お願いした結果
気がつくとイザベラはベッドの上に寝かされていた。カーテンが引かれ外の様子は分からないが、多分医務室だろう。何度か騎士団の仲間を医務室に運んだことがあるので、なんとなく見覚えがある。それに微かに薬品の匂いがする。なんで医務室で寝ているのか思い出そうとして、嫌な記憶が甦ると同時にリリの問題も思い出す。イザベラの想いが筒抜けだったのは大問題でいっそのこと忘れてしまいたいがそれは後回しにする。今はリリの婚約破棄の方が先だ。せっかくジノに協力して貰えそうだったのに、また一から頼み込まなくてはいけない。急いでお願いをしに行こうとカーテンを開けると、そこにはジノが椅子に座っていた。
「え? なんでいるの?」
思わず声を掛けるが反応はない。よく見るとジノは腕組みをしたまま眠っているようだ。医務室の壁に掛かっている時計を見るとすでに夜遅い時間になっている。まさか今までずっと医務室にいたのかと思ってジノを見つめているともぞもぞと動いて目が合う。
「おわっ。なんだよ起きたなら声掛けろよな」
余程驚いたのかジノは椅子から落ちそうになる。
「声なら掛けたけど、よく眠っていて起きなかったでしょ」
「ったく。急に倒れるから驚いただろ」
そう言えば、倒れたにしてはどこも痛くないなと思い、体を確認する。
「俺がとっさに抱えたから、どこも打ってねぇよ。医者にも確認してもらったけど問題ないって言ってたぞ」
わざわざ医者を呼んでくれたらしい。医務室に薬師はいるが基本医者はいない。騎士団員の殆どが切り傷や打撲などの怪我の処置で終わるからだ。もし頭を強く打ったり診察が必要な場合は少し離れた城内まで医者を呼びに行かないといけない。
「……ありがとう」
素直にお礼を言う。
「やっぱり頭打ったか?」
人が素直にお礼を言っているのに失礼すぎる。しかし今回は迷惑を掛けてしまったため何も言い返さないでおく。
「それと、頼まれたアレ。引き受けるからな」
一瞬何のことか分からなかったが、恋人のふりだということに遅れて気が付く。
「本当⁉︎ 助か……る」
思わず立ち上がろうとすると目眩に襲われベッドに座り込む。
「ばか。急に立ち上がるな。しばらく安静だとよ」
「でもそれじゃあ困る」
「しばらくここに居てやるから、横になりながらでも詳しい事情は話せるだろ」
それだとジノが休めないのではと疑問に思うが、大切な友達のためにジノの言葉に甘えることにする。イザベラは横になり、リリと婚約者についてジノに説明を始めた。