決闘を申し込む
走って行った先には第一騎士団の人達がいた。マルセルのまわりを囲んでいた令嬢たちは、第一騎士団に目移りをしたのか少なくなっている。これなら話しかけやすい。チャンスだと思ったイザベラはマルセルの目の前に立ち。
「マルセル・バラージュ‼︎ 決闘を申込むわ」
仁王立ちをしていきなりの宣言したイザベラにマルセルは目を丸くしたがすぐに柔らかな笑みを浮かべる。
「いいよ。なにを賭ければ良いのかな?」
「リリとの婚約」
「へぇ」
柔らかかった目もとが鋭くなる。
「私が勝ったら婚約破棄してもらう」
「それは穏やかじゃないね。そもそも当事者の了解は得ているのかな?」
「私に負ける程度なら大切な友だちを任せることなんか出来ないわ!」
「答えになってないよ。でも負けるつもりはないけど、俺が勝ったらイザベラはどうするの?」
「婚約を認めるわ」
「それはフェアじゃないんじゃない?」
「なら何がいいのよ?」
「んー、ならイザベラも婚約するってのはどう?」
「誰と?」
「相手は誰でも良いよ。どうする?」
「分かったわ」
「いいの? それとも相手がいるのかな」
「いないわよ。けど負けるつもりはないわ」
「そう」
マルセルはなにやら楽しそうだ。騒ぎを聞きつけた人達が集まって来ている。
「ここじゃ手狭だから場所を変えましょ」
「わかった」
二人して訓練場へと足を向ける。辿り着いた先ではジノとリリが待ち構えていた。
「話は聞いた」
「邪魔しないでよね」
「しねぇよ。ただし、決闘するのはマルセルと俺だ」
「なっ、なんでよ!」
「なんでじゃねぇ。そんなボロボロでまともに戦えると思ってんのか?」
「これは訓練中に少し倒れただけで、問題ないわよ」
「俺はイザベラでもジノでもどちらでも構わないけど?」
「だとよ。イザベラは休んどけ。リリが心配してたぞ」
ジノの隣を見ると不安そうな顔をしたリリと目が合う。
「私のせいで二人に怪我をして欲しくありません」
そう言われるとイザベラは弱い。
「……でも」
「いいから俺に任せとけ。悪いようにはしない」
「イザベラ、ジノさんに任せましょう」
ジノとリリに言われ、しぶしぶ頷く。
「よし、じゃあ決まりだな」
「それで、ジノは何を賭ける?」
「ここはシンプルにいこうぜ! 負けたらその場で好きな相手に告白するってのどうだ?」
それじゃあ決闘の意味がない。そう叫ぼうとしたが、すぐにマルセルの声がしてタイミングを失う。
「いいね。俺は構わないけど、ジノはそれでいいのかな?」
「構わない。負ける気はないからな」
「へぇ。面白い」
「誰か審判を頼めるか?」
ジノがあたりを見回すと、周りにいた騎士団員の一人が手を挙げる。
「じゃあ始めようか」
二人は互いに距離を取り剣を抜く。審判の合図とともに二人は同時に距離を詰める。真正面から剣と剣がぶつかるかと思った瞬間、マルセルは紙一重でジノの切先を避ける。勢い余ったジノがたたらを踏むのを見逃さずに剣を向けるが、ジノは片足を軸にして周り剣で受け止める。
「やっぱり副隊長の名は伊達じゃないね」
「そっちこそ、思ったよりやるみたいだな」
「まあね」
「なら次は容赦しないからな」
「その言い方だと手加減してくれてたってことかな」
「さあな」
合わさった剣を払うと二人は距離を取る。お互いに間合いをはかりながら相手の動きを見逃さないように睨みつけ――先にマルセルが動く。