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イザベラの気持ち

 イザベラがいくら悩もうが、もやもやとした気持ちを持て余していようが騎士団の訓練は通常どおり行われる。普段から考えるよりも先に体が動くイザベラだが、今日は一段とその傾向が激しい。ジノのことを考えないようにしようとすればするほど、考えてしまいその考えを払拭するためにとにかく体を動かしているせいでいつもよりも単調な動きが多くなる。


「はい、そこまで!」


 相手の攻撃をまともに受けて倒れ込んだイザベラに騎士仲間は手を差し伸べる。


「今日はどうしたの? いつにもまして攻撃が読みやすいんだけど」

「……ちょっとね」


 イザベラ自身、自分のことが分からなくて曖昧に笑って返事をする。

 

「なんか悩み事でもあるの?」

「私もよく分からなくて。ずっと同じ人のことばかり考えちゃって」


 軽く言ったつもりだったが相手は大げさなほど目を丸くする。

 

「イザベラでもそういうことってあるんだ」

「私でもってどういう意味よ」

「それは恋よ!」

「へ? こい?」

「そう! 恋! イザベラもついに恋する日が来たのね」

「な! なんであいつなんか! そんなんじゃないわよ!」

「相手ってヴィクトル団長じゃないの?」

「へ?」


 ヴィクトル団長のことなど考えもしていなかった。


「もしかして……相手って」


 騎士仲間がなにか言おうとした時、視界のすみに令嬢達がこそこそと宿舎裏へと向かうのが見える。


「今のってイザベラの友達じゃない?」

「なんでリリがこんなところに?」


 令嬢達に囲まれていて分かりづらかったが、短い髪でブロンドの令嬢はリリくらいしかいない。しかしこの時間だとリリは王城で仕事をしているはずだ。


「なんかやばそうじゃない」

「ごめん、ちょっと様子見てくる!」

「ちょっ、イザベラ! 一人で行かないほうが良いよっ」


 仲間の声を無視して令嬢達が消えた方へと走る。しかしすでに人の気配はない。迷っている暇はないので、とりあえず真っ直ぐに突き進むと少し行った先の物陰から声が聞こえてくる。


「あんた、マルセル様の婚約者だからって調子乗ってんじゃないわよ」

「そもそも、身分をわきまえたらどうかしら?」

「なんとか言いなさいよ」

「言いたいことはそれだけですか? なら時間の無駄なので私は戻ります」

「あなた、何様のつもりよっ」


 令嬢が手を挙げる。イザベラはとっさに動き、リリと令嬢の間に入るとバチンと痛そうな音が鳴る。イザベラは叩かれた頬に手を当て相手を睨む。


「なっ、邪魔しないでくださる?」


 いきなり現れたイザベラに令嬢は焦った様子だ。

 

「こんなところで何してるの?」

「貴方には関係ないでしょ」

「関係あるわ。リリは私の友達なの」


 そう言うと令嬢たちの態度が焦りから余裕のある態度へと変わる。

 

「あら、そう。なら、お友達に言ってあげて。男爵風情が伯爵家の婚約者など務まるはずもないと」

「それに、あなたも伯爵家でしょ? 侯爵家の私に楯突いてただじゃすまないけど良いのかしら?」

「……」

「やだこわぁい。そんなに睨んでも何もないわよ」


 騎士団にいると爵位に関係なく実力主義のため忘れがちだが貴族間では位の高さが物を言う。下手に手を出そうものなら家に迷惑が掛かる。


「一応、貴族のマナーはあるのね。安心したわ」

「なら、私達が用があるのは後ろにいるお嬢さんなの。どいて頂けるかしら?」

「イザベラ、私は大丈夫です」


 リリに囁かれるが、ここでどけば何をされるか分かったものではない。リリにはこれ以上辛い目に遭って欲しくない。しかしイザベラではどうすることも出来ない。仲間が誰か人を呼んでくれていると良いのだけれど。



「聞こえなかったかしら? そこを――」


「なんの話かな? 楽しそうだね」


 場違いな甘さを含んだ声がする。声のするほうを見るとやたらとキラキラした雰囲気を漂わせたマルセルがいた。


「マルセルさま!」

「これは、その、この令嬢にマナーを教えていたところですわ」

「こんなところで会えるとは思わず、運命のようですわ」


 途端に媚びるような声でうっとりとマルセルを見る令嬢達に、イザベラは虫けらを見るような目になる。


「こんなところで立ち話もなんだから、あっちで話さないかな?」

「もちろんですわ」

「ぜひお話をしたいと思っておりました」


 しかしマルセルは気にしていないようで、令嬢達と楽しそうに行ってしまう。


「なんなのよあれ」


 マルセル達が見えなくなると、嫌悪感が口をつく。


「大丈夫ですか?」

「私は大丈夫よ。それよりリリは何もされなかった?」

「イザベラが来てくれたので何もされてません」

「良かった」


 安堵で力が抜ける。


「それより、イザベラの手当てをしましょう」


 リリは叩かれた頬を心配そうに見ている。


「これくらい大丈夫よ! 訓練に比べたらなんてことないわ」

「いえ、きちんと手当てしてください」


 いつになく真剣な表情のリリに圧倒され、大人しく医務室へと向かうことにする。


「それにしても、マルセルはなんなの」

「マルセルがどうかしましたか?」

「リリが囲まれているっていうのに、令嬢達と楽しそうにどっか行くなんて信じらんない。やっぱり婚約は考えなおしたほうがいいんじゃないかしら」

「あれは、マルセルなりの精一杯だと思います。現に私たちは何事もなく解放されましたし」

「そもそもマルセルがリリをもっと大切にしていたら、こんなことにはならなかったんじゃない⁉︎」

「そうでしょうか」

「そうよ。ちょっとマルセルに直談判してくる」


 言うが早いか、振り返ると来た道を戻る。

 

「え? イザベラどちらへ?」


 イザベラはマルセルと令嬢たちが向かった方へと走って行く。

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