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友だちの婚約者

「は? 結婚する!!?」

 

 リリの結婚すると言う言葉に思わず大きな声を出してしまう。カフェにいた数組の客が何事かとこちらを見ているが今は気にしている余裕はない。

 

「結婚じゃなくて、婚約です」


 淡々と訂正するリリは貴族としては珍しく、肩より上で揃えたブロンドの髪をしており、お人形のようにパッチリとした目と可愛らしい顔にとてもよく似合っている。

 

「で? 相手は誰なの?」

「相手はマルセル・バラージュ伯爵という方です」

 

 その名前を聞いてイザベラは卒倒しそうになる。よりによってマルセル・バラージュが相手だとは思わなかった。貴族や、社交の場に出たことのある者なら誰でも一度は聞いたことのある名前だ。彼の顔立ちは一度見たら忘れられないくらい整っているらしい。笑顔を向けられた女性は彼のことを忘れられなくなり、他のことは手に付かない程に魅了されてしまうとの噂だ。実際に何人もの女性を虜にし、婚約者と別れる女性までいると聞く。女性が婚約破棄をするというのはとても醜聞が悪い。そこまでさせておきながら当人は、そんな気はなかったと何人もの女性を振っては、毎日のように新たな犠牲者を増やしているらしい。大切な友達を、そんな奴と婚約させるわけにはいかない。

 

「絶対にやめた方がいいわ!」

「でももうすでに両家で婚約の取決めをしてしまいましたから、婚約を破棄するのは難しいと思います」

「てか、なんでリリなの⁉︎ 相手は伯爵家じゃない。もっと身分の釣り合った家があるでしょう」

 

 リリの家は男爵家だ。伯爵家とでは家格が釣り合わない。

 

「それは私も分かりませんが、伯爵家から婚約の話があったみたいです」

「もしかしたら何かやましいことがあって、リリを利用しようとしてるんじゃないでしょうね」

「やましいこととは?」

「たとえばの話よ。男爵家が伯爵家に何も言えないのを良いことにお金を無心するとか、愛人を囲いまくるとか」

 友達の婚約に納得のいかないイザベラは友達の婚約を破棄させるために出鱈目なことを言う。

 

「それなら大丈夫じゃないですか? 私の家は前の戦争の影響で貧乏ですし、貴族なら愛人がいても問題にはなりません」

「そうだけど、何人も愛人がいたら嫌じゃない?」

「恋人同士なら嫌ですけれど、政略結婚なら良くある話ですよ」

 

 可愛い見た目に反して、割と現実的な友達の言葉にイザベラは悲しくなる。

 

「そうかも知れないけど、愛人はいない方が絶対に良いわ。出来るなら自分だけを愛してくれる人と結婚したいじゃない」

「たしかに自分だけをと言うのは理想ですが、世継ぎの問題もあるので優先順位を間違えなければ愛人は何人いても構いません。理想じゃ生活は出来ませんから」

「そうなんだけどさ……」

 

 友達の言うことも分かる。リリのように土地が枯れて領民の減った領地でやりくりしていくのは大変なのだろう。昔は夢見がちだった少女が現実的にならざるを得なかったのも分かる。分かるのだがイザベラはどうしても自分だけを見てくれる人が良いと思ってしまう。今まで何不自由なく暮らして来たイザベラは、リリと違ってどうしても甘い考えを捨てきれないのだ。

 

「私はそう思うだけなので、イザベラは想いあった相手と結婚して下さい。今回の婚約も伯爵家から色々援助してくれるという話ですので、悪いことばかりではないですよ」

 

 儚げに笑う友達が無理をしているわけではないのは分かっているのだが、どうしても今回の婚約に納得のいかないイザベラはある決心をする。

 

「決めた!」

 

 急に立ち上がると、友達は驚いた顔でイザベラを見つめている。

 

「私が婚約相手の弱みを握るわ! そして納得のいく婚約破棄をさせる。そうすればリリは悪名高い伯爵のもとに嫁がなくてすむ」

 

 我ながらなんていいアイデアだろうと思い友達を見るが、あまり乗り気そうではない。

 

「そんなことをして男爵家が潰れてしまっては困ります」

「大丈夫よ! 私が上手くやるから。それに私も一応は伯爵家の一員だから、私には無茶なことはしてこないはずよ」

「いや、でもイザベラに何かあったら大変です」

 

どうやらイザベラ自身のことも心配してくれているリリに感激する。騎士の家系に産まれたイザベラは幼い頃からずっと特訓を受けていて、今は女性騎士として活躍している。そのため、そんじょそこらの男性よりも強いという自負がある。

 

「私のことは大丈夫。だてに鍛えていないから」

「そうかも知れませんが、一人では危険です」

 

 たしかに鍛えているとは言え、相手が複数いたら分が悪い。それなら他にも弱みを握る相手が必要だ。

 

「分かったわ。もう一人助っ人をお願いする」

 

 真剣に考えて言ったイザベラに「そういうことではなくて、危険なことは止めて下さい」と言うリリの言葉はイザベラの耳には届いていなかった。

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