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作戦会議

マルセルの隠れ家にイザベラとジノ、そしてマルセルという三人が集まっている。イザベラとジノは椅子に座りマルセルがお茶を淹れているのを物珍しそうに見ている。


「それで? なぜ二人がここにいるのかな?」

「他に三人で集まれる場所がないのよ」

「特にマルセルは目立つからな」


 悪気なく二人は言ってのける。


「そうだとしても、相談なしに来ないでくれるかな」

「大丈夫よ。マルセルが居なければ帰るから。さすがに勝手に入ったりしないわ」

「誰にもつけられてないから安心しろ」

「なにを言っても無駄そうだね」

「諦めろ、イザベラは思い込んだら止められないから」

「そうだろうね」

「ちょっとどういう意味よ!」


 二人の意味ありげな会話に立ち上がる。

 

「それで今日はなんの用?」

「それは」


 冷静なマルセルに勢いを削がれ、大人しく椅子に座る。


「リリの贈り物についてだけど」

「ああ、ドレスは好みじゃなかったみたいだね」


 視線を落としてしょんぼりとするマルセルに罪悪感が募る。

 

「……そうなの。ごめんなさい」

「いやイザベラが謝る必要はないよ。本当なら俺が自分で考えなきゃいけなかったんだから」

「でも、私もしっかり考えて答えるべきだった。だから次は大丈夫‼︎」

「なにか思い当たることがあるのかい?」

「ええ」


 マルセルの目をしっかりと見据えて頷く。前回は一般論というかイザベラの好みを反映してしまったが、今回はリリのことをしっかり考えてきた。


「リリの領地は今とても困っているわ」

「そうだね。戦争のせいで人も物資も足りていない。リリが遠くの親戚を頼って出稼ぎに来ているくらいだ」

「そこよ! その状況でリリが婚約した。なぜだと思う?」

「それは……俺が婚約を申込んだから?」

「もちろんそれもあるけど、マルセルの存在はリリにとっても渡りに船だったのよ」

「もしかして、リリも俺のことが好きだとか⁉︎」

「それはないわ」

「だよね」


 渇いた笑いをするマルセルには悪いが本当のことだ。リリは好き嫌いで物事を決めない。


「本来ならリリは婚約出来るような状況じゃなかった。貴族の婚約は家同士の繋がりよ。領地の経営が上手くいっていないのに、婚約を申込む人はいないわ」


 リリの家の状況を簡単に話すが、ここまでは分かっているだろうから詳しい説明はしない。マルセルとジノも知っているというように頷く。

 

 「それでも婚約の申入れがあったということは領地の状況を知らない能天気な奴か、そのくらい気にならない程の金持ちかどちらかよ」

「でも俺はどちらでもない」

「だからリリはマルセルに期待しているんじゃないかしら?」

「リリが俺に期待を?」

「ええ、どう転んだって良いことなんかあるはずのない婚約よ。それなのに伯爵家であるマルセルから婚約を申し込まれたら、さすがのリリでも少しは期待すると思うの」

「そうだといいんだけど」 

「きっとしているわ! だからマルセルがすることは、この期待を裏切らないこと。そして領地の復興に伴う支援や援助を怠らないことがリリに好かれるために必要だと思うわ」

「そうか。それなら俺にも出来そうだ。復興に必要な物資や人員、人脈作りなんかは手伝える」

「領地経営が安定してきたら、あとはリリに気に入られればいいだけよ」

「それが一番難しいけどね。でも嫌われないよう頑張るよ。相談にのってくれてありがとう」


 今までの含むような笑顔とは違い、屈託のない完璧な笑みで言われ、思わずドキリとする。


「お礼なんて要らないわよ。それにリリのためでもあるんだから」

「そうだね。でも言わせて欲しい。ありがとう」


 ふわりと柔らかな笑みを向けられる。


「そういう顔はリリにしてよ」

「出来たら苦労しないよ」


 途端に情けなくなるマルセルにイザベラは吹きだす。


「じゃあ俺は色々用意したいから行くけど、二人はゆっくりしていって。何もないボロ屋で悪いけど」


 慌ただしくマルセルは出て行く。残されたイザベラはせっかくなので淹れてもらったお茶を頂いてから出ることにする。


「よく考えたじゃねぇか」

「べつにジノに言われたからじゃないわよ。リリに相談されたの。ドレスが届いて困るって」


 素直にお礼を言えば良かったのに、いつものように張り合ってしまう。


「そうか」


 普段なら軽口のひとつやふたつ言われるのに、何も言ってこないジノを不思議に思う。


「なんか変な物でも食べた?」

「なんだよそれ」

「いや、だって今日はなんか大人しいからさ。体調でも悪いのかなって」

「心配するなら言い方があるだろ」

「べつに心配してるわけじゃないわよ」

「じゃあなんだよ?」

「ジノが静かだと調子くるうな……と思って」

「まあ、そろそろやめどきだしな」

「え? なにを?」

「恋人のふり」


 思ってもみなかった言葉に周りの音が聞こえなくなる。


「――って聞いてるか?」

「ごめん、聞いてなかった」

「だから婚約破棄させないなら、もう恋人のふりしなくても良いだろ」

「そ、そうだね」

「ここでふりは終わりな。それで――」

「ご、ごめん!」


 なにか言いかけたジノを遮りガタリと大きな音を立てて立ち上がる。


「私もそろそろ帰らなきゃ! いままでありがとう。もうふりはしなくていいから! そもそもジノと私じゃ恋人に見えないよね。なんか無理矢理頼んでごめんね。じゃあね」


 先を聞きたくなくて早口で捲し立てる。

 

「は? おいっ待てよ」


 ジノの静止する声に構わず扉を力まかせに開けて外へ出る。ここまで来るのに使った馬車はジノの家のものだ。どこかで乗合い馬車を見つけなければ。しかし何かを考えるにはこんがらがって上手く思考が働かない。慣れない場所で馬車を探している間にジノに追いつかれたらと思うと気が気ではなく、そのまま屋敷の方へと走って行く。

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