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贈り物

 イザベラはへとへとになって屋敷へと辿り着く。すでに日は落ちあたりは薄暗い。騎士仲間と令嬢達から質問攻めに合い、なんとか解放された頃には遅い時間になっていた。というよりは解放してもらったという方が正しい。イザベラは無言で隣を歩くジノを見る。

 マルセルについて根掘り葉掘り聞かれても友だちのリリのことを勝手に喋るわけにはいかず、言葉を濁してやり過ごすしかなかった。困っていたイザベラを連れ出してくれたのはジノだ。話があると言われて出てきたは良いが何も言わないので、実際は何も用事はないと勝手に判断して令嬢達に気が付かれる前に帰ることにした。仲間にはこっそり帰ることを伝えたのだが、なぜか快く送り出された。もう少し引き留められるかと思っていたので拍子抜けしてしまった。


「なにか言いたいことあるなら、言ったらどうなの?」

「ああ」


 なぜか屋敷まで着いてきたジノを睨みつける。


「なにもないなら帰るわ。じゃあね」

「ちょっと待てっ」


 屋敷へ向かおうとすると、引き留められる。


「あー、なんだ、その」


 街灯に照らされたジノの頬はほんのりと紅く染まっている。合同訓練で疲れているのだろうか。それか騎士団で打ち上げでもあったのだろう。第二騎士団は命がけの任務になることも多い。そのせいで他の騎士団より多くかかるストレスを発散させるために飲みに行く頻度も高いと聞く。


「もしかして酔ってる?」

「はっ⁉︎ んなわけねーだろ」

「じゃあなに? もう帰って休みたいんだけど」

「あれだ、悪かったな」

「え? なにが?」


 なにを謝っているのか分からない。なにかされただろうか。心当たりはなくはない。


「応援」

「おうえん?」

「してくれただろ」


 応援はした。したけれど、あれはマルセルがいたからしたのであって本当はヴィクトル団長を応援したかった。


「せっかくしてくれたのに負けたから……。悪かったなって」

「え、もしかして、それを言いたかったの?」

「一応言っておこうと思っただけだ」


 あんな適当な応援だったのに謝られるとは思ってもみなかった。なんだかとても罪悪感が募る。しかし本当のことなど言えるはずがない。


「い、いいの! 気にしないで! それじゃあ、もう遅いしおやすみっ」

「お、おう」


 早口で言うと急いで屋敷の中へと入る。恋人のふりをし始めてから今までと違うジノの一面を知っていき調子が狂う。これまで喧嘩ばかりしていたのにこんな事で謝られるとは思ってもみなかった。とりあえず落ち着こうと深呼吸をしながら部屋へと進む。そういえば仲間達から解放してくれたお礼を言っていなかったことに気がつく。まあ明日になれば顔を合わすだろうから、その時にでも言おうと思いながら部屋へと入り絶句する。


「……な、に? これ?」


 部屋には見慣れない新しいドレスが飾ってあった。燃えるような真っ赤なドレスにはふんだんにフリルがついている。ドレスの裾はふんわりと広がって可愛らしいのだが、見た瞬間に固まる。


「これって……私がマルセルに言ったドレスよね?」


 リリにドレスを贈ると良いとアドバイスをしたが、なぜイザベラのところにあるのだろう。しかもアドバイス通りのドレスが。マルセルが「贈り物の感想を教えて」と言っていたのはこのことなのか。てっきりリリから聞き出せということだと思っていたが違ったのだろうか。イザベラは混乱する頭でドレスを眺める。眺めていてもなにも分からないので今度マルセルに会ったら聞いてみることにする。

 明日も訓練で朝早いのでさっさと寝る支度をすましベッドへ潜るとすぐに深い眠りへと誘われていく。

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