相談にのる
「俺はどうすれば良いと思う?」
マルセルの隠れ家(と呼ぶことにした)で、イザベラとジノそしてマルセルの三人はテーブルを囲んで作戦会議を開いていた。
ジノがマルセルを殴って気絶させたあと、イザベラは勝手に家の中を漁り包帯や消毒液の救急セットを探し出した。それを使い、ジノがイザベラの腕に湿布を貼り包帯を巻いてくれた。マルセルにも応急処置として殴った箇所を冷やしたが、徐々に腫れてしまった。よりにも寄って顔を殴りつけたジノは清々したのか、意識を取り戻したマルセルに優しく接している。イザベラはまさか顔を殴るとは思っておらず申し訳なくなりマルセルに謝ったのだが、殴られた本人は「良くあることだから」とへらりと笑っていて、それはそれで怖い。そんな日常的に殴られているのかと気になってしまう。が、巻き込まれたくないので詳しくは聞かないことにして、かわりに質問されたことを確認してみる。
「どうすれば、と言うのは具体的に?」
「リリに好かれる方法だよ。婚約はしたけれどリリが俺のことを何とも思ってないのは知っている。だから少しでも俺のことを好きになってもらうにはどうしたら良いのかって話」
「そうね。まずは話をすることが大切じゃないかしら」
「それが出来てたら苦労はしてない」
たしかに。リリを前にしたマルセルは美しい彫刻のように押し黙っていて、必要最低限の返答しかしていなかった。
「じゃあ贈り物をするのはどう?」
「贈り物か。それなら出来るかも」
「贈り物って言ったって、何贈るんだ?」
「そうだね。何が良いと思う?」
なぜか二人してイザベラの方を見ている。それくらい自分で考えて欲しい。
「そうね。婚約者ならドレスやアクセサリーとかを贈ったりするんじゃないかしら」
「ドレスねぇ」
一般的な意見を言ったのだが、ジノは意味ありげにこちらを見てくる。
「なにか言いたげね?」
「いや、別に」
睨みつけると、あさっての方向を向いてしまう。
「ドレスか。ちなみにリリはどのようなドレスを好むと思う?」
「そうねぇ」
そう言われると困ってしまう。リリの家は隣国との戦争の際に、戦地となった。そのため草木も残らず、人も失ってしまい、今でも復興に時間が掛かっている。以前は普通の領地で社交の場にも出ていたらしい。しかしイザベラがリリと知り合ったのは戦後のため、ドレスを着ているリリを見たことはない。ましてや、どのようなドレスが好みかも分からない。
「二人は仲が良いから知っているだろう。リリの好みを教えて欲しい」
マルセルに期待の眼差しを向けられ、知らないとは言いづらい。それにジノが小馬鹿にしたような顔で笑っているのが癪にさわる。
「えっと……赤いドレスが良いと思うわ。暗めの赤ではなく燃えるような真っ赤なやつ。それにフリルがついているのも良いわね。あとドレスの裾はふんわりと広がって可愛らしいのが好きだと思う」
「そうか! ありがとう。参考にするよ」
純粋な感謝を受けて罪悪感に苛まれる。今言ったのはリリの好みではなく、イザベラの好みだ。
「ええ……でももし好みが変わっていたらごめんなさい」
「いや、俺では何が良いかも全く分からないから、助かるよ。本当にありがとう。それじゃあさっそく贈り物を用意しないとね」
「健闘を祈る」
「また何かあれば相談にのるわ」
「ありがとう。君たちのおかげでなんとかなりそうだよ」
女性なら惚れてしまうような爽やかだが甘さの残る笑顔を向けられる。
「そういう顔はリリにしなさいよ」
「出来たら苦労しないよ」
庇護欲をそそられるような物憂げな顔をされると、あまり強く言えない。
「それもそうね」
「俺もイザベラ達のような仲の良い恋人同士になれるように頑張るよ」
「そ、そう⁉︎」
急な矛先に返答する声が裏返る。ジノなんかは思いっきり咳きこんでいる。
「なにかおかしなことでも言ったかな?」
「いいえっ、私達もそろそろ帰らないと」
目が泳ぎそうになるのを必死に耐え、ボロが出そうになる前にさっさと帰ることにする。いまだに咳きこんでいるジノを引っ張ってマルセルの隠れ家を後にする。
イザベラ達が去ったあと、思案げな顔をしていたマルセルは
「どう見てもジノの片想いだよねぇ」
そう呟くのだった。