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第23話 民主主義への挑戦

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません

 数か月後。


 光二は総裁選に再出馬し、議員票も党員票もぶっちぎって圧勝した。


 本来なら選挙の敗戦の責を負い退くはずであったが、吉田と井上の凄絶な最後を目の当たりにし腹を括った――ということに表向きはなっている。


 現実問題、次の総理候補は軒並み死ぬかトンズラムーブをかまして信望を失った人間かの二択なので、光二以外に適任者がいなかったという事情もある。


 ということで、これでまたしばらくは総理大臣ができる。


 ちなみに誰かさんが総裁任期を延長してくれたので、さらにもう一期分は総理大臣ができる。


 それが過ぎたら?


 お手盛りで延長してもいいし、洗脳済みの奴らからお飾りの総理を立ててもいい。


 やりようはいくらでもある。


「総裁就任おめでとうございます」


「おめでとーっす」


「大将、おめでとうございやす」


「おう。どうもなー」


 皆からの拍手に、軽い調子で答える。


 光二の自宅の庭では今、総理再就任のささやかな祝宴が開かれていた。


 テーブル代わりにしているのは、元枯山水の大岩。


 その上に並ぶ料理は政府備蓄米の雑炊にルインが異世界から持ってきたモンスター肉をぶちこんだだけのもの。そして飲み物は、地下貯蔵室で爆撃を免れた梅シロップの炭酸割り。


 総じて質素なものである。


「さすがは我が夫だな。民からも愛されているようじゃないか」


 隣のルインがそう言って、光二のグラスに炭酸を注ぐ。


 BGM代わりにつけているラジオでは、パルソミアの曲特集が組まれ、国歌はもちろん、勇者応援歌なるこっぱずかしいものまで垂れ流されている。


 すでにパルソミアの情報部が日本に入り、広報――もといプロパガンダは始まっていた。


「俺はルインにだけ愛されていればそれでいいんだけどなー」


 光二はちょっとだけコップに口をつけて、ルインに肩を寄せた。


「総理、見た目は若くても、中身三十路っすよね。さすがに大学生のバカップルみたいに公衆の面前でいちゃつくのはキモいっすよ」


 園田が呆れたように言った。


「でも、ラブラブ夫婦の方が国民ウケがいいだろ?」


「いや、そんな小細工しなくても、もうすでにマスコミは気持ちいいくらいに手の平返して総理絶賛一色じゃないっすか」


「まあ、俺の行動抜きにしても、あいつらは元々忖度に慣れているからな」


 光二はそううそぶく。


 もちろん、マスコミの上層部にもルイン洗脳魔法がかまされていることは言うまでもない。


「誠意を見せたら異世界関係の取材させてやる」と言ったら、ホイホイついてきた。


 しかも奴らは政治家以上に洗脳魔法に心理的な抵抗が薄く、全員横並びでガチ効きであった。あまりにも雑魚すぎて暗殺する必要性すらなかった。


(サンキュー報道の自由ランキングG7最下位)


「情けないと言やあいいのか、したたかだと言やあいいのか。本当に大丈夫なのかこの国と思ってしまいやすなあ」


「キャッシュレス後進国なおかげで、電子決済が死んでも現金が大活躍ですしね」


「ははっ、オワコン国家だったおかげで逆にスムーズにいくのが皮肉な感じっすね」


 愛国心の欠片もない我が自衛隊員たち。


 でもトップの光二からしてそうなのだから、文句は言えまい。


「いや、そう卑下したものでもないだろう。これだけの災害に遭遇しながらも秩序を保っている民衆の忍耐力と倫理観といい、クーデターに走らない軍隊といい、大したものだ。仮にパルソミアが同じ状況になったらこうはいかない」


 ルインがそうフォローする。


「そうっすか? ……異世界人さんにめっちゃ気を遣われてしまったっすね」


「そう美化できたもんでもねえわな。小官がここ一か月で何人火事場泥棒を捕まえて警察に突き出してやったことか」


「いえ、それでも日本は諸外国に比べれば落ち着いていることは確かですよ」


 本郷が暴動で火の海になっている凱旋門の動画を見せてくる。


 アメリカでも貧困地域はめちゃくちゃで、金持ちが固まってゲーティッドコミュニティを通り越して、州ごと独立しかねない不穏な空気である。


 日本はいまだにお上がなんとかしてくれるという幻想がギリギリ生きているおかげか、なんとか秩序は保たれている。


 もし大規模な暴動が起きるようなら、テレビ放送でルインが弱めの洗脳を流して沈静化する予定であったが、今のところは杞憂に終わっていた。


 彼女は膨大な魔力を保持しているが、それにも限度があるし、洗脳された人間は本来の能力の半分も発揮できないので、やりすぎるとマンパワーが落ちるからこれでいい。


 光二としても要所の要人だけがっつり洗脳して、民衆には好きにやらせておくつもりだ。


(国会は掌握したし、官僚の上の方も洗脳済みだ。司法は優先順位低いけど、違憲云々でごちゃごちゃ言われるのはタルいな)


 光二は英雄ではあっても別に民主主義の信奉者(ヤン・ウェンリー)ではないため、三権分立などしったことではない。


 絶賛民主主義への挑戦中である。


「勇者様ー、通信の魔道具、ホットライン? が反応しているのですがー、いかが致しましょうー」


 フルーリャがシェルターから出て、トコトコこちらに駆けてくる。


 彼女は聖騎士団と共に周囲と交わらず、シェルター内に留まり、異世界へと通じるゲートを守る役割を担っていた。


「わかった。今行く」


 光二は食事を中断し、立ち上がる。


 日本の治安が回復した今、国内の人間はあれを使わない。そして、外国で総理直通のホットラインをつないでいるのは、たった一国だけ。


「例の日本の宗主国か?」


 ルインが光二の耳元で囁く。


「ああ。手を噛むか、尻尾を振るか決めなくちゃな」


 光二は肩をすくめた。


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