕が連絡に来ました」


 音もなくシェルターに入ってきた本郷が言う。


「ふーん、そうなんだ。大変だな」


 再びハッチを閉める瞬間、彼らの肩越しに見えたのは赤く染まる星空。


 本来ならそこにあるはずの床板は影も形もなく、庭の松に鯉がぶっ刺さっている状況であった。


 どうやら、家が吹っ飛んだという話は本当らしい。


「えっ! 反応薄くないっすか!?」


 園田が制服の胸ポケットにスマホを戻して叫ぶ。


「いや、俺、もう異世界に帰るし」


 異世界へのゲート――緑の渦を指さして言う。


 人がいきなり異世界に召喚されるのだから、宇宙人くらい攻めてくることもあるだろう。


 光二のイレギュラーの判定はガバガバだった。


「はっ!? 総理、ついに頭おかしくなったんすか!?」


「いや、しかし、あの渦は……」


 園田と本郷が混乱したように眉を寄せる。


「ほうほう、中々、かわいらしい部下たちじゃないか。愛人か?」


 そんな二人の顔を、ルインは興味深げに見つめる。


 そして、彼女が翻訳魔法を発動したのを察知した。


「んな訳あるか! 俺はこっちでは同性愛者疑惑が出ても独身を貫いたんだからな!?」


 この誠実さを評価してもらいたいところである。


「ふふ、冗談だ。匂いでわかる。エルフは生涯一夫一婦制を貫くからな。そこらへんは敏感だ。とはいえ、私は孤独なお前が少々火遊びしたところで愛想をつかしたりはしないぞ?」


「いや、そこはかっこつけたかったんだよ。俺的に」


 それに、変に深い人間関係をこしらえて、地球サイドに情を残しておきたくなかったというのもある。


「いや、まさか、だけど、並行世界の存在は科学的にも証明され……。それで、えっと、あの、総理、そちらはどなたですか」


「ジブンも大概不真面目っすけど、さすがに総理が有事にコールガールとコスプレプレイはやばいと思うっす」


「失礼なこと言うな! 彼女は俺の妻のルイン。俺的にはあんまり好きな言葉じゃないんだが、お前らにもっとも分かりやすい表現でいうと、ダークエルフだな。もちろん、コスプレじゃないし、コールガールでもない」


 光二はルインの肩に手を乗せ、混乱する二人に紹介する。


「え! マジっすか? でも確かにこんな美人でエルフな奥さんがいるならこれまで独身なのも納得っす。あ、でも、やっぱりちょっと信じられないんで、コスプレじゃないかどうか、耳触らせてもらってもいいっすか?」


 園田が手をワキワキさせて言った。


「いいぞ。――そういえば、コージも仲良くなって真っ先に触りたがったな。なんで地球人はエルフの耳を触りたがるんだ?」


 ルインはちょっとかがんで、園田の身長に合わせてやる。


 その耳を掴んだ園田が、「うおー、マジじゃないっすか!」とはしゃいでいる。


「んー、なんでだろうな。本能?」


 少し園田が羨ましい。


 光二はルインの耳を気軽に触れるような関係になるまで、三年くらいかかった。


「あ、あの、総理はどこで彼女とお知り合いに? 総理の少年時代はずっと引き篭もりで、議員になってからもこんな異文化接触をしている時間はなかったはずですが」


 本郷が控えめに手を挙げて問うてくる。


「ああ、すまん、俺の生い立ちは大体嘘なんだわ。俺、引き篭もりじゃなくてさ、ガキの頃から十年くらい、異世界で勇者やってたんだ。だから、ぶっちゃけ、日本に帰属意識もあんまりないんだよな」


 あっけらかんと言い放つ。


 個人としての精神性を確立していく時期の大半を異世界で過ごしたので、光二は自分が日本人であるという意識はかなり薄かった。


 単純に総滞在時間で考えると日本の方が長いのだが、国会議員になり、総理大臣になっても根っこのところは変わらなかったのだ。


「え!? 異世界召喚とかガチっすか? ってことは、やっぱり無双ハーレムでモテモテだったんっすか?」


 園田はルインの耳から手を離し、輝いた目で光二を見てきた。


「無双は無双だったな。モテたといえばモテたが、基本、勇者としての力を利用したい奴らばっかりだったから、手を出す気にはなれなかった」


 光二は欠伸一つして、答える。


 実はそれなりに苦行パートも修行パートもあったけど、それは彼女たちにわざわざ言うことでもない。


「ああ、最近はそういうシビア系の世界観の異世界系も人気ですもんね。ジブンはモフモフが好きっす」


「知るか。まあ、でも、むかつくから召還先の人間は滅ぼしたけどな」


「ああ、『ざまぁ系』ですか」


「俺の青春を四文字でくくるな」


 実際に光二が反抗した理由は、私怨によるざまぁというよりは、彼らが極端な民族主義的差別政策を敷いていたため、性に合わなかったという部分が大きい。かといって、反対側の亜人サイドが正義であるということは全然なく、そっちはそっちでエルフを頂点とする奴隷制度を採用していたので、どっちもどっちだった。


(まあ、最終的には俺がルインと一緒に全部ぶっ壊したけど)

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