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第10話 実験

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません

「よーしじゃあ、実験始めるぞー」


 学校の先生っぽい口調で言う。


「ちょっ、うわっ! 総理、勘弁してくださいよ! よりにもよってGを持ってこなくてもいいじゃないっすか!」


 園田が引き気味に腰の拳銃を構える。


「今更か? 園田が好きそうな飲食店もどうせゴキブリまみれだろ?」


「それとこれとは話が別っすよ!」


「えー? でも、もし世界の食糧庫が汚染されたり破壊されまくったりしたら、この先はエイリアン食がメインになるかもしれないぞ」


「……やっぱり異世界に行って自力でラーメン作った方がマシだったかもっす」


 園田が死んだ魚のような目で言う。


「と、冗談はこのくらいにして――どうだ? ルイン。精神系の魔法で乗っ取れそうか?」


「無理だ。魂がないか、あっても私たちのそれとは構造が異なる。故に洗脳魔法や従属魔法は効かない。感触としては、モンスターというよりはむしろ、錬金術師の作った低級のホムンクルスやゴーレムに近い存在だな。創造者の命のみに従う自律兵器だ。闇属性は普通に効く」


 ルインはゴキブリから這い出てくる白い幼虫――とはいえフランスパンくらいの大きさのそれを、踏みつぶしながら答える。


 もちろん、ただのキックではなく、闇魔法を纏ったキックだ。


 闇魔法のなにがいいって、死骸の後始末をしなくていいことに尽きる。


 潰れた幼虫は今頃、生贄として魔界送りにされてるはずである。さすがの魔王もちょっと、こんな異物を着払いされて困ってるかもしれない。


「創作物だと、こういう操作されているモンスターは創造主を殺せば消えるのが定番ですが……」


 本郷が顎に手を当てて、興味深げにその光景を観察しながら言う。


「ネクロマンサーの支配下にあるアンデッドとかなら指揮者を殺せば解決するんだけどな。自律兵器の場合は望み薄そうだ。そもそも、ボスの気配も遠いんだよな。少なくとも月よりは遠い」


 光二は気配を探りながら答える。


 すごい大きな気配を宇宙の先に感じるが、さすがにそこまでは攻撃は届かない。

 魔力の補給が万全ならいけるが、今は全然無理だ。


「大将、とりあえず、豆鉄砲をぶっ放してみましたが、中々厳しいですわ。トンボの腹なら角度がよけりゃ通るけど、貫通できねえし、カナブンやタガメは弾かれちまう」


 三島が虫の死骸を射撃しながら言う。


「やっぱり、ニューナンブじゃ無理か」


 彼らは自衛隊なのだが、携行しているのは警察と同じショボい拳銃である。


 自衛隊の正式装備の|アサルトライフル《89式5.56ミリ小銃》は、『銃社会ではない日本で護衛に用いるには過剰である』と、さすがに警察も面子にかけて譲らなかったし、光二もそこで妥協した。


 災害救助の際に、住民に無駄に威圧感を与えないための配慮でもあった。


「ですが、かすり傷――未満の線は走ってますね。絶望的なほど固くはなさそうです。ライフルやマシンガンでもある程度は効きそうですし、グレネードや戦車砲なら余裕で壊せるんじゃないでしょうか。とりあえず、ATフィールドみたいなチート性能がなくてよかったです」


 本郷がどこからともなく小型ルーペを取り出して、虫の装甲を観察しながら言う。


「でも、飛んで動き回る虫に当てるのむずくないっすか? いや、どっかにまとめて爆破すればワンチャンっすかね」


 園田がゴキブリの装甲をニューナンブの銃口でツンツンしながら言った。


「うーん、ノーダメではないとは思うが、並みの爆弾だと効果は薄そうだな。火魔法も氷魔法も風魔法も効果がいまいちなんだよな」


 光二は虫の死骸を魔法で焼いたり冷やしたりしながら言う。


 火魔法や氷魔法には中の上レベルまでなら耐えた。


 風魔法で真空を作って鎌鼬(かまいたち)したりするが、これもほぼ効かない。


 土魔法で圧殺してみるが、ゴキブリの幼虫レベルですら、トラックくらいの重さには耐えた。


 凝縮した土を弾丸として発射するなら――これは、普通に銃を使った方がマシだろう。


 とにかく、普通の魔法で大規模魔法をこしらえても、中途半端な結果で終わることが予想された。


「コージ、酸や毒魔法もほぼ効かないようだ」


 ルインは両手から毒液と強酸液を垂れ流しながら万歳のポーズをした。


 死体はまた闇魔法で魔界送りにして廃液処理も安心である。


「エイリアンが宇宙空間で生存でき、大気圏も突破できるほどの生命体であるとするなら、その頑強さにも納得ではあります。熱にも冷たさにも気圧差にも当然強いでしょう。宇宙には濃硫酸の雲に覆われた星や青酸ガスの星も珍しくないですし」


 本郷が頷いて言う。


「なんかこいつらズルくないっすか? ジブン、文系なんで難しいことはよくわかんないんっすけど、デカい怪獣とかは自重で崩壊するから物理的にあり得ないってなんかのテレビで観た気がするんすけど!」


 園田が八つ当たり気味にトンボの羽をガシガシと踏みつけた。


「怪獣というと動物のイメージですが、これは昆虫ですからね。それに、人類が光ファイバー繊維を発明したように、巨大化に耐え得る未知の外骨格や筋繊維が存在しても不思議ではないかと思います」


「お前ら、ごちゃごちゃ言っても始まるめえ。どういう理屈にしろ、いるものはいるんだからよ」


「三島の言う通りだな。……ふう。こうなったら、俺もズルいのを出すしかないか」


 光二はため息一つ呟いた。

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