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第5話 任期満了

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません

 一仕事終えた光二は、都内某所の自宅に帰り着いた。


 鯉のいる池に大岩を備えた庭。


 瓦屋根の純和風の平屋である。


 広さは超豪邸といって差し支えない。


 築年数は古いものの、昨今バカにされがちな和室界隈の中では最高クラスの家と言えるだろう。


 そんなテンプレートな政治家ハウスの畳敷きの居間。


 襖を取り払い大宴会場に早変わりした空間に、光二の警護――という名の何でも屋たちが勢ぞろいしていた。


 テイクアウトのファーストフードをドカ食いする者もいれば、寿司をパクつく者もいれば、庭でバーベキューをする者もいる。


 皆が思い思いの物を飲み食いして楽しんでいた。


 光二は上座――達筆でなんと書いてあるのかよくわからない掛け軸の前で胡坐を掻いて、その光景を眺めている。


 珍しく要救助者全員が命をとりとめたということで、場の空気は明るかった。


 もちろん、飲食代は光二の私費である。


 光二は独身だし、総理としては異常なほど交友関係が狭いので、4000万円近い年収はもてあますのだった。


「みんな、ちょっといいか。飲みながら聞いてくれ」


 一通り全員の腹がいっぱいになった頃合いを見計らって、光二は立ち上がり、口を開いた。


 皆が一斉に口をつぐんで姿勢を正し、規律正しく光二に向き直る。


 こういう所で、なんだかんだでこいつらも軍人なんだなと思う。


「みんな、知っての通り、もうすぐ俺の任期も終わりだ。次はない。皆で活動するのも、多分これが最後だろう。いくら俺でも選挙シーズンに突入したら、さすがに災害救助をしている暇はないだろうからな。つーことで、自衛隊に残るやつも、転職するやつも、俺のコネを使いたいなら早めに言えよ。できる範囲で声をかけてやる。以上」


 光二は要件だけを言って、また宴会の再開を促す。


 自分が総理を辞めた後も今のようなイレギュラーな警備体制が存続するのは考え難いことだった。


 みんな大人なのでなんとなく察してはいただろうが一応、本人の口から伝えておく必要があった。


「あー、楽しかったボディガード生活もそろそろ終わりっすか。郷さんとかどうするんっすか?」


 光二の目の前の座卓にいる園田が、中トロをエナドリで口に流し込みながら言う。


「とりあえず、自衛隊は辞めますね。先のことは考えてないですが、今はドローン操縦士に興味があります」


 そう言って、本郷はサラダチキンをかじる。


「おー、ハイテクっすね! ジブンはどうすっかなー」


「ははは、悩め悩め、若人よ! 定年のおっちゃんは退職金でのんびりやらせてもらうわ」


 三島が一気飲みした黒ビールの缶を握り潰して言った。


「帰るところがある人はいいっすね。ジブンはちょっと今更あの閉鎖的なクソ田舎の実家に帰る気はしないんっすよね。――総理! お願いだからもう四年やってくださいよ! そしたら、その間に頑張っていいATMな旦那を探してフケますから!」


 園田が冗談交じりの口調でこちらを拝む仕草をする。


「嫌だよめんどくせえ。大体、狸ジジイどもが許すはずもないしな」


 光二は肩をすくめて、芋焼酎をチビチビと口に含んだ。


 奴らは敗戦処理を押し付けたいだけであって、総理ポストを光二に独占させるつもりなんて微塵もないのだ。

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