試合の行方
決勝戦は第一騎士団団長と第二騎士団副隊長の戦いということもあり、応援する団員達の気合いは凄まじかった。二人の剣が合わさるたびに歓声が上がる。ヴィクトル団長もジノもお互い一歩も引かず、わずかな隙さえも許されない状況だ。
「わぁ、ジノって強いんだね」
「そうね、あれでも一応副隊長ではあるから、これくらい当然よ」
「第一騎士団の人も結構粘るね。でも戦いが長引けばジノに分がありそうだね」
「……そうかしら」
実力はほぼ互角といった感じだが、やはり実戦経験豊富で日頃から戦いなれているジノのほうが体力的には有利である。それにジノは体力バカなのだ。一日中戦場を走りまわって部下にドン引きされたという話を聞いたことがある。長引くと不利だと分かっているのか、ヴィクトル団長の攻める切先は一撃ごとに鋭さを増している。
「あれ? ジノを応援してるんじゃないの?」
「もちろんよ!」
「なら一緒に応援するよね」
含みのある笑いを浮かべるマルセルに反論出来ない。本当はヴィクトル団長を全力で応援したいのだが、ここは仕方なくジノを応援するしかない。本当に不本意だけれど。
「がんばれー」
「……それじゃあジノに伝わらないよ?」
「……」
あまりに熱がこもってないせいか、マルセルは不思議そうにこちらを見る。ここでバレるわけにはいかないので、やけくそ気味に思いっきり息を吸いこみ、ありったけの大声を出す。
「ジノ‼︎ 頑張りなさいよねっ」
声に反応したのかジノの動きがわずかに遅れる。その隙を逃さずヴィクトル団長の剣がジノへと振り下ろされ――
「試合終了。勝者、第一騎士団、団長ヴィクトル」
審判の声とともに試合終了の笛が鳴る。
「あらら、負けちゃったね」
さして残念そうではないマルセルの声とは反対にイザベラは拳を握りしめる。
「なにやってんのよ!」
思わず声を荒げる。ヴィクトル団長を応援したい気持ちを抑えて応援したというのに、あっけなく負けるとは何事か。しかもイザベラが応援したとたんに隙を見せるなんて、応援して損した気分だ。
「応援、されると思ってなかったのかもね」
「だからって失礼よね。声をかけた途端に負けるなんて」
マルセルに言っても仕方ないのだが、ジノの肩を持たれたようで面白くない。しかしイザベラの八つ当たりには動じずに嬉しそうに笑っている。もしかすると怒られたりすると喜ぶ人なのかと、訝しげにマルセルを見つめる。
「じゃあ俺は帰らないと。あまり長居すると面倒だからね」
「ああ、そうね」
試合が終わると観戦していた令嬢たちがこちらをチラチラと見ているのが分かる。あからさまにイザベラを睨んでくる令嬢もいるがそんなことで気迫負けするようなイザベラではない。
「それと今度贈り物の感想を聞かせて」
「分かったわ」
「ありがとう」
マルセルがふんわりと優しく微笑む。それを見た周りの令嬢達から黄色い悲鳴が上がるのだが、イザベラはその微笑みをリリにすれば良いのにと思ってしまう。
「じゃあまた」
「ええ」
そそくさといなくなろうとするマルセル目掛けてやってくる令嬢達の姿が目に入る。令嬢達に捕まる寸前でマルセルは訓練場から出ることが出来たみたいだ。マルセルの姿が見えなくなるとイザベラは騎士仲間達に取り囲まれてしまう。
「どういうことか説明しなさいよね」
「マルセル様といつのまに仲良くなったのよ⁉︎」
「てか、あんたヴィクトル団長はどうしたのよ!」
「贈り物ってどういうこと? まさかマルセル様と付き合ってるとか言わないでしょうね?」
口々に発せられる疑問と嫉妬の言葉にイザベラは必死に説明をする。贈り物はイザベラにではなく婚約者宛だと言うと別の意味で悲鳴が上がる。
「詳しく話すまで離しませんから」
いつの間にか集まった令嬢達にも詰められる。イザベラを中心とした女性陣の集団はそのまま場所を移動し、マルセルについて知っていることを話すまでは解放されそうになかった。